#3 そのゲームの名は『旧支配者のシンフォニア』!

 真紅のドレスに白銀のボブカット。大きい目に紫水晶アメジストの瞳。年齢は十代半ばを想定。口元は常に弧を描き、笑顔を絶やさない。可愛さに全振りした容貌だ。


「うう……おっふ、マナちゃん尊いよぅ……!」


 犀芭マナ。私の最推しのVTuberだ。

 VTuberの第一人者的存在で、彼女がいなければ今日のVの世界ヴァーチャルはなかったと言っても過言ではない。その功績から彼女を慕う者は多い。登録者数は二〇〇万を優に超え、先の『ドラゴ●ボール』の例えで言うならフリー●第二形態よりも倍強い。


 私がVTuberという存在を知ったのも彼女がきっかけだ。彼女のお陰で私は新しい世界の扉を開けた。Vの世界ヴァーチャルを知っただけでなく、私自身もVの一員になろうと思えた。今や推しも随分と増えたけど、やっぱりマナちゃんは別格の存在だ。


『今日は皆にお知らせがあります! VTR、キュウ!』


 などと感慨深くなっているとマナちゃんが指パッチンした。

 直後、画面が切り替わる。映されたのは中世ヨーロッパの街並み。いや、中世ヨーロッパと和風を融合させた外観と言うべきか。そこかしこの看板に漢字が使われているのが見える。更には人外らしき種族の姿が映し出されていた。

 続いて映し出されたのは戦闘シーンだ。煌びやかな甲冑や豪奢なドレスに身を包んだ美男美女が戦っている。しかも、ただの戦いではなく炎や雷、不思議な光が飛び交っている。現実とは思えない光景――まさしくファンタジーの世界観だ。

 最後に『旧支配者のシンフォニア』のタイトルロゴがでかでかと映し出された。映像が終わると画面はマナちゃんが座っている部屋に戻された。


『とーいう訳で、この度! VRゲーム「旧支配者のシンフォニア」のリリースが決定しました! そしてこの犀芭マナが! 広報を担当する事になりました! いえーい!』

「VRゲーム……?」


 私の困惑を他所にマナちゃんは宣伝を続ける。


『さて、こちらのゲーム! 最大の特徴はなんと! VTuber優遇ゲームだという事です! 具体的には電脳空間サイバースペースに作成したVTuberのアバターをプレイヤーキャラクターとして使用出来るのです!』

「アバターを……PCプレイヤーキャラクターに!?」


 マナちゃん曰く、『旧支配者のシンフォニア』は電脳世界と連結しているのだという。だから、VTuberのアバターをこのVRゲームにそっくりそのまま持ってくる事が可能なのだ。

 それはつまり、VTuber本人が剣と魔法のファンタジー世界に参入するという事だ。自分の分身がファンタジー世界に転生すると言い換えても良い。


『要はですね、VTuberの皆にプレイ内容を配信して貰う事で宣伝にしようっていう魂胆でして。

 という訳で、リリースの前にテストプレイヤーを募集しています。上限は一〇〇〇人。既にVTuberとして活動している人は優先的に採用していくつもりです。詳細は配信の終わりに纏めてお知らせします。最後までお見逃しなく!』


 マナちゃんが順繰りにゲームの内容――世界観やシステムなどを説明していく。けれど、私は今のインパクトが凄過ぎて、彼女の話は半分も頭に入ってきていなかった。


「このゲームのプレイヤーになれれば皆に注目されるって事……?」


 これにチャンスかもしれない。

 登録者数を増やすにはまず誰かに注目されなければどうにもならない。流行のゲームをやったり、人気の歌を歌ったり、昔懐かしの物に手を出したりととにかく人の興味を引く事をするのが重要だ。

 マナちゃんが広報を担当するとなればこのゲームへの注目度は絶大だ。そこで活躍すれば、私を知る人間が増える。そうすれば、何割かは私に興味を持ってくれるかもしれない。その中には私のチャンネルを登録してくれる人もいるかもしれない。


「いや、それだけじゃないよコレ……! 他のVTuberの人達も招かれているっていうんなら、その人達の尊いてぇてぇシーンを直接見られるかもしれないって事じゃん!」


 もしかしたら、もしかしたらマナちゃんの御尊顔を生で拝める機会があるかもしれない。その可能性があるというだけでもこれは値千金だ。


「お、ふぉおおおおお……! 興奮してきた!」


 色んな意味でチャンスだ。これは応募せざるを得ない!

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