溺愛するには知略が必要です。武力も必要です。
夕日ゆうや
第1話 戦場にて。
知の
すでに戦局は硬直し、疲弊していた。
だが戦いは終わっていない。
私は思う。
人はなぜこうも争うのか。
それは知がないから。
人々に勉学を学ばせ、わかり合う道を模索すれば、きっといずれ平穏な日々が訪れると信じて。
俺は思う。
人はなぜこうも戦うのか。
それは武がないから。
圧倒的な力で統治することで、人から争う意思を取り除けば、きっといずれ平穏な毎日が過ごせると信じて。
――そして今は戦場にいる
「侵攻部隊を撤退させなさい。第二補給ラインまで後退。その後、弓兵による遠距離攻撃を
「アイ様。それでは……」
「これが最善の手よ」
そう。これが最善なのだ。
藩も宙にも被害を出さないですむ。
双方の人的被害を減らすにはこの作戦が一番被害が少ない。
知の私には生まれながらその才に恵まれている。
彼と会ってから三年。
この時を待ちわびていた。
これに勝てば和平交渉の機会がある。
彼もバカじゃない。それは分かっているはず。
「兵を無駄に死なすな」
「はっ! 分かりました!
側近のアストは部下に指示を出す。
私の後方で紫煙がもくもくと漂い始める。
望遠鏡で見てみると、くぼんだ地形の両端に友軍の弓兵が立ち並ぶ。
槍兵や歩兵は散開し、こちらに戻ってきている。
これなら勝てる。
あそこには前もって準備していた罠もある。
にたりと口の端を歪めて、私はその状況を見やる。
「やはりアイ様はお人が悪い」
やれやれと首を振るアスト。
「なぜです?」
「だって、敵兵が減ればこっちの人的被害は最小ですむのですよ? 人は武器を手にまた襲ってくる。そんなことも分からない姫様ではないでしょう?」
「何を言っておる。人は争うことを好んでいない。早期終戦。それがみなの望みだ」
そう信じておる。
そして彼と結ばれるんだ。
☆★☆
「なんだと? 敵軍が引いている?」
状況をうれいた俺はメイドに指示を出す。
「
「はっ。しかし、今がチャンスかと……」
メイドである彼女は優れた頭脳を持つ。
「いや怪しいな……。この両脇へ部隊を回せ。あとは俺が出陣する」
「レン様! それは……!」
咎めるように声を荒げる七瀬。
「いい。部下をむやみやたらと死なすな。俺が行けばすむ」
俺はテントから出て刀を手にする。
「出陣じゃ――っ!」
愛馬を駆り、敵軍予想進路に向けて予備兵を集める。
俺はこれに勝ったら、アイ=レンティアを力尽くでも奪ってみせる。
それが俺の生きる意味。
戦う理由だ。
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