DT卒業したら……

モモん

第一章

第1話 あと12年DTを維持したら本物の魔法兵だぞ

 俺の名前は、モッティー・マッツ。

 黒髪の18才。身長は176cmでやや細身。

 ジャルディア王国の魔法使いだ。

 いや、厳密にいえば魔法剣士というべきだろうか。

 

 父親はジャルディア王国の辺境伯であり、長男である俺はいずれ辺境伯の地位を継ぐことになる。

 辺境伯とは、王族を除く爵位としては、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵の順で、叙爵される貴族としては上から2番目の地位にある。



「あーあ、俺もついに18才かよ。」

「あと12年だな。」

「何が?」

「30才までDTを貫けば、魔力を失うことはなくなるみたいだぞ。」

「縁起でもねえ!何を言ってるんだお前は。」

「俺なんか、13才の時に、敵の幻影魔法で射精しちまったからな。あん時の親父は鬼のようだったぞ。」

「そりゃあ、平均15才で魔力を無くすのに、13だとな……」

「はあ、何の戦果も残さずに魔力を無くしちまったから、いまだに2級兵士だもんな……。」

「確かにな。少しでも戦果をあげてればその時点で2級兵士確定だからな。そうすれば、今頃は1級兵士かうまくいってれば2級剣士だっただろうな。」

「モッティーは1級剣士確定なんだろ。くそう、羨ましいぜ。」


 今話しているこいつはモーリア・グリチフ。

 グリチフ男爵家の3男で、俺とは同い年なのだが、共に12才で軍に招集され5年以上のつきあいになる。

 

 ジャルディア王国軍は、隣国アッシュ帝国との戦争のため、全国民を対象に12才で入隊することを定めており、これは王族といえど例外ではない。

 そもそもが、10年前にアッシュ帝国から侵略を受けたことに起因するのだが、兵力的に劣るジャルディア王国は毎年領土を減少させており、戦線を維持することすら難しい状況だった。

 そんな中で、このスリネの森では、3年にわたって侵攻を抑えているため国からも期待されている戦場なのだ。

 

 戦争において、魔法は貴重な戦力なのだが、残念なことに魔力は永遠に保持されるものではない。

 7才から10才にかけて発現する魔力は個人差が大きく、使える魔法も千差万別といえる。

 特に重用されるのは、広域の攻撃魔法と、広域の精神魔法だ。

 残念ながら俺の魔法は、身体強化と武器への付与魔法だけなのだが、それでもこの年まで維持できている。

 

 そして、一般的な魔力の特徴としては、性行為によって失われることが判明している。

 個人差はあるらしいのだが、男の場合は夢精によって失われるケースが40%以上とされ、事故の射精が50%で、性交渉によるものが残りの10%とされている。

 平均で15才時点で50%が魔力を喪失しており、16才の時点で75%、17才の時点で88%、18才で魔力を保持しているのは全体の6%に過ぎない。

 俺は、その貴重な6%に含まれているのだ。

 魔力の喪失……というか射精は、適度に魔力を消費することによりコントロールが可能だ。

 男の子は7才までに王都に招集され、魔法の適性をチェックされると共に、魔力と性欲のコントロール方法を学んでいく。

 当然だが、7才を過ぎた時期から魔力を失うまでの間、女性と接することはなく、姿を遠目に見ることも稀である。

 そのため、女性がどうなっているのか、俺には知識がない。


 とはいえ、敵兵が女性の場合もあるのだが、その時にはモーリアのような魔力喪失兵が対応するため、俺たち魔法兵が戦場で女性と接することは殆どありえない。


 遠隔系や広域系の魔法が使える魔法兵は中隊の中央部に集まっており、その周辺を俺たち剣士部隊が囲んでいる。


 身体強化を使える俺は、偵察活動も任されていた。

 偵察活動は必ず2名1組で行うのだが、俺はモーリアと組むことが多かった。


 スリネの森は、今日も乾燥した風が吹き抜けていた。

 川は森の西側を流れているが、この季節は東から風が吹く。

 東は乾燥した岩山で、そこを通ってくる風に水分は望めない。


 とある偵察活動中、樹上から魔物の群れを発見した俺は、手信号でモーリアに伝える。

 12時の方向、50m先、ゴブリン、8匹。

 伝えるのは方角、距離、対象、数の順で決まっている。

 順番を間違えると、まったく違う意味になってしまう。


 この森のやっかいなところは、敵兵のほかに魔物も出現することだ。

 そこまで強力な魔物はいないが、それでも厄介なことに変わりはない。


 俺は樹上からモーリアを有利な位置に誘導し、準備を整えたうえで鋲(びょう)を投擲(とうてき)して端にいた一体の首を打ち抜き、その隣にいたゴブリンの胸に食い込ませる。

 鋲とは、鉄でできた3cmほどの留め具なのだが、それを両側に突起が出るように加工したオリジナルの武器だ。

 身体強化した体で鋲を投擲すれば、20cmほどの生木も貫通する。


 騒ぎ出したゴブリンの背後からモーリアが近づいて一体を切り倒すと、モーリアの出現に反応してゴブリンが一斉に振り向く。

 その隙を見逃さずに木から飛び降りざまに一体の首を切って、その勢いを利用してもう一体の足を切る。

 即死ではないが、足の腱を切れば十分に無力化できる。

 ちなみに俺の剣はロングソードではない。

 ロングソードは刀身が90cm前後で全長は120cmほどの剣だが、そこまで長い剣だと樹上に飛び上がったりする時に邪魔になることが多い。

 そのため、刀身60cmでなおかつ片刃の小ぶりな剣を特注して使っている。

 

 その小ぶりな剣を背中に背負い、左手には猫の爪を模したオリジナルの手甲をつけている。

 これらを駆使した戦いなので、一撃必殺のような剣士の戦いではなく武闘家に近い戦い方をする。


 とはいえ、ゴブリン程度ならば剣でも拳でも一撃で屠っていける。

 結局、モーリアが3体、俺が5体を始末した。


 俺はゴブリンの体に食い込んだ鋲を回収し、武器の汚れを脂分を含んだ草で拭って納めていく。


「ゴブリンじゃあ食えねえし、疲れるだけ損だよな。」

「かといって、食えるような獣は狩りつくしたみたいだし、最近は少ないよな。」

「そうだな。今じゃ干し肉ばっかりだし、偶には焼いた肉が恋しいぜ。」


 戦が続いていることもあって、前線の食糧事情は悪い。

 日々の食事は塩で味付けした麦の粥が多く、そこに僅かな干し肉の切れ端が入っている程度だ。

 森の中の葉物や芋も食べつくしてきた。

 そろそろ、この戦線の維持は限界じゃないかと思う。

 

 その日、特に成果もなく俺たちは部隊に戻った。

 いつものように用意された食事をして寝床に潜り込むだけだ。

 部隊全体に、生活には既に緊張感がなく、惰性の日々が続いている。

 敵と遭遇しても、大きな戦果をあげられることはめったにない。

 

 少し気になるのは、ここ数日敵の姿が見えないことだ。

 これまでの経験からいえば、大攻勢の前触れとも考えられる。

 気を引き締めなければならない。


 その夜のことだった。

 風のとまった寝苦しい夜だったが、俺は順調に眠りについたはずだ。

 突然、ドクンと心臓が跳ねる。

 ドク、ドクといいようのない動悸が続き、全身から汗が噴き出してくる。

 

「あっ、あっ……。」

「どうした、モッティー!大丈夫か!」


 うなされていたらしいが、一緒に寝ていたモーリアが起こしてくれた。

 

「なんだ、今のは……。」

「何があったんだ?」

「分からないが、夢の中に女が出てきた……。」

「まさか、出ちまったのか?」

「いや、淫靡ではあったが、なんか……気持ち悪くて吐きそうだった……。魔法攻撃かもしれない。魔法兵の様子を見てきてくれ。」

「分かった、待ってろ。」


 俺に影響が出ていて、モーリアに無害だとすると、魔法による精神攻撃の可能性もある。

 魔法による精神攻撃は、魔力喪失者にはほとんど効かない。


 嫌な予感がして、俺は身支度を整え外に出た。

 魔法使いの宿舎が大騒ぎになっている。


 赤い月が笑っている。

 今夜は、風の途絶えた嫌な夜だった。



【あとがき】

 新作です。

 30才までDTでいると魔法使いになれると言われているが、それってどういう事なんだろうか……ちょっと視点を変えて物語を綴ってみたいなと思います。

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