第三章 リズ・サーティ
第23話 アレも共有するのよねと強要されてしまいました
私がリズ・サーティとして夫モッティー・マッツと暮らし初めて半年。
ふいに自分の過去が蘇ってきました。
リーズとして過ごした5千年とシャルロット・ジャルディとして育った19年。
二人が融合してからの200年。
それは全て私の記憶でありながら、客観的な記憶でもあります。
人間として寿命を終えたシャルの意識消失と同時に、リーナの意識も消失。
2年の歳月を経て再構築されたリズ・サーティとしての自我。
覚醒まで時間を要したのは、死に対する恐怖感だったのだろうと思います。
空白期間(ブランクスペース)の間は、押し付けられたサキュバスというイメージで過ごし、性的な凌辱を受けた事も、記憶として残っています。
それは、希薄だった意識によるもので、特に感情はありません。
今の私は、完全な複合意識であり、リズ・サーティとしてのスタート地点に立ったばかりです。
「ティー、お話があります。」
「どうした?……何だか雰囲気が変わったみたいだけど……。」
「思い出したんです。私は龍族と人間の複合体。龍族として行動しなければなりません。」
私はティーに全てを話し、とりあえずDC(ドラゴンシティー)とDI(ドラゴンアイランド)へ行く旨を伝えました。
「分かった。俺も同行する。」
「はい。お願いします。」
私たちは飛行艇でDCに向かいます。
「まさか、こんな山の中に町があるとは思わなかったよ。」
「そうですね。夜に上空を飛べば、魔道照明ですぐに気づいたんでしょうけれど、私の記憶もありませんでしたし、その時に来て居たらどういう反応をしたか興味はありますね。」
私は飛行艇を操り、自宅の庭に着陸します。
当然ですが、多くの住民が集まっていました。
「リーズ!良かった、無事だったのね。」
「ルナ、それにみんな。心配かけて御免なさい。」
「私の夫、モッティー・マッツよ。」
「リーズ、あなた結婚したの!」
「えへへっ。あっ、感覚の共有はしませんからね!」
「ねえ、リーズ。私たちは仲間よね。家族みたいなものだって、あなたも言っていたわ。」
「ノーラ、いくら家族でも、できる事とできない事があるのよ。」
「ねえ旦那さん。仲間っていうのは、喜びを分かち合うものだと思いませんか?」
「ダ、ダメよティー、耳を貸さないで。」
「いや、期待されているのなら応えてあげても……、って、何でそんなに怖い顔を……。」
「そういえばリーズ、あなたを探している時にこれを見つけたわ。」
「あっ、ポシェットね。ありがとうアキちゃん。」
「それで、どんな感じだった?」
「何が?」
「話の流れを読んだら分かるわよね。私も相手が見つかれば経験したいんだけどね。」
「その……、気持ちいい……かな……。」
「遠隔で共有すればいいんだからさ、ねっ。」
ルナとアキちゃんは人間と融合しているので、その気になれば経験できるハズなのですが……。
まあ、私も200年以上縁がなくて未経験だった訳で、そう考えると皆が期待するのも仕方ないのかもしれません。
「分かったわよ。でも、絶対内緒ですからね。」
誰に内緒なのか、目で伝えました。
その夜、DIからもメンバーが移動してきました。
遠隔の共有は30mくらいしか効果がありませんので、うちの両隣であるルナとノーラの家に全員が集まっています。
お風呂に入って念入りに身体を洗って夜を迎えます。
当然ですが、この部屋にはベッドが一つしかありません。
私が先にベッドに入って、感覚を開放して共有します。
感覚の共有というのは、一方通行ではありません。
100人のドキドキが私の方に伝わってきて、いつも以上に興奮してきます。
「ティー……。」
「どうしたんだい。声が上ずっているよ。」
「バカッ……。」
興奮のせいなのか、体中が敏感に反応してしまいます。
「どうしたんだい、今日は随分……。」
「あん……。」
キスをしてティーの言葉を遮ります。
「きテ……。」
感覚の共有ですから、全員が同時に絶頂に達してしまいました。
家の周りはメンバーの住人しかいないので一般の人間に知られる事はありませんでしたが、それでも龍種全員が迎えた高揚感は漏れ伝わったような気がします。
翌朝は、メンバー全員が気恥ずかしい感じで目を伏せています。
全員が初体験を迎えてしまった訳ですから、こうなりますよね。
思わず笑みがこぼれてしまいます。
「どうしたんだい?」
「なんでもありませんよ。」
「やけに嬉しそうな顔してるよ。」
「そんなことありませんよ。さあ食事をして島に移動しましょう。」
DI島には、豊富な海資源があります。
「何だよコレ、すっげえ旨いんだけど。」
「それは、サンゴ礁に生息するエビの仲間で、大きいから食べがいがあるでしょ。」
「ああ。塩焼きだというのに、旨味が口の中に広がってくるよ。」
「こっちの焼き魚だって美味しいわよ。」
「それに、魔道具だって充実してるし、タマゴや砂糖、肉なんかも安いし生活は楽そうだよな。」
「私が最初に住んでいたのはジャルディアだったから、200年前のジャルディアもこんな感じだったのよ。」
「何でジャルディアからいなくなったんだ?」
「一番大きかったのは、ニセモノのジャルディア王家というのが現れて独裁政治を始めたからね。」
私はティーにジャルディア建国から私たちの撤退までを説明しました。
「私たちの提供した魔道照明も、50年経てば壊れたり魔石の寿命で使えなくなるわ。」
「なあ、UNNAに魔道具やタマゴの提供を頼めないだろうか?」
「考えてもいいけど、対価は用意できる?」
「対価か……。」
「冗談よ。昨日、魔道照明の増産を指示しておいたわ。」
「ホントか!」
「私たちの家に、DCとDIへのゲートを作って簡単に行き来できるようにするし、そうね、地竜のメスも連れて行って繁殖させましょう。」
「そんな事もできるのかよ。」
家に帰った私たちは、早速魔道照明を家に設置し、実家にも一つ提供しました。
お義父様もお義母様もとても喜んでくれました。
「これの、屋外型のモノを作ってもらっています。UNNA全体にいきわたれば、治安もよくなるし生産性もあがります。」
「まさか、リズがそのような大国の代表だったとはな。」
「すみません。記憶が戻った以上、家を留守にする事も増えると思います。」
「構わんさ。モッティーはあくまでも議会の一員だ。王族・貴族のような縛りもないから、自由にして構わんよ。」
「ありがとうございます。」
ポーチから冷温庫を取り出して実家のキッチンに設置しました。
中には当然、海の幸が詰まっています。
「じゃ、俺はしばらく街灯の予算案を作って議会の準備をするから。」
「私は竜人の里へ行ってくるわ。」
DCとDIでは、身体強化の魔道具が普及しているし、魔導士も増えてきたので荷役としての地竜はそれほど必要ではありません。
UNNAで必要となるのか分かりませんが、せっかく谷で地竜が暮らしているのですから、生物として繁殖してもらいましょう。
竜人の里へも、色々な物資を供給していますので、メスの地竜2匹くらいは問題なく譲り受けることができました。
適当な2匹を並べて飛行魔法で連れていきます。
「元気なタマゴを産んでね。」
「キュキュ。」
さて、リズ・サーティとしての活動開始です。
【あとがき】
新章スタートです。
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