第一章 チームエアリー物語

第8話 1000年後の聖剣士リヴァイアが語る。


「敵国の姫と魔女に出会って、チームを組むって大変だったんじゃない?」

 大きく目を開けたレイスが、興味深げにいてきた。

「……まあ、そうだな」

 一瞬、彼女と視線を合わせた聖剣士せいけんしリヴァイアだったが、すぐに飛空艇ノーチラスセブンのデッキへ下げてしまった。

 それから、大きな溜息をついてしまう。

「正確には……組むしかなかったんだ」

 自分からオードールの宿屋でエアリーとイルレに出会った話をしたのだから、話さないのもおかしいのかもと思った。

 しぶしぶと、チームエアリーについて話を始めた。


「どうして?」

 レイスは、聖剣士さまの心苦しさには気が付かない……。

 彼女にとって聖剣士から聞ける物語は、伝説の女剣士の冒険談。

 ハラハラドキドキ……、RPGを楽しむプレイヤー感覚なのだ。

「バトルすることになったからだぞ……」

「バトルって、イルレって最強クラスの魔法使いでしょ?」

 敵国の魔女イルレは、サロニアム騎士団の間では天敵に近い魔法使いとして噂されていた。

 出会ったら最後、全滅を免れるすべはない。


「エアリーは、必死にイルレを説得してくれたけれど……イルレは本気でキレていた」

「リヴァイアがイルレを怒らしたの?」

 怒らして、どうして仲間になることになったのだろう?

 レイスの頭の中には、こんな矛盾が駆け巡る。

「い、いなだ! 我もイルレを説得したんだぞ」

 断固否定する聖剣士さま……、ひたいに冷や汗がにじむ。


「……バトルの結果、宿屋の一部を破壊してしまって、オードールの警護団が来てしまった」

「それって、バトルというより決闘じゃないの?」

 ルンが飛空艇の舵を握りながら、あろうことか聖剣士さまに対し余計なことをいてくる。

「……われらは逃げた」

 彼の言葉が心にグサッと刺さったためか?

 俯いてしまったリヴァイアである。


「逃げたって……」

 聖剣士に「逃げる」の選択肢は無いものと思っていたレイスが、目を丸くして驚いた。

「……正確には敵国の姫に汚名を残してはいけないと、イルレが判断した結果だった」

 逃げたのは敵国の判断であって、我ではない――。

 聖剣士リヴァイアは1000年前の敵国の魔女イルレに汚名を着せる。


「数日後、我らはお尋ね者になってしまった。オードールにづらくなった我らは、魔法都市アムルルへと逃避行することになったんだ」

「当時のアムルルって敵国なんだろ? それこそ居づらくなかったのか?」

 ルンがまた、余計なことをリヴァイアに喋ってしまう。


「……あの時、エアリーが『ボクたちと一緒に、アムルルに逃げましょう』と誘ってくれたから、我とサロニアム第7騎士団長のフラヤと我の直属の騎士シルヴィは、意を決して敵国へ向かうことにした」

 われらが逃げたのは、敵国の姫が誘ったからだ。

 聖剣士リヴァイアは1000年前のエアリーにも、さり気なく責任を押しつけてしまう。


「やがて、風の噂で聖剣士とサロニアム騎士団が、敵国の姫と魔女をかくまっていることにされてしまった」

「聖剣士が敵を匿っているって……あり得ないよね?」

 サロニアム王から賜った聖なる称号――聖剣士。

 敵国にくみするなんて、魔族に魂を売り払うようなものである。

 絶対に、あり得てはいけないだろう……。


「……もともとは、フラヤがイルレのなまり揶揄からかったからケンカになったんだ。これは本当だぞ!」

 今度はサロニアム騎士団の同僚――フラヤのせいにする聖剣士リヴァイアである。

「それってさ、悪いのはサロニアムってことにならないか?」

「……」

 言葉に詰まる聖剣士さま……。


 敵国生まれの自分は、預言書の通りにサロニアム騎士団に入隊した。

 預言書――究極魔法レイスマの通りに大海獣だいかいじゅうリヴァイアサンから毒気を浴びてしまった。

 預言書の通りに1000年を生きることになった我の運命――。


 戦争難民として生き続けた我の青春を……、我は本当はサロニアムを憎んでいた。

 オードールの中立化、サロニアムとグルガガムの交戦状態を長引かせてやろう……。


 それに、グルガガム大陸の北海ほっかいにある我の故郷――木組みの街カズースを守りたかった。

 軍事都市の攻略に手こずれば、カズースにまで戦火は届かないだろうと思った。


 我は怒りを押し殺してサロニアム第4騎士団長として、聖剣士として生き続ける覚悟を決めた。

 そして、我は真の目的のためにチームエアリーを利用して――サロニアムをこの異世界を復讐してやろうと思ったんだ。

 我は、そういう卑しい野心家の女なんだぞ……レイスよ。


「まあ、つまりだ……。そういう成りきで『チームエアリー』が誕生したんだぞ」

 飛空艇仲間には言えない、言いたくない……。

 レイスたちが想う聖剣士像を、聖剣士が自ら壊してはいけない。

 だから、聖剣士リヴァイアは言い訳せず……。


「……そうなんだ、リヴァイア」

「ああ、そうだぞ……レイス」

 サロニアム側がイルレのなまり揶揄からかったという、子ども染みたイジメが原因だったなんて……聖剣士の名折れだ。

「1000年前のリヴァイアに、そんな数奇すうきな思い出があったんだ……大変だったんだね」

 レイスは数奇という言葉を使って、当時の聖剣士リヴァイアの心情を理解しようとする。


「仲間割れから始まったチームエアリーだったな……」

 小さく息を吐いてから聖剣士リヴァイアは顔を上げて、飛空艇の横を流れていく大きな雲を眺める。

「まったく……人生とは思い通りにはいかないものだぞ」

 敵国の姫エアリーと魔女イルレを穏便に説得して、我の計画の協力者になってもらうはずだった。

 それなのに、フラヤのせいで……これではサロニアム側から最強クラスの魔女イルレに戦いを挑んだようなものじゃないか。


「聞いているか、フラヤよ……。あんたのせいだぞ」

 雲間の向こうを眺めながら、聖剣士リヴァイアがサロニアム騎士団の同僚フラヤを叱る。

「あの時、我も死ねる身だったら、今もお前と……」

 小声で彼女に話し掛けるように……、でも、それ以上は言わないことにした。

 寂しい視線のリヴァイアだったが、口角こうかくは緩んでいる。


 波乱だったはずの1000年前も、今は懐かしくて大切な思い出なのである――

 

「へぇ~! 聖剣士さまにも、思い出したくない思い出があるんですね」

 そこへ、後ろから話し掛けてきたアリアが、レイスの気遣いとリヴァイアの気持ちを台無しにする。

「アリアって! あんたなんてことを言うの!」

 慌てたイレーヌが、アリアの口を塞ぐ始末だ。





 続く


 この物語は、フィクションです。



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