溺るるは慟哭のヴィクティム

神宅真言(カミヤ マコト)

公募用あらすじ


■公募用・結末までを記したあらすじとなります。ネタバレ注意。

ネタバレが嫌な方は飛ばして次の話からお読み下さい。


  *


 一九七七年晩秋。深夜、助けを求め一人の女が金剛寺の門を叩いた。


 女の名は道子。道子は集落の異様さを住職アミダへと訴える。そして肩に付いていたイモリに異様な程に怯えを見せた。そのただならぬ様子に、アミダは弟子を調査に向かわせる事を決意する。


 弟子の名はカナメ、対魔や怪異討伐を生業とする術士である。アミダの説明により事の重大さを認識したカナメは集落の調査へと赴く事となった。初冬、霧雨で煙る山深い集落にカナメは訪れた。


 カナメが逗留する事となったのは代々巫女の血を引くと言われている静宮の屋敷だ。次代の巫女とされるシヅクは灰色の目と髪を持つ少女である。その色彩と中性的な雰囲気にカナメは亡き恋人の面影を重ね、心惹かれるのであった。


 集落の名は瑞池と行った。元々は金剛寺の所有する地であったが、明治の初期に移住地を求めていたとある一団に快く土地を分け与えたのが集落の始まりだと言う。


 三方を山に囲まれたその地は雨が多く、度々水害に悩まされた。西の山の湖に棲むという水神が水害の原因だと考えた当時の金剛寺の住職は、移住の一団を率いていた巫女と力を合わせて水神を封じた。それ以来、瑞池は住み良い土地となり、水神の名から集落を「ミズチ」と名付けたのだ。


 しかしここ二十年程はまた雨が多くなり、常に霧雨が降るようになっている。他にも集落では様々な怪異じみた異変が起きていた。シズクに頼まれ、カナメはそれらを必ず解決すると誓うのだった。


 集落での調査を開始したカナメだったが、次々と不穏な物事に遭遇する。妙な気を放つイモリ、首の無い女の幽霊、湖底に沈む多数の頭蓋骨、集落に不都合な話を封じる呪い、結界が張られた部屋と蔵。


 しかしそんな中でもカナメとシズクの距離は徐々に縮まっていった。手の込んだ美味しい料理や他愛ない会話はカナメの心を癒やし楽しませてくれる。また集落に住み着いている狸「安田さん」の存在はカナメの心を和ませた。


 手探りながらも少しずつ上方を集めてゆく。余りにも多くの「嫁」が消えているという事実、四方に置かれた謎の祠、静宮家に訪れる客達、巨大な照る照る坊主を吊す祭、警告の為に現れるイモリの群れ。


 そしてある夜、シズクがカナメの寝室を訪れる。裸身を晒したシズクは真実と共にカナメへの愛を告白する。シズクは巫女としての役割を果たす為、産まれて直ぐに男性器を切除され女として育てられたのだ。カナメはそんなシズクを受け入れ、結ばれた二人は結婚を誓い合う。


 急遽祝言を挙げる事となった二人。結婚し婿として静宮の者と認識されたカナメは、結界の中へと入る事が出来るようになった。書庫では初代静宮家当主やシズクの曾祖母の手記を発見する。


 初代当主の露子は邪法に魅入られた事で一族から追放された者だった。露子は呪い具の材料を安定して手に入れる為、解放令で利権や仕事を失い困窮した部落の住人に移住の話を持ち掛けたのだ。露子達は協力して無事瑞池への移住を成功させた。そして露子は自身を追放した一族、ひいては日本そのものへの復讐を胸に秘めたままその生涯を終える。


 そしてシズクの曾祖母のウキヱが露子の大願を引き継ぐこととなった。またウキヱは霊力の強い筈のシズクが男として産まれた事を危惧し、瑞池を作り変えていった。結界や呪いを施し、生贄を捧げる祭でイモリに力を与え、水神の力を削ぐ方法を構築したのである。


 これで殆どの謎は解けたが、一つだけ分からない事があった。生贄とされる女が、死んでいる筈なのに何故か生きているという現象だ。


 その手掛かりを掴む為にカナメ達は蔵を探った。カナメ達は蔵で隠された地下室を発見する。そこは呪い具を作る為の部屋であった。そこにあったシズクの双子の兄であるシグレの手記により、シグレが露子の大願を引き継いで呪い具を作り地位のある者に売り捌いている事、また「死者を生かす呪い」がシズクの能力である事が判明した。


 ショックを受けたシズクであったが、きちんと霊気を操る訓練を受ければ能力をコントロール出来ると諭され、希望を取り戻す。


 そして祭の夜、生贄を食そうと現れた巨大なイモリをカナメは撃ち倒した。しかしその反動で封印されていた筈の水神が目を覚まし、激しく雨を降らせ水害を巻き起こした。これにより瑞池は水の底へと沈み、カナメとシズク以外の住民はほぼ全滅する。水害を免れた子供達も謎の死を遂げ、偶然洋子という高校生だけが生き残った。


 翌年、カナメ達はアミダと共に瑞池の鎮魂の儀を執り行い、水神を鎮める。一方、洋子は子供を出産するが、生まれた女の子は灰色の目と髪をしていた。瑞池で拾った呪い具を手にした洋子は笑う。呪いの連鎖はまだ続くのである。


  *


【あらすじ・了】

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