溺愛するには知略が必要です。武力も必要です。

夕日ゆうや

第1話 戦場にて。

 知のちゅうと武のはんに別れ、人々は争っていた。本来同一だった国家だったが知と武を兼ね備えていたジークフリート領主が亡くなって半年。

 すでに戦局は硬直し、疲弊していた。

 だが戦いは終わっていない。


 私は思う。

 人はなぜこうも争うのか。

 それは知がないから。

 人々に勉学を学ばせ、わかり合う道を模索すれば、きっといずれ平穏な日々が訪れると信じて。



 俺は思う。

 人はなぜこうも戦うのか。

 それは武がないから。

 圧倒的な力で統治することで、人から争う意思を取り除けば、きっといずれ平穏な毎日が過ごせると信じて。



 ――そして今は戦場にいる



「侵攻部隊を撤退させなさい。第二補給ラインまで後退。その後、弓兵による遠距離攻撃を〇〇まるまる一二いちににて敵軍を迎撃!」

「アイ様。それでは……」

「これが最善の手よ」

 そう。これが最善なのだ。

 藩も宙にも被害を出さないですむ。

 双方の人的被害を減らすにはこの作戦が一番被害が少ない。

 知の私には生まれながらその才に恵まれている。

 彼と会ってから三年。

 この時を待ちわびていた。

 これに勝てば和平交渉の機会がある。

 彼もバカじゃない。それは分かっているはず。

「兵を無駄に死なすな」

「はっ! 分かりました! 狼煙のろしをあげい!」

 側近のアストは部下に指示を出す。

 私の後方で紫煙がもくもくと漂い始める。

 望遠鏡で見てみると、くぼんだ地形の両端に友軍の弓兵が立ち並ぶ。

 槍兵や歩兵は散開し、こちらに戻ってきている。

 これなら勝てる。

 あそこには前もって準備していた罠もある。

 にたりと口の端を歪めて、私はその状況を見やる。

「やはりアイ様はお人が悪い」

 やれやれと首を振るアスト。

「なぜです?」

「だって、敵兵が減ればこっちの人的被害は最小ですむのですよ? 人は武器を手にまた襲ってくる。そんなことも分からない姫様ではないでしょう?」

「何を言っておる。人は争うことを好んでいない。早期終戦。それがみなの望みだ」

 そう信じておる。

 そして彼と結ばれるんだ。


☆★☆


「なんだと? 敵軍が引いている?」

 状況をうれいた俺はメイドに指示を出す。

七瀬ななせ。状況が見えん。むやみやたらに突撃させるな」

「はっ。しかし、今がチャンスかと……」

 メイドである彼女は優れた頭脳を持つ。

「いや怪しいな……。この両脇へ部隊を回せ。あとは俺が出陣する」

「レン様! それは……!」

 咎めるように声を荒げる七瀬。

「いい。部下をむやみやたらと死なすな。俺が行けばすむ」

 俺はテントから出て刀を手にする。

「出陣じゃ――っ!」

 愛馬を駆り、敵軍予想進路に向けて予備兵を集める。


 俺はこれに勝ったら、アイ=レンティアを力尽くでも奪ってみせる。

 それが俺の生きる意味。

 戦う理由だ。

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