第26話 11人の男を剥いて島流しにした できれば逞しく生きてほしい

「課長さん、あそこの子供たちを呼んできてくれますか。」

「えっ、浮浪児ですよ。」

「……その原因を作ったのは、この国の大人ですよね。」

「……まあ。」

「でも、国は具体的な救済措置を講じなかった。だから私は200年前に孤児院を作ったんです。」

「……はあ。」

「子供たちに教育を施し、今のスーザンみたいに魔法を教えて育てたら、みんな素敵な大人に育ちましたよ。」

「その子供たちはどうなったんですか?」

「私の町を支えてくれていますよ。うちの商会のスタッフはほとんどが町の住民ですから。」

「私、子供たちを呼んできます。」


 スーザンは子供たちの方へ駆けていった。

 私は、兵士たちの鎧を脱がせていく。


「な、何を……。」

「武器屋に売ればお金になるでしょ。買い叩かれないように課長さんがついて行ってくださいね。」

「えっ、私が……?」

「子供たちだけでいかせたら、全部で銀貨5枚とかですよ。この貴族の服と剣だけでも金貨5枚はしますよね。」

「はあ……。」

「私とスーザンは買い物をしていますから。」

「ですが、この兵士たちはどうするんですか?」

「どうしましょうかね。貴族は島流し決定ですけど、まあ同罪ですかね。」

「島流し?」

「ええ、このゲートの向こうは無人島です。1時間で1周できるくらいのね。」

「まさか……。」

「身ぐるみ剥いで無人島に追放です。」


 スーザンが子供たちを連れてきたので、鎧を脱がせるのを手伝わせて、課長さんと一緒に武器屋に行ってもらいました。

 そして、半裸状態の貴族と兵士たちを、スーザンと一緒にゲートに投げ入れていきます。


「このゲートは、どこに通じているんですか?」

「心配なの?」

「いえ、火山の火口とか、サメの泳いでいる海とか……。」

「やーねー、そんな残酷な事はしないわよ。ちょっと覗いてみたら?」

「頭だけ突っ込めば向こうの様子が見られるから。」

「はい。……真っ暗で何も見えませんが、波の音が聞こえました。」

「暗いのは、向こうが夜だからよ。この星の反対側にある、南の無人島よ。」

「猛獣のいっぱいいる?」

「いないわよ。フルーツも豊富だし、周辺のサンゴ礁で魚もとれるわ。その外側にはサメがウヨウヨいるけどね。」

「やっぱり!」


 どうも、スーザンは私を誤解しているようだ。

 私はそんなに残酷な人間ではない。


「それにしても、こんなに生活レベルが下がっているとは思わなかったわ。」

「貴族街の向こうは別世界ですけどね。」

「あなたは貴族じゃないの?」

「こっちがわの商人の娘です。あっ、あそこが両親のお店なんですよ。」


 スーザンの実家は、小さな雑貨店を営んでいました。

 古そうですが、清潔感のあるお店です。


「父が職人で、父の作った食器なんかを売っているんですよ。」

「へえ、面白そうね。」


 店の中では、中年の女性が商品を整理しています。


「あら、スーザン。北に出張じゃなかったの?」

「うん、さっき帰ってきたところよ。こちら、今回お世話になっているリズ様。町を案内しているのよ。」

「リズ・ジャルディです。」

「ジャルディ……様って、王族!」

「違いますよ。この国を作ったオスカー・ジャルディの親族ですけど。」

「そうなの。あっ、申し遅れました、スーザンがお世話になっています。母親のジュリ・ラーズナーでございます。」

「ここのものは、ご主人が作られているんですか?」

「はい。4代続いているんですが、みな手先が器用なものですから。」

「木製・焼き物・金属。本当に何でも作れるんですね。」

「工房には大きな窯があって、私も7才までは土を捏ねて自分の食器を作ったりしていたんですよ。」

「そっか、7才になったら養成所で寮に入るから……。」

「あっ、養成所はすっごく楽しかったですよ。あそこで初めて勉強できたし、魔法も使えるようになって、友達も沢山できましたから。」


「でもね、親元から引き離すのはどうなんだろうって、結構悩んだのよ。」

「悩む事ではないですよ。そりゃあ、男の子と遊べなくなりましたけど、ちゃんと理由も教えられたし、魔力はなくしたくありませんでしたから。」

「間違いではなかったと、思っていいの?」

「当然ですよ。さっき教えてもらったのを考えると、今なら別の方法でできるんでしょうけど、何も情報のなかった頃に養成所を作られたんですからね。」

「そう、よかったわ。」

「あらっ、創成所を作られたのって、初代議長の娘さんでしょ。ご先祖様がお世話になった人だもの、お母さんだって知ってるわよ。」

「えっ、何かあったの?」

「あら、言ってなかったかしら。焼き物の技術とか、金属加工のやりかたは、シャルロットお嬢様から教わったらしいわよ。」

「シャルロット?リズ様じゃないの?」

「うふふっ、ごめんなさい。シャルロット・ジャルディもリズ・サーティーも、リズ・ジャルディも全部私の名前。ああ、今の正式な名前はリズ・マッツよ。」

「えっ?」

「200年も生きていると、色々とあるのよ。」


「言われてみれば、昔使っていた食器に似ているわ。懐かしいんだけど、器の肉が厚いわね。」

「父も気にしているんですが、これ以上薄くすると割れちゃうらしいんですよ。」

「それは、火力が足りないのと、十分に温度を下げてから窯を開けないからよ。ほら、釉薬が完全にガラス化してないわ。」

「ちょ、ちょっとお父さんの工房まで来てもらえませんか。」

「別に急ぐ用事もないからいいけど……課長さんはどうする?」

「あっ……。」


 通りで課長さんと合流し、課長さんは城に帰ってもらって工房へお邪魔します。


「お父さん、こちらリズ様。焼き物に詳しいのよ。」

「リズです。」

「オリバーだ。だがここは職人の工房だ。邪魔はしないでくれ。」

「まあまあ。んー、ろくろは使っているみたいですけど、手動だと肉の薄いものは難しいですよね。」

「知った風な口を聞くんじゃねえ。」

「えっと、あるかな……。」


 私がろくろを使っていたのは180年くらい前の事です。

 なので、アキが作ってくれたポシェット……というか、月の裏側にある時間凍結庫の中を探します。


「あっ、ありました。これこれ。あと土も。」

「ど、どこから出した。」

「えっ、このポシェットですよ。」

「物理的に入る訳ねえだろ。」

「女には、色々と隠せる場所があるんですよ?」

「そういう問題じゃねえ!」

「まあまあ。これが魔道ろくろ”クルリン”です。」

「なんだそのふざけた名前は!」

「スーザン、お父さん血圧高めなの?」

「普段は穏やかなんですけど……。」

「お前も、残念そうな表現をするんじゃねえ!」

「それは置いといて、クルリンはこのボタンで台が回転する、それだけの道具です。」

「ま、まあ、ろくろだからな。」

「こっちのボタン操作で、回転の速度を変えられます。」

「お、おう。」

「興味出てきました?」

「まあ、両手で土を成形できれば便利だからな……。」

「そういう事。素直でよろしい。」

「くそっ……。」


「じゃ、3人でやってみましょう。」


 私はポシェットからクルリンを2台取り出して、二人の前に置きました。


「じゃ、土をもらいますね。」

「何でお前の出した白い土を使わねえんだ。」

「こっちは、ガラス質を含んだ石を砕いて作った土です。真っ白な器ができますが、普通の土よりも高温で焼くので別にしないとダメなんです。」

「釉薬で白くすることはあるが……。」

「透明感が違うんですよ。」

 

 私たちは工房にあった土で整形を始めます。



【あとがき】

 11人を島流し。ナイフくらいは欲しいところです。

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