ありがとうとさようなら

エィケイ

ある青年と怪物の愛と別離

 「別れとは突然来るもの」だと、思っていたけど、準備が整った上で別れるということもできるらしい。

 

 僕がそう思ったのは同居しているセイル...一緒に住んでいる同居人の人口生命体の最期の時だ。

 僕がたまたま調査のために、セイルが眠っていた研究所を調べたら、彼が目覚めた。

 最初は危険だ...と思ったけど

 

 -だいじょうぶ、おまえにきがいくわえるくない。-

 

喋れないけど彼は直筆で、自分には危険がないこと、博士が残してくれた彼の情報、お互い過ごす時に自分の最期の稼働日はこの日だと伝えてくれた。

....ならその日まで2人で日常を楽しく暮らそうと。


ーーセイルは実験生物だ、ただ彼の生みの親は彼のは兵器利用を嫌っていた。

 セイルを作った直後に、彼を眠らせて研究書を崩壊させた....、襲撃がありこの研究は危険だ、と偽装するために...。

 そして、もしも彼が起きた時でも大丈夫なように、殺傷機能はつけてないが、そのかわり悪用されないように、リミットと時間制限をつけたらしい。

 それは兵器として悪用されたれ、悪用者を巻き込んで自死、されなくても稼働期間は目覚めた時から最大3年ということだ。

 残酷ではあるが、その博士のおかげでセイルは安全だとみんなに信用されたし、今回セイルの葬儀を手伝ってくれるアレアさんやヴィル先生のような「研究所」の方々も協力も得られている。


 すごすと決めた時、最初は近所の人や、知り合いに誤解もされたこともあったけど、僕やセイルは地道に近所の挨拶回りや、手伝い、時にはレクリエーションにも参加したたりして、みんなに信用してもらえるように努力したんだ...。

 小さい子にも泣かれたりはしたし、石を投げられそうになったことはあるけど、僕と一緒に挨拶や手伝いをしているセイルをみて安心したって言われた時は小躍りしちゃってみんなに笑われたっけか...。

 

 過ごしているうちに、セイルが何がいいたいのか、彼の「声」で何となくわかるようになった。

 一見すると同じに聞こえるけど、よく聞くと声の強さやイントネーションはあるし、喜怒哀楽もちゃんとあることがわかる...。

 怒っている時はすごく大きい声、悲しい時は静かな声、嬉しい時は明るい声とちゃんときくと複雑そうで意外とわかりやすかった。「わかりやすいね」といったらちょっと拗ねちゃってたけど...。


 そんな風に日常をすごしていたけど、楽しい時間は長く無い...、セイルのタイムリミットがだんだんと近づいてきている。

 だから僕達は少しずつ「お別れ」の準備をすることにした。お別れがきてもお互いが納得できるように。


 まずはセイルが亡くなった時に必要な書類の準備、遺産や遺品をどうするからを2人で相談して、その後に研究所の人や詳しい人に確認をして問題ないかを確認してもらった。

 次にセイルの葬儀や祈りの言葉を誰が行うのか、僕の住んでいるところは死者が安らかにいけるように教会に連なる人やその資格がある人が祈りを行うが、セイルの場合は人間ではなく人工生物なので事情を知らない人には頼めないし、近所の教会の人も協力はしたいが「兵器として作られたもの」への祈りは教義に反してしまう可能性がある為、難しい など難航していた。

 そんな時に研究所の人から「司祭の資格がある人」、今回の葬儀を頼む司祭さんを紹介してくれた。

 これで二つ目の懸念はなくなった、でもまだまだやることは沢山ある。


 ...と、そんな調子で準備をしてくうちに時は経っていった。

 

「・・・・・」

「セイル、なにを書いているんだ?」

「・・・・・(シュー)」

「日記、最後の....明日はそんな日なんだね」

「・・・・・(シュ...)」

「大丈夫、そんな心配な顔をしないで...」


 明日は最後の日...、セイルとのお別れの日だ...

 きっとセイルも不安なんだろうな。


「はい、そうです。」

「5分後ですね、わかりました。まってます」


 (ピッ)

 僕が携帯をきると、ベッドでどことなく眠るのを抵抗する素振りをする、彼...セイル...の方を見た、寿命が近いのを理解しているのだろう。

 

「....」

「大丈夫、アレアさんとヴィル先生がくるって」

「....(シュー)」

「君との約束だからね、でもそれは僕1人だと難しいから」

「....…(コクッ)」


 (ピンポン)

 そんな会話をしていたらインターホンがなった。アレアさん達が来たのかもしれない

 

「あ、お客さんだ。アレアさん達かな」

「....」

「大丈夫、すぐ戻ってくるから」

「...…(コクッ)」


 そういうと僕は玄関中向かった


「お待たせしました」

「司祭さんは...?」

「遅れてくるらしい、他の祈りが少し長引くとかで」

「そうなんですか」

「あいつは?」

「まだ、息はあります...」

「そうか...」


 約束通り来た、アレアさんとヴィル先生をセイルのいるベッドへと案内した。


「....」

「セイル、アリアさんとヴィル先生がきたよ」

「お待たせしました」

「待たせてすまないな...」

「シュー...」

 

 ベッドに横たわっていたセイルは眠りにつきそうな表情をしていた...。声もどことなく静かそうだ


「シュー...」

「セイル...」

「大丈夫ですか?」

「シュー...」

「身体は問題なし、ただもうそろそろ終わりが近いと...」

「...(コクッ)」

「わかりました、最後にあなたの望みは」

「....」

 

 アレアさんの問いを聞いてセイルは、僕の方を指さした

 

「僕?」

「ノイさんに伝えたいことがあると?」

「...(コクッ)」


 アレアさんの問いにセイルはそう頷いた、僕に伝えたいことって何だろう


「そばに来て欲しいの?」

「シュー...」

「わかった...、君の最後の望みだからね」


 僕はセイルのそばによった、するとセイルが


「...(手で合図をする)」

「え、顔を近づけて欲しい、わかっ、、、」

 (チュ...)

「えっ...」

「あら」

「お!」


 セイルは僕の頬に口付けをした。

 そして...


「シュー...」

「うん、僕も大好きだよ...」

「(こくん)」

「セ...」

「.....」

 

 彼は優しい声で僕に「好き」だといった。...そして僕の反応に安心したのか彼は笑顔でうなづいた後にそのまま眠りについた...


「....」

「セイル...」

 

 物言わぬ彼は目を閉じた、もう起きることはないだろう....

 

「彼は稼働停止しました、もう目を開かないでしょう」

「...そうですか」

「いえ、彼としてはあなたに感謝しているそうです、でなければ最後に...」

「え、えっと...」

「おいおい、そういう話をする前にやることがあるだろ」

「...失礼しました」

「...はい」


 アレアさんの話で脱線しそうだったが、ヴィル先生の一言で話は一旦打ち切ることになった。

 悲しかったが、僕にはやらないことがある。

 

 彼を埋葬することだ。

 

 ただ、怪物といわれた彼を運ぶには無理がある...。

 彼の体重は150kgもあり身長も200cm近くある、そんな彼を僕1人で棺に運ぶのは困難極まりない。

 ...だからこそ、腕力のあり、彼と面識のあるこの2人を呼んだ。


「アレアさん...」

「私が彼を棺に運びますね」

「お願いします。」

「俺は...」

「彼の棺に埋葬するものと、遺品の整理をお願いします」

「わかった」

 

 アレアさんがセイルの遺体を棺へと運んでいる間に、僕とヴィル先生は彼の棺に収めるものを選別するために、セイルの遺品を整理することにした。

 ヴィル先生はリビング側を、僕は彼の作業机の方へ向かった。


 彼は僕と会話するための筆談ノートと、筆記用具、本などがあった...、そして...彼の日記が目に見えた

 

「日記...、そういえば最後まで書いていたな...」

彼によると「記録を残したい」ってことで書いてたんだっけ、理由はわからないけど...

 それにしても、棚にあるものだけでもすごい量だ。3年も書いてるから当たり前だけど、それでも彼のマメさを実感した。

 そして、机にあるノート...これが最期の...

と思いにふけてると僕はあることに気づいた。

「ん...表紙に...なにか書いてある?」


 -ノイへ、おれがしんだら このノートをよんでね。-


「僕に...、なんだろう...?」 

 セイルの書いた字を見て、僕は日記を見ることにした。


 ...そこには、セイルがすごした1日や食べたものなど、ありきたりで何気ない僕らの日々が書かれていた。

 

 - xがつx日 きょうは、とつぜんのあめにこまってしまった。 せんたくものがぬれるのはこまる。

 

 -△月⚪︎日 きんじょのぼうずがたんじょうびらしい。おれはまちにはいけないから、ノイにかいものをたのんだ。 ちまたではやってる「ひーろーがかつやくするほん」だ。 ぼうずがよろこんでくれるといいが...


「結構かいてたんだなぁ...」

 

 近所の人たちとの交流や、生活であった出来事が色々か枯れていて、僕は彼との交流を思い出すと共に寂しさを感じた...、もうセイルはいないのだと...

 そして、最後の...セイルが死ぬ前に書いていた日のページにたどりついた。

 そこにかかれていたのは...


⚪︎月⚪︎日

 ノイへ、これをみてるときはおれはもういない。

かどうじかんのおわりはかくごはしてるけど、ふあんもおおい。

 ノイとのせいかつがつづくたびに、もっとつづいてほしいたおもった...。

 

 でもおれは「じんこうせいぶつ」、せんとうがなくてもいちどかどうしたらきめられたじかんからはのがれられない。

 だから、ノイとあってすごしたひびを「きろく」したいとおもってにっきをかいたんだ。


 ありがとう、ノイ。

 おまえとの、せいかつはとてもたのしかった...

 さようなら、いとしい ひと。


 ...なんて、しめっぽいおわりはきらいだから、おまえがしんだら、またあえるといいな。

 あえたら、おれがしんだあとのにちじょうをいろいろとおしえてくれよな?


 -セイル より-


「・・・っ!?」


 その言葉を見た時、僕は涙を流してしまった...。

 嬉しさなのか、寂しさなのかその両方なのかはわからない...、もしかしたら両方かもしれないけど。


「ありがとう、約束は最期まではたすよ。」


 僕は、そう呟くと気を引き締めて、彼の遺品の整理に戻った。

 ノスタルジックに浸っていたら手伝ってもらっている2人は勿論、セイルに示しがつかない...。


 遺品を整理した後もやることはあるんだ...。

 セイルとちゃんとお別れをする為に...


 ....でも、全部おわったら...

 ちょっとだけ、泣いてもいい...よね?


———


-終-

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ありがとうとさようなら エィケイ @akei-ak

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