負けヒロイン属性モリモリの私だが、絶対に負けられないこの恋を実らせて見せる。

トトマトマ

プロローグ 忘れられない青春を思い出して

校舎の隙間から、赤い夕焼けの光が私達を照らす。


 午後4時過ぎ、部活に行く生徒や下校をする生徒が忙しなく動いている中、その喧騒を感じさせないほど静かな中庭で、私達は向き合う。


 私達の前には、一人の男子生徒が立っている。


 真剣な表情で、いつもの優しい君じゃあないみたいに申し訳無さそうに、そしてまっすぐ私達を見据える。


「あ、あの……」


 そして、ついに喋りだす。


「決めたよ、僕は、僕は…君と、一緒がいい」


「君がよかったら、僕と付き合ってくれないかい?」


 心地よい秋風が私達を包む。


「はい、喜んで!」


 君は涙を浮かべ安堵したようにほっと息をつく。


 そして――。



「ママぁーおーきーてー!」

「むむむ……」

「ママったらアルバム開きながら寝ちゃっててさぁ、ひなたがお布団掛けてあげたんだからね!」

「あ、ありがとう…」


 娘の日向ひなたに起こされる。

 時計を見ると、夜の7時をさしていた。


「ヤバっもうこんな時間!夕飯の準備しなきゃ!!」


 気が付かないうちに、こんなに寝てしまっていたなんて、不覚ッ。

 急いでキッチンに向かい、早速準備をする。

 どうしよう、今から作れる物ないかなぁ。

 そして、涙が頬を伝う感触がする。


「あ、あれ?なんで?」


 そういえば、何か懐かしい夢を見ていた気がする。

 高校時代、勉強もそこそこ、恋愛なんて私には到底無理だろうと思っていた矢先。

 本気で、異性を好きになったあの時。


「あぁ、懐かしいなぁ…あの頃は私が選ばれるなんて思っても見なかったよ」


 私と、娘とあなた。

 まだ、日向が赤ちゃんだった頃に、桜の木の前で撮った写真。


「おっと、感傷に浸ってられないぞ!さっさとご飯作らなきゃ」


 急いで作ったから、品数は少なくなってしまったが、我ながら上出来だろう。

 白米にサラダ、そして日向の大好物のハンバーグ。


「ご飯できたよー!」

「はーい!」

「あ、あとお父さん呼んできて、ご飯できたよって」

「うん!」


 日向が階段をドタドタ登っていき、デスクワーク中だっただろう私の夫陽也はるやを呼んでくる。


「やったぁ!今日ハンバーグ!!」

「そうよ、よく噛んで食べなね」


 静かにお父さんが降りてくる。


「今日もありがとね、ご飯作ってくれて」


 優しく微笑んでくる。


「いいのよ、気にしなくて」

「でも、出会ったときからずっと、君には助けられっぱなしだったじゃないか…」

「だから、お礼くらいしないとね」


 我が家全員揃って、食卓を囲む。


「「「いただきまーす」」」


 家族団らんと他愛のない会話をしながらご飯を食べる。

 すると、日向がハンバーグをムシャムシャ食べながら聞いてきた。


「そういえば、ママとパパってどうして結婚したのー?」


 やはり、両親の馴れ初めって子供は気になるものだろうか。

 まあ、私はめちゃくちゃ気になって聞きまくってたけど。


「えー?なになに、聞いちゃう?」

「うん!」

「じゃあどこから話そうか…」


 陽也は、ニコニコしながら見守る。


「じゃあまずは……」


 懐かしい高校時代の記憶。

 絶対に色褪せることはない、かけがえのない3年間。


 私は、そんな高校生活をゆっくりと、そして鮮明に思い出した。


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