第11話 鳥ではナイ

コッケェェェェッ

キュコッ キュコッケェェェェッ



 コッコカトリス、通称コッコの大群がやってくる。


 日本の有名ファンタジーゲーム等に出てくる様な、人を乗せて走る感じの鳥だ。


 色は白くて太い足と嘴が黄色く、頭に紅色の飾り羽があり、丸っこい。ニワトリに似てると言われれば、そうかもと思わなくもない。

 色と飛ばないあたりが。


「生け取り一、素材三、素材は魔金持ち優先に」


 エステラの声に、ハラとヒラが領主館の窓から飛び出した。


 

 別の窓から身を乗り出して様子を見ていた、父のダーモットがつぶやく。

「うちの領地でコッコカトリスが発生するなんて……しかもこんな大量に……オスばか……り?」

「オスメスの区別って一目でわかるの?」

 気になって、マグダリーナは聞いた。

「メスはオスよりずっと小柄で、もっと丸いんです。過去に目撃されたのは、辺境伯領のみでした。」

 ダーモットの代わりにアンソニーが答える。


 辺境伯領は隣国の境にある領地で、ショウネシー領の辺境ど田舎とは意味が違う辺境だ。

 国一番魔獣の出没が多く危険な土地だが、陸路では外国との唯一の出入り口でもあり、賑わっている。


 窓の外を見ると、土煙と羽根が舞い上がる。その中で、二匹のスライムがチカチカと流星のように光りながら素早く縦横無尽に動いてるのが、かろうじてわかった。


 時折コッコの口から火が噴き出したのも見える。


(あんなのに襲われたら、ひとたまりもないわ……)


「あいつら火を噴くんですね……」

 ケーレブも呆然として言った。

 ダーモットが説明する。

「コッコカトリスは一見すると鳥型だけど、実は竜種でとても貴重なんだよ。オスは力も魔力も強く、騎獣にも馬車を引かせるのにもいいし、メスの卵はエリクサーの材料にもなる」

「それなんですけど、魔金は全部こっちで貰ってもいいですか?」


 エステラの質問に、ダーモットは頷いた。


「それはもちろん、君のスライムが討伐してるのだから、素材は全部君のものだよ」


「魔金って何?」

 兎にも角にも知らない事ばかりで、マグダリーナは目を白黒させた。

 その様子に、ダーモットが答える。

「コッコカトリスは黄金が大好きで、金を見つけると飲み込んでお腹に溜め込むんだ。それである程度の大きさや量になると、吐き出す。その金は魔力を多く含んで、魔力を通しやすい、魔導具なんかの高級素材になるんだよ」


 なるほど、魔導具作りの好きなエステラには魅力的な素材というわけだ。



「エステラー、終わったの」

 ハラが戻って来て声をかける。


「よし、じゃあ行こうかトニー」

「はい?」


 突然呼ばれて、アンソニーは戸惑った。


「テイムしに」

「コッコカトリス……を?」


 エステラはイイ顔で笑った。




◇◇◇




 ヒラの魔法で動きを封じられたコッコカトリス(オス)は、およそ二十体。


 キュココケェェェと群れのリーダーらしき個体が、威嚇の声をあげる。


 マグダリーナが腕輪の魔導具で鑑定魔法を発動させると「キングコッコカトリス あと少しでエンペラーコッコカトリスに進化」と表示された。

 コッコカトリスの上位種らしい。



 アンソニーの額に手を翳して、エステラが魔獣のテイムを伝授する。

 エステラ達の魔法の教え方は、脳と身体に直接知識と経験を流し込む方法で、魔法の使い方は師で違うと言っていた意味がよくわかった。


 ダーモットが驚いた顔をしているので、エステラのやり方はかなり珍しいんだろうと思う。


「どう? できそう?」

「……はい、やってみます」


 息を整え、アンソニーはコッコカトリス(オス)の集団に手を翳す。


「テイム!」


 コッコ達の身体が青白い光に包まれる。


 やがてシュワっと光がコッコ(オス)たちの身体に入っていった。そうやって魔法使いの魔力を魔獣が受け入れたら、従魔契約が完了だ。


 ふんっと鼻息が聞こえた途端、リーダーの一羽を包んでいた光が弾け飛んだ。

 テイムを拒まれたのだ。


「……っ」

 アンソニーは焦ったようすを見せたが、エステラは余裕の顔で大丈夫だと言った。


「他のコッコは全部テイムに成功してるから、上出来よ。あれは素材にしちゃいましょ」


『待て! 待て待て』


 エステラの無慈悲な言葉に、コッコリーダーは慌てて叫んだ。


「「「「しゃべった……!!」」」」


 エステラとスライム以外の全員が、呆然とコッコリーダーを見つめる。


『左様、我は人語を解する強くて優秀な上位種なるぞ。いくらなんでもそこなトサカの黄色い小僧っこなどに服従したりはせぬ』


 他のコッコカトリス(オス)より一回り立派な体格をした、コッコカトリスのリーダーは、やけに人くさい仕草をしながら、アンソニーを見下した。


「トサカの黄色い…」

 アンソニーは自分の金髪をひっぱって視界に入れ、困った顔をした。


「じゃあやっぱり素材ね」

 エステラの言葉に、ヒラがやるぅ? やっちゃう? と、にゅっと腕を伸ばしてふるふるする。

 イケスラパウダーがキランと弾けた。


『そうではない! そうではない! そなただ! そなたは女神の森の主であろう! そなたなら、我の主人に相応しい』


 エステラは自分を指差した。

 コッコリーダーは鷹揚に頷いた。


「えー、転移魔法があるから騎獣もいらないし、私は特に必要ないから」

『む、乗るだけが我の利点ではあるまい! この愛らしくもふもふした肢体を存分に愛でて良いのだぞ!』


 コッコリーダーが鳩胸ならぬコッコ胸をそらした瞬間、ごぇっと叫び地に臥した。


 上部に魔法陣が出現し、圧力をかけられているようだ。


「ヒラのほうが可愛いぃよぉ!!」

 ビカビカーッと光りながら、ヒラが叫ぶ。

「たかが“キング“程度の進化でぇ、調子に乗りすぎだよぉ」


『なん……っ』

 ヒラにやり込められてるコッコリーダーを見て、エステラはさらなる無情を見せた。

「どっちにしても、卵を生むメスならともかく、オスは要らないから」


『むむむむ』

 コッコリーダーがわなわなと震え出し、その身体から紅い光が陽炎のように立ち上る。



コッ

コッ

コッ

コッケェエエエエェェェ!!!!!



 コッコリーダーが雄叫びを上げた瞬間、眩い真紅の光の柱が立ち上った。



「まさか、これは……進化……?!」


 ダーモットが興奮を隠しきれない様子で声を上げた時、マグダリーナの隣にふわりと淡い光と共に二レルが現れた。


「随分と面白いことになっているね」

 転移で突然現れたニレルよりも、みんなコッコリーダーに注目している。


 そしてアンソニーにテイムされたコッコ(オス)達も、伝染したかのように光りだした。

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