復活の儀式がしたいので

和良見ナナ

プロローグ

 高校に入学してすぐ、久住ショウジは少しおかしな夢を見た。

 

 眩しい光が差し込む。

 何かがおかしいのに肝心な何がおかしいか分からない。体は重いのに頭がやけにすっきりしている感覚のせいだろうか。

 目の間には原色の黄色いニット帽をかぶった少女が月に向かって手を伸ばしていた。背を向けているため顔を見ることはできない。月明かりに照らされた艶やかな黒髪だけが、闇夜の中で揺れているのが見える。

 ――美しい。

 ふとそんな感想が胸の内に湧く。一目でもきれいな彼女の顔が見たいと思った。


 「そ、そこのお嬢さん。」


 呼びかけた声は少し上ずる。額には脂汗がじっとりとにじみ出る。幼いとはいえ女性に話すのは初めてなのだ。ダサすぎてやり直したい。しかし、残念なことに声が聞こえていたようで、彼女は月に伸ばしていた手を引っ込めた。そして、振り返る。

 アメージング。まるで人形のように大きな瞳と小さな鼻、口、輪郭。重そのバランスの良さに思わず見入ってしまった。重そうなぱっつんの前髪が眉うえで切りそろえられていて幼さを演出している。

 

 「……わたし。みえるの?」

 「ええ。ばっちりと。」


 こてんと首を傾ける。困っている表情も可愛いな。

 

 「初めまして。君はだれだい。お母さんとはぐれてしまったのかな。」

 「いえない。いったらカミサマにおこられちゃう。」

 「……そう。とてもいい断り文句だね。ところで、家に帰りたいんだけど何か知らない?」


 なんか身体が重いんだよね。なんて冗談めかして言う。子供だから知らないに違いない。だから半分おふざけで聞いた。答えが分からなくてもいい。そう思っていたのに目の前の少女の姿が歪む。目がおかしくなったのか。少女が”女”に見える。

 

 「もうじき目が覚める。私を思い出して。あなたとは初めましてじゃない。」


 目の前がチカチカとスパークする。頭の奥に痛みが走る。

 明らかに子供の声ではない女の声だった。そして懐かしいような感覚がした。まるで昔に聞いたことがあるかのように。

 

 ――私は小さく涙を零した。

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