何なんだこのキモチ…これが恋?

 やば、私ちょろいかも……。


 初めて卯月君と出会ってから1ヶ月経った。

 おかしいぞ、何かがおかしい。

 最近やたらと頭の中に卯月君がいる。


 この1ヶ月勉強を教えてもらったり、休み時間一緒に過ごしたりしていたが、好きになるほどまだ相手のことを知らないはず。


 早まるな如月茜わたし

 あんなに恋愛は、自分とは関係ないと思っていたはずじゃないか。


 落ち着こう…私だって、恋愛がしたくないわけではないのだ。

 でも、ちょーっと自分に自身がないだけ。

 卯月君はとびきりイケメンで、スポーツができて話しやすい。


 だから、もうちょっとだけ待ってみよう。

 私のことだ、すぐ忘れるに違いない。


「――かね、あーかーね!」

「ん?」

「ん?じゃないわよ、ん?じゃ何ボーッとしてるのよ、さっさと食べちゃいなさい」

「はいはい」


 母に、体を揺らされ意識が戻ってくる。

 どうやら、朝食を食べながら固まってしまっていたらしい。

 我ながら要領が悪すぎる、同時進行できないのかね私の脳みそは。

 ちゃっちゃとパンを頬張ると、リュックを抱え家を出た。


「いってきまーふ」

「うん、いってらー」


 家を出ると、そこには星来がいた。

 星来は、私に気がつくとニッコリ笑い小さく手を振ってきた。


 可愛すぎる、女神かよマジで。


「おっはよぉーせらっちー」

「おはよう茜、今日は久々に2人で登校してみない?」

「いいよー久しぶりだね2人で登校するの」


 そう、星来と2人で登校するのは実は久しぶり。


 大体、登校時間が被るので、ゴリ助とベルと4人で通学してたり、たまに卯月君と3人で通学するときもあったので、2週間ぶりくらいだ。


「あ、茜聞きたいことがあるんだけどさ…」

「なになに?せらっちの為なら何でも話すよ!」


 すると、星来は何かを決心したように私に向かい合ってきた。


「ど、どうしたのさ本当に」


 あまりの真剣具合に気圧されてしまった。


「茜って、卯月君の事好き?…」

「え?」


 頭が真っ白になる。

 周りの音が聞こえてこない。

 てか、何で星来が?


 私は混乱してしまっていた。


「やっぱり、そうだと思ったのよ」

「やっぱりって……まだ好きじゃないし…」

?」

「うん、気になってないって言ったら嘘になるし、かといって好きかって言われたらうんとも言えないし」

「そう…」


 少し、星来が可哀想な顔をしていた。

 なんで、星来がこんな事聞いてくるか分からない。

 もしかして、星来は卯月君のことが好きなの?

 分からない、だからそそくさに話題を変えて、今まで通り下らない会話をしながら学校へ向かった。






 教室に着くと、3人は既にいたようで談笑していた。


「よぉおはよう」

「おはようございます、お二方」

「おはよ!」


 私達に、気がついた3人は手を上げて挨拶をした。

 卯月君に声を掛けるとビクッとしてしまう。

 やっぱり意識しちゃってるなぁ。

 でも普段通りに返す。


「うん、おはよー」

「おはようございます!」


 私達も返す。

 そして、1限の準備を終わらすと、話に混じった。


 うん、普通だな。

 今のところ、私の心に異常なし。


 突然、ガラガラガラッーと教室の扉が開けられる。

 みんなが、突然の事にびっくりして静になる。

 そこには、髪型ショートの褐色美少女が立っていた。


「ハルー!来たぞーいるかー?」


 その美女は教室をスーッと見渡し、卯月君を見つけると


「お、ハルーいるじゃんおっはよぉう!」


 私達の方へ一直線に走ってきて、卯月君に飛びつくようにバックハグをした。


「「「「「「「は?」」」」」」」


 このクラスにいる、すべての生徒が今この目の前で起きている事に、理解が追いついてないようだった。


 例外なく、私も。


 その褐色美女は、周りの視線に気づいていないのか、卯月くんのほっぺをふにふにしている。


「やめろって瑠衣るいここ教室だぞ?」

「最近会ってなかったさー久々にね?」

「久々ってお前……」


 卯月君は驚いていたが、特に気にしてはいなさそうだった。

 ちょっとすると、クラスはまた騒がしさを取り戻した。

 なんだろう、今、私の心が落ち着かない。


 おかしいな、どうしたんだ私…?


「あ、あの…」


 気づいたら、褐色美女に話しかけていた。


「んー?どした?」

「あなた、何者?」


 しまった、語気を強めてしまった。

 こんなの普段の私じゃない。

 やはり、おかしい。


「そんな、邪険にしないでちょ、はじめまして僕の名前は睦月瑠衣むつきるいハルの未来の嫁ってところかな?」

「え……」


 私は、何も考えることができなかった。


「あ、茜?大丈夫?」


 明らかに挙動不審になった私に、星来が声をかけてくれる。


「う、うん大丈夫、ちょーっとびっくりしただけ」

「ならいいけど……」


 朝のホームルームが始まる前に、瑠衣は自分の教室へと帰ってしまった。

 休み時間に卯月くんにボソッと聞いてみた。


「あの、朝の子その、卯月君とどんな関係なのかなーって」

「ああ、あの子ね、あいつは1年3組のやつで、部活が一緒なんだよ」

「未来の嫁って言ってるけど……」

「あれは、あいつが勝手に言ってるだけだよ深い意味はない…はず?」


 ほうほうそうなんだ。

 ふーん。


 それから、今日一日なんにも力が入らず、あっという間に下校時刻を迎えてしまった。


 帰りの挨拶を終わらせると、ベルが話しかけてきた。


「どうしたのです?茜、今日は1日心ここにあらずでしたけど…」

「そうだな、どした」


 ゴリ助も聞いてくる。

 星来は、なにか分かっているのか気まずそうな顔をして、私を見つめていた。

 ちなみに、卯月君は部活があるから、そそくさと更衣室へ行ってしまって居ない。


「私でも、よくわかんないや…」

「もしかして、朝のことですの?」

「いや、もしかしなくてもだな」

「そ、そうなんだけどさ、瑠衣ちゃんが卯月君にくっついて未来の嫁だ!って聞いてからなんというか落ち着かないっていうか…?自分でもよくわからないんだよ」


「恋だな…」

「恋ですわね」


 2人は、うんうんとうなずき合っている。

 星来は変わらずだ。


「好き、なのかなでも、好きって理由がはっきりしないんだよ」


 特に、キュンとしたとか、何か助けてもらった訳でもない。

 ただただ、学校生活を共に過ごしただけ。

 あ、でも勉強は助けられているか。


「茜、それが恋と言うのですよ」

「そうだぞ、恋に明確な理由なんて必要だんだキッカケなんて必要ない」

「好きって思ったんだろう?少しでも、ならそれは立派な恋だ」


 ゴリ助に、背中をバシバシ叩かれながら語られる。


「確かに…好き、かも」


 顔を赤らめながらボソッと言うと、ベルが


「大丈夫ですわよ、あなたは自分で思っているより、ずっとかわいいから」


 そう言ってくれる。


「うん、そうだよね!これが恋!卯月君に見合う女になって告白してもらう!」

「そこは、自分からいかないのかよ…」


 ゴリ助になんか言われたが気にしない。


「そ、そのがんばって……」


 星来が泣きそうな顔で言ってくる。

 この子は終始こんな調子だったな、大丈夫かな後で話聞いてあげよう。


「よぉ〜し、今日は茜の恋愛記念日だ!ファミレス行こうぜ、もちろんクリスの奢りで」


 ゴリ助が言う。


「いいですわよ、茜と星来の分は奢ってあげましょう、ですがゴリ助あなたは駄目です」

「はぁ〜!いいじゃねえかよクリス金持ちなんだからよ」


 ゴリ助が、ベルに手を合わせてお願いする。


「とりあえずいきましょう!話はそこからです」


 私達は、学校を出た。


 これが恋かぁ、卯月君が好きになってくれるなら何でもできる、そう不思議とそう思えた。

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