第32話 久しぶり
新商品が並んだ自販機のラインナップに、歩き慣れた駅前の商店街。今もブカブカな萌え袖セーターと綺麗な手。思い通りとはいかないけど、微妙に変わりゆく四月最後の月曜日。
そんな些細な変化に心を躍らせ、僕は軽やかに歩みを続ける。
「……お〜い、悠人〜!」
事前に待ち合わせしていた悠人を見つけ、声をかけながら近づく。
「ん? ……おう、輝夜! おは……」
悠人は僕の顔を見て、口をパクパクさせて驚いている。
「どうしたの悠人? そんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔して……僕の後ろ、まさか幽霊でもいるの?」
「……いやいやいやいや、お前! 本当に俺の知ってる星川輝夜か⁉︎」
「そうだよ……正真正銘、石川悠人の幼馴染……星川輝夜だよ」
「ならそれ……どうしたんだよ」
「ん? ああ、これ? いいでしょ〜、僕も今日からリュックで通学するんだ〜」
「そっちじゃねーよ⁉︎ なんだ? そのエアリーなヘアスタイルは!」
「……冗談だよ。どう、似合う……かな?」
気恥ずかしさを隠すように、僕はくるっと一回転。
「に、似合ってるけど……い、いいのか? 髪、切って……」
「うん。色々と決心が付いたんだ。これからの僕が、生きていく上で大切にしたいものを迎えに行く為に」
「……そうか。お前が決めたことなら、俺はその決心を祝うよ」
「ははっ、ありがとう。あのね、実は僕……この姿、最初は悠人に見てほしかったんだ。今までたくさん、迷惑をかけたからさ……お礼とは言えないけど、初めては悠人にあげたかった」
「ゔっ……お、お前ぇ……それはさすがにダメだろ~」
膝から崩れ落ちた悠人は、自分の頭をアスファルトに擦りつける。
「な、なにしてるの悠人? や、やめて、怪我するって、あと制服汚れちゃうから」
悠人をゆっくり起き上がらせると、彼は「輝夜は男、輝夜は男」とリフレイン。
この反応、一体どうしたんだろう……僕、なんかやちゃったかな?
「……ふぅ……なあ、輝夜」
「ん、どうしたの?」
「えっと……まあなんだ……その、久しぶり」
悠人はどこか寂しそうで、それでも心から喜んでいるように、ふわりと微笑んだ。
「久しぶりって、大袈裟だなぁ……会えなかったの、たった四日だけじゃん」
「あれ、そうだったっけか? 俺からしたら、なんかずっと会えなかった気がするけどな。大体……期間で言えば七年ぐらいな」
「……ごめんね。長いこと待たせちゃって」
「気にすんなよ。ほら、早く学校行こうぜ」
「……うん、そうだね」
────細い横道に入ると、悠人は僕の髪について聞いてきた。
「にしても、よく似合ってるな、その髪型……パーマもかけたのか」
「うん、自然な感じになるよう少しだけね。まあ、咲夜が全部決めたから……名前とか、詳しい説明は上手くできないけど」
「へぇー。さすがは咲夜、お兄ちゃんのことになると人一倍気合入るからな。輝夜が一番映えるヘアスタイルを的確に選びやがった。けど、女っぽいのは一向に変わんないな」
「う~ん。まあ、本当はもっと切ろうと思ったけど……結局、胸のあたりまで残したんだ」
白状すると、最初は肩ぐらいまで切ってもらおうとしたが、美容師さんが『本当にいいの?』と脅してくるので日和った。まあ実際、過去を全て否定する必要もないと思い直したので、今となっては一番いい選択をしたと受け入れている。
「心残りというか、後ろ髪を引かれたのかな? 髪だけに」
「うわぁ、おもんな」
冷ややかに対応されて、洒落を言ったことに若干の後悔を覚えた。
「そうだ、輝夜……遥のことだけど」
「え? 遥ちゃんが、どうかしたの?」
「いやな、お前がいない間……ずっと心ここにあらずみたいな顔しててさ、かなり心配してそうだったから、朝は職員室に行って、元気な姿を見せてやれよ」
いくら風邪とはいえ、心配させたことには変わりない。
お詫びとして今度の誕生日、抱きついてほっぺにキスくらいは許してあげよう。
「……そうだね。遥ちゃん、喜んでくれるかな?」
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