Day22 雨女

 大学時代からの友人に最近、彼女ができたらしい。

 長年片想いしてきた相手なのだという。それはまあ、めでたいことではあるが、なんでもその彼女というのが、龍神がついている本物の雨女なのだという。


「……いや、いやいやいや、そりゃいったいどこの中二病設定だよ」

「設定じゃなくてガチなんだって」


 過労か心労か、そんな病むほどのブラック企業だったっけか……などと思いながら、彼女の雨降りエピソードを聞く。

 それまで雲ひとつない晴天だったのに彼女が外に出たとたん土砂降りになったとか、逆に彼女が建物内にはいったとたん、それまでの土砂降りが嘘のようにやんだとか。


「いやでも、なんかカラクリがあるんじゃ」

「天候をあやつるカラクリってなんだよ」


 それもそうだ。天候をあやつっているなら、それはもはや人間ではない。


「社内でも有名なんだよ。龍神の嫁っていわれてる。まあ、最初に龍神の嫁っていいだしたのはオレなんだけど」


 かれこれ三か月、週に一度はふたりで出かけているらしいが、そのすべてが雨だったというから、なるほど、たしかにガチなのかもしれない。


「じゃあまあ本物だとして、デートがいつも雨ってきつくねえの?」

「なんで?」

「いや、なんでて」

「彼女がいれば天気なんてどっちでもいいし」

「……あ、そう」


 びっくりした。素の惚気がきた。

 まさかこいつからこんな話を聞く日がくるなんて。

 明るい、軽い雰囲気に反して、中身はなかなかにこじらせていたりするこいつは、むかしから『まともな恋愛ができるとは思えない』といっていたし、俺もそう思っていた。

 そんな男が何年も片想いしていたというだけでも驚きなのに、その相手と関係を進めているということにも驚いたし、さらに素で惚気るようになっているなんて。

 それも雨女パワーなのだろうか。だとしたらすごい。


「なあ、今度俺にも紹介してよ。その雨女さん」

「え、やだ」

「即答かよ! なんでだよ」

「おまえと三角関係とかやだし」

「なんの心配してんだよ! 俺は嫁ひとすじだ!」

「知ってる」

「おい」

「……冗談だよ。彼女に訊いとくよ」

「……おう」


 こいつマジだわ。マジで恋してやがる。

 いやなんだ、この遅れてきた青春感。空気がかゆいんだが。


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