JKアサシン 米子
南田 惟(なんだ これ)
第1話 Chapter1 「米子参上 刺客殲滅」
3人の男が床に転がっていた。男といってももう息が無い。死体だ。
米子(よねこ)は3人の男の首筋に次々に手を当てた。1人の男に微かに脈があった。米子は制服のポケットからコールドスチールの折り畳みナイフを取り出すと刃を開いた。首を切ろうかと思ったが、現場を汚したくなかった。男のスーツを捲り、刃を肋骨に平行になるように押し当てて、一気に深く刺した。男の横に落ちていたスマートフォンを手に取った。スマートフォンにロックは掛かっていなかった。発信履歴を見ると自分の電話番号が記録されていた。間違いない、呼び出したのはこの男だ。米子は自分をスマートフォンで電話を掛けた。
『掃除をお願いします。3つです。状態は綺麗です。場所は港区です、位置情報はLINEで送ります』
米子はSIG‐P229と男達のスマートフォンと財布をA4サイズの肩掛け鞄に入れた。鞄の中は357SIG弾の入った弾倉が2つとショウペンハウアーの文庫本一冊、『コーラグミ』の袋とリップクリームだった。その後、米子は木崎に電話を掛けた。
『木崎だ』
『米子です。さっき話した男を排除しました。3人でした。スマートフォンと財布をとりましたので明日渡します』
『大丈夫か? 今日は直帰しろ。尾行に気を付けろ。明日は朝一番で事務所に顔を出すんだ。学校にも行くんだ』
『わかりました』
米子は制服姿だった。通っている『桜山学園』の制服だ。紺色のブレザーに白いシャツにブルーのスクールリボンにブルータータンチェックのミニスカート。靴は黒いタッセルローファー。身長は165cm。肩までの黒髪、少し憂いのある顔は美しかった。アイドルになれるルックスだ。
青葉組は広域暴力団『三輝会』(さんきかい)の3次団体の枝の組織だった。自分達のシノギの他に上部団体の下請け的な汚れ仕事もしていた。
「兄貴、今回の仕事って、子供をやるんですか?」
西山が高い声で言った。
「ああ、上からの仕事だ、文句を言うな。でも、俺も気が進まねえよ。本当に敵なのか?」
山岡が不満そうに言う。
「沢村米子(さわむら よねこ)。桜山学園に通う17歳の女子高生だ。だけど腕は確からしい。舐めてかかるとやられるぞ」
川村が窘めるように言った。
「『米子』って、女子高生ですよね? 17歳で米子って、なんか可哀想ですね。親は何考えてるんですかね。でもカワイイですね」
写真を見ながら西山が言った。
米子は渋谷の公園通りのカフェでアイスカファモカを飲みながらショーペンハウアーの文庫本を読んでいた。テーブルの上のスマーフォンが振動した。米子は読んでいた文庫本をテーブルの上に置くとスマートフォンを取った。
『はい』
『沢村米子さんですか?』
聞き慣れない男の声だった。
『どなたですか?』
『あなたの大事な友達を預かってます。『杉本淳史』です。今から言う場所に来てください』
男の指示した場所は港区のオフィスビルの地下駐車場だった。米子はカフェを出て、公園通りでタクシーを拾った。タクシーの中で木崎に電話をした。
地下駐車場には20台程の車が駐車していた。米子は電話の男が言ったシルバーのワンボックカーを見つけたが無視して歩き続けた。しばらくしてワンボックスカーのスライドドアが開いた。
「あいつ通り過ぎたぞ?」
西山が言いながら車から降りた。
「この車に気が付かなったのか? 探して捕まえろ」
川村が小声で言った。
3人の男達が分かれて地下駐車場の中を歩いている。米子を探しているのだ。スーツの襟から中に手を入れている。車の停まっていないスペースで3人は合流した。車5台分のスペースがあった。
「どこに行ったんだ?」
「もうここにはいないんじゃないですか?」
「電話してみるか」
川村がスーツの胸ポケットからスマートフォンを取り出して電話を掛けた。呼び出し音が数回聞こえてから相手が出た。
『もしもし』
『おい、どこにいる?』
「ここだよーーーーん!!!」
若い女性の声が地下駐車場に響いた。男達は慌てて後ろを振り返ろうとした。
『バンッ!』 『バンッ!』 『バーーーン!』
大きな銃声が地下駐車場に響いた。男達は背中から撃たれた。357SIG弾は男達の背中から入った。弾頭は鉛が剥き出しだったため、貫通しないで体内に留まり、弾丸の持つ運動エネルギーを全て体内に放出した。男達がその場に崩れ落ちた。1人の男の手から拳銃が床に落ちて『ガシャン』と音を立てた。
「ふーん、コルトパイソンか。なかなかいい銃持ってるじゃん」
米子は肩掛け鞄にコルトパイソンを押し込んだ。鞄がパンパンになった。
米子はエレベーターで地上に上がろうとした。エレベーターのドアが開いて初老の警備員が降りて来た。
「おじさん、どこ行くの?」
米子は笑顔で訊ねた。男を魅了する笑顔だった。
「ん? 駐車場だよ。最近車上荒らしとか多くてね」
初老の警備員は嬉しそうに言い、米子の美貌に目を奪われた。
「うっ」
初老の警備員はその場に倒れた。左脇腹にコールドスチールの折り畳みナイフが刺さっていた。米子は警備員の後ろ襟を掴んですぐ近くにあった非常階段まで引きずった。
「ごめんね。急所は外したと思うから、掃除屋さんが来るまで大人しくしててね。救急車を呼ぶように掃除屋さんに頼んでおくからね」
米子はエレベーターに乗った。鞄の中をまさぐってコーラグミを2つ摘まんで口の中に放り込んだ。
「グミうま」
米子は夕方の六本木の歩道を軽やか歩いた。その姿は、どこにでもいる女子高生だった。いや、かなり可愛かった。米子の美貌はクラスで1番とか学年で1番とかいうレベルではない。アイドルのオーディションを受ければ間違いなく最終選考に残るレベルである。美人系とカワイイ系が同居しており、表情によってどちらかが引き出される。澄ました顔は美人系で少し表情を崩すとカワイイ系になる。美人好きにもカワイイ好きにも受けいれられる容姿をしている。
事実、渋谷などの繁華街を歩けば芸能事務所やモデル事務所のスカウトが引っ切り無しに声を掛けてくる。キャバクラや風俗店のスカウトが米子の容姿のレベルの高さに声を掛けるのを躊躇する事もしばしばだった。
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