第8話 迎えが来ナイ

「リーナにお願いがあるの」

 元日本人同士の縁のおかげか、エステラともリーナと愛称で呼んでもらえるほど、親しくなった。

 年齢も思った通り近い。初めての同年代の友達だ。

 マグダリーナはこの秋に十歳になったばかり。エステラは次の新年を迎えたら十歳になる。

 この世界の暦や時間単位は、前世で使用していたものと同じで混乱せずにすんだ。

 コーディ村に来てはじめの数日は、飢えた身体と疲労を癒す為に費やしたと言っていい。マグダリーナとアンソニーは、スライム達の作った平民の服を来て散歩し、栄養たっぷりの食事をとって、お風呂に入ってからぐっすり寝ていた。


「私の魔導具のモニターになって欲しい」

 そう言って、マグダリーナはエステラから銀の腕輪を渡された。


「まず常時展開されてるのが、物理防御、魔力防御、精神防御、状態異常無効、索敵、空気清浄、身体の健康維持程度の自己治癒、基礎体力向上、身体能力向上、精神耐性向上、心肺心拍数などによる健康状態チェック機能。魔導具と魔力が馴染んできたら人工精霊のナビゲート機能も使えるようになるわ」


 腕輪はするりと手のひらを通ると、手首の位置でサイズぴったりになった。

 透明な三つの石を中心に美しい装飾が施されて、普通の腕輪としても価値が高そうだった。

 エステラはきちんと腕輪が嵌まったことを確認してさらに幾つか魔法を付与した。

「これで外れるよう念じれば、緩んで外せるようになるし、リーナ以外に触れない機能と、万が一盗難にあった時は戻ってくる機能もつけたわ」


(……えーと)

 マグダリーナはちょっと言葉が出なくなった。


「それから自分で指示して使える魔法も幾つか仕込んであるわ。身体能力向上やととのえる魔法、マッピングに記録、収納魔法に鑑定……」

「待って、盛りすぎじゃ無い?」

「そんなこと無いよー。収納にはあらかじめ適当に色々入れておいたんだけど、[収納リスト]って唱えるとリストや空き容量が見れるよ」

「収納リスト?」

 腕輪の石が一瞬キラッとしたら、目の前に超薄型液晶画面のようなものが表れる。

 表示されたリストには寝具や食料品、エアコン、ナイフ、魔石、テント、ポータブルトイレなどの記載があった。

 時間停止機能付きとさりげなく画面の端に記載もある。


(待て待て待て、嬉しい……でもこれ、ラノベ定番超レアスキルとかじゃ……)


 ふと、収納リストの中の[家(小)]に目が止まった。

「家??」

「3LDKのコンテナハウスよ。また妖精のいたずらにあった時、何もないところだと困るでしょ?」

「う……今後は十分気をつけるわ。でもあのちょっと……貰いすぎじゃ……」

 エステラは満面の笑顔を見せた。

「作るの楽しかったわ! 魔法も知識だけじゃなくどんどん実践しないと上達しないのよ、お願い、協力して?」

「そ……そういうんだったら……」

 エステラはスライム達と上機嫌に飛び跳ねると、機能の説明を再開した。


 それからあれやこれやと十日が過ぎた。

 その間のマグダリーナとアンソニーは、エステラから彼女達の使う原初魔法と、普通の魔法の違いや、魔法についての基礎知識を教わり、アンソニーは魔法の使い方、マグダリーナは腕輪の魔導具で魔法を使う訓練をして過ごした。


 昨日はマグダリーナとアンソニー、エステラの三人で、村長の家の牛舎に「ととのえる」の魔法をかけにいった。

 エステラがはじめてマグダリーナ達に使ってみせたこの魔法は、日常生活を送る上で必須の万能魔法と言って良い。

 血流や魔力の流れ等から始まる体調のみならず「ととのえる」という概念に当てはまることには大体対処可能だ。対象を清浄にすることも出来る。これもエステラ開発の魔法で、例の脱毛魔法の下地にもなっているらしい。詳しい仕組みはマグダリーナも教わったアンソニーにもわかってない。


 牛舎のお世話は、完全無臭にしてしまうと逆に牛が落ち着かなくなるらしく、少しだけ匂いを残すのがコツで、まだ慣れないマグダリーナとアンソニーには魔法を加減するのが難しかった。

 ととのえるの魔法は、定期的に行うと病気予防になるし食材としての味も上がると、金銭での報酬以外にもミルクやバター、チーズなんかも包んでくれる。村長の家はゲインズ領の領貴族の家門なだけあって、気前が良かった。

 マグダリーナは自身で魔法は使えなくても魔導具が使えて良かったと、しみじみ思った。何よりエステラと出会えたことは感謝するしかなかった。


 一般的な魔導具は魔石で動くが、エステラ作腕輪型魔導具は、マグダリーナの豊富な魔力が動力だ。それ以外の収納に入っている魔導具も、秘密の技術で魔石の交換が不要になっている。

 ではなぜ腕輪だけマグダリーナの魔力を使ってるのか……

 魔力を魔法として放出することが出来ないと、体内の魔力の流れが滞り、身体にも良くないらしい。その為に魔導具で魔力を消費できるようにしたのだ。

 今の状態が最適解とニレルも保証してくれている。

 ようやく家に帰ってもなんとかなるかもしれないと、希望が見えて来たというのに……


 村長から貰ったバターで作ったクッキーをつまみ、やさしい花の香りがするハーブティーを飲む。


「流石に遅くないかしら……」

 ショウネシー子爵家からの、迎えが来ない。


 ゲインズ領から王都までは、商人達の使う整備の良い道があって、馬車で一週間程かかると聞いた。


「お姉さま……」

「なに?」

 言いにくそうに、しているアンソニーに優しく微笑み、先を促した。

「我が家には、馬も馬車もありません……」

「ええ……」

 察した。


(馬と馬車を借りる金銭の工面に、時間がかかってるのかも)


 エステラが何か閃いた顔をして、「いまが魔導車を動かす時……!」と呟いたので、慌てて止める。隙あらば彼女が自重しないのは、ここ数日の交流で理解していた。

「ダメよ、エステラ。王都に自動車で乗りつけたら、とんでもない騒ぎになるわ」

「時代が私に追いついてくれない……」

 落ちこむ様子をみると、魔導車とやらは自動車+とんでも魔法機能付きで、ほぼ間違いなかったんだろう。

 いや待って、動かすって言ってた! もう出来てるの?! まさか……!?


「では、転移魔法で送ってあげようか?」

 ニレルの提案に、それしかないかとお願いした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る