RE:こうのとりのゆりかごに預けられた子が、本当の親に会いに行く物語。
大瀧潤希sun
第1話 赤ちゃんポスト、そして東日本大震災
彼といけないことをしたのは、そんなに後悔はしていない。
でも、それで妊娠してしまったことは少し憤りがある。
「ゴムなしでヤろうよ」
その言葉の魔法に、抗えなかった弱い私だけど、もちろん赤ちゃんには責任はない。
私は大きく膨らんでいくお腹を擦って、涙を流した。
「ごめんね。こんな女で」
私はその後、トイレで出産し、バスタオルで巻いて赤ちゃんポストにその赤子を置いた。
一枚の手紙を添えて――。
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熊本県に赤ちゃんポストはある。別名こうのとりのゆりかご。
度々その社会的問題の観点から蔑視的扱いを受けてきたし、対応する社会ベッドの盤若さもあって問題視されていた。
しかし世界各国を見ても、例えばドイツでも九十か所ほどこういった施設はあるし、性的暴力などの望まない妊娠をした女性の拠り所にもなっている。
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十六年後。
「あたい、なんで補習受けなあかんねん」
「そりゃあ、テストで赤点とったからじゃない?」
「そんなん仕方ないやろ。あたいもやることあったんや」
先ほどから関西弁を話しているのは、
「やることってなによ」
「FPSに決まっとるやないの‼」
「ゲームじゃんか‼ そんなの言い訳でしょうが」
「うっさいわい。ホンマにじゃかましいわ」
「なんですって・・・・・・‼」
ずっと夏音と言い争いをしているのは、
「翼もなんか言ってやんなよ」
「夏音ちゃん。そんなんだったら大好きなBL本、貸して上げないよ」
その一言で夏音は豹変した。真面目に勉強する、と粛々と言ってノートにシャーペンを走らせはじめたのだ。
ちなみに、BL本とは翼が書いている同人誌だ。最近は有名漫画の主人公同士をイチャコラさせる本を書いてpixivに配信している。
「全く、腐女子のパワーはすごいわね。あっ、店員さんパンケーキください」
梨奈が手を上げてそのあと注文した。パンケーキを注文するのはこれで十枚目だ。
「よく食べるねえ。それでこのスタイル保ってんだからまじで羨ましいわあ」
翼は梨奈の太股をまさぐった。
「ん、変なとこ触んないでよ」
梨奈は上目使いで翼のことを見た。あれ、百合フラグじゃんか。好ましいわあ。
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そして、その瞬間は唐突に訪れた。
テーブルが揺れて食器が落ちて割れた。
「その場から動かないでください‼」
店員の指示に従う。
たぶん、これは地震だ。そしてとても強い。
数分後、揺れは収まった。会計はいいとのことなので急いで外に出る。
緊急地震速報が鳴っていた。どうやら東日本で大きな地震があったらしい。
ここ、東京でも震度5強だったのだ。
携帯のネットで検索すると、東日本は震度7だったらしい。
翼は唖然としてしまった。
つづく
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まず、能登半島地震で被害に遭った方、ご親戚や家族がその地震で被害に遭われた方、お見舞い申し上げます。今なおシェルターで避難されている方もいらっしゃると思います。
この小説は、こうのとりのゆりかごに不幸ながらも預けられてしまった女の子、渡利 翼。
最初は本当の親の愛情を知らない少女が里親さんのところで愛され、親友にも恵まれ、不幸から幸福へと変わったそんな少女は、東日本大震災が起きたきっかけで本当の親が東日本にいると里親さんに伝えられ、少女が意を決して会いに行く。そして地震の現場を見た少女は愕然とします。しかし、いつか会えるその日までたくさんの人を救うことを続けていました。炊きだしをやったり、救護の手伝いをしたり、と。
どうしてこの少女はそのような行為をするのか。それはこうのとりのゆりかごという福祉サービスに救われた少女の、ある種の宿命的な役割を無自覚に果たしているだけなのです。
そして、本当の親に出会ったとき、少女――渡利 翼はどうするのか。
ご期待下さい。2024年6月30日
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