カタリスト・コード

浅沼 渚

プロローグ

#0 ドクハク

 噓かと思うかもしれないが、ボクらが生まれるはるか前、ここは「日本にほん」という国の一部だったらしい。まあ学校の授業で習うようなことだから今更なんだけど…


 ボクらの住んでいる『帝都ていとセントラル』は、昔『日本』という国に隕石が衝突して半壊した跡地を、生き残った住民たちが復興させて新たにできた国なんだ。


 ここだけ聞くと、大災害を乗り越えた苦労話にも感じるが、実際のところはそうでもないらしい。とある天才科学者が隕石から新たななエネルギーを見つけたとかで、復興はあっという間に終わり、逆に隕石が落ちて来る前に比べて、目まぐるしい勢いで発展していったとか。


 と、まあこんな感じで隕石の衝突も、悪いことばかりじゃなかったみたいだけど、もちろん、それと同じくらい悪い事だって起こったらしい。



 それは、隕石の恩恵を受けて発展しているのは、ここ『帝都セントラル』だけってことだ。



 さっきも言ったけど、『帝都セントラル』っていうのは、元の国である『日本』のでしかない。残された元日本の領土は、『ヒガシ』『ニシ』と、もはや名前にも満たない名前で帝都が管理しているようで、最初は多くの反感を買い、中には武力行使をしようとする者も現れたらしい。


 しかし、『帝都はそれをいさめて和解にまで至った』と、教科書には書かれている。


 そして、今では友好的な関係が築けている…らしい。



「……………………」



 ボクは生まれてこの方、帝都の外に出たことがない。


 帝都は海に囲われており、面倒な申請をしなければ出入りができないようになっているからだ。



 外に出れば、この退屈な日常ともおさらばできるんだろうか…それとも案外、ここも外も変わらなかったりするのかな…?



 そんな下らないことを考えながら、今日も授業を聞き流している。


 先生は相も変わらず歴史の話をしており、今日は『七夕たなばた』というやつらしい。なんでも、願い事を紙に書いて吊るす、昔の日本で行われていた祭りだとか。



『今年は、楽しいことが起こりますように…』



 心の中で呟き、また授業を聞き流す。

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