Day9 ぱちぱち

 ぱちぱちと、またたく瞳がかわいかった。

 それが、ウソをつくときのきみの癖だと気づいたのは少しあとのことだ。


 陽キャ代表みたいにふるまいながら、じつは賑やかなのも大勢で集まるのも苦手なきみのウソサインに気がついたときから、見える世界が一変した。


 女の裏切りはアクセサリーみたいなもの、とか、女は秘密を着飾って美しくなる、とか。『いい女』の代名詞のようになっている有名なセリフがあるけれど、きみはまだそのレベルには達してなくて、自分のウソに自分で傷ついているみたいだった。


 ぱちぱちと、またたく瞳はかわいかったけれど、呑気に見ていることができなくなるまでそう時間はかからなかった。


 あるときはタイミングよく、あるときはあえてタイミング悪く、まわりにさとられないように場を誘導したり邪魔したりするようになってしばらく。


 ——また助けてくれたでしょ! ねえ、なんでわかるの!? エスパー!?


 自分のクセに気がついていないきみは、いちいち驚いていたっけ。

 ほんとうは、きみにもわからないように助けたかったんだけど、ぼくもまだそのレベルではなかったみたいだ。

 でも、そのおかげできみと恋人になれたんだから、結果オーライだよね。


 きみのクセは、たぶんぼくだけが気づいている秘密だ。


 ケンカをして『大嫌い』といわれたこともあるけれど、その瞳がぱちぱちとまたたいていたものだから、それ以上怒れなくなって秒で仲直りしたり。


 ある意味ウソがつけない、とてもわかりやすいきみのクセ。

 まだしばらく、ぼくだけの秘密にしておきたいと思う。


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