9 彼の一押し

 精密検査は思いのほか早く結果を聞くことになった。

 愛海は自分で、結果が良くないことはわかっていた。仕事が続けられなかったくらい、病気は生活に支障をきたしていた。

 でも侑人に背中を押されなければ、検査という一歩を踏み出せなかったと思う。

 一週間後、愛海は病院からの連絡を受けて侑人に言った。

「私だけで聞きに行くよ」

 けれど侑人は直接やって来て、愛海を見つめ返しながら告げる。

「一人で行かせると思った? 言ったろ、俺たちは専属の関係なんだって」

「……ありがとう」

 本当は怖かったから、侑人が一緒に行ってくれるのはうれしかった。

 愛海は車で送ってもらって、診察室にも侑人と一緒に入った。

 診察室で待っていた医師の御堂は、優しい面差しをしかめて切り出した。

「どうしてこんなに悪くなるまで放っておいたの」

「あ、えと、ごめんなさい」

 一瞬で先生に叱られる子どもになった愛海に、御堂はレントゲン写真を見せながら言った。

「見てごらん。右が正常な場合、それで左が愛海ちゃんの写真。だいぶ腫れてるのがわかるね?」

 御堂は嘆かわしげに息をついて言葉を続ける。

「発熱と発作を繰り返したそうだね。これじゃ相当痛かっただろうし、発作もひどかったはずだよ」

 うなだれた愛海の隣で、侑人も御堂の言葉を聞いていた。

 侑人は落ち着かせるように愛海の肩を叩いて、彼女に言う。

「これからは俺がそうさせないから。側で見ています」

「侑人くん?」

 愛海はそれを聞いて、驚いて顔を上げる。

 御堂は侑人を見やって、彼がまとう真剣さを感じ取ったようだった。二人をみつめてほほえむと、言葉を切り出す。

「時間をかけて悪くなったものだから、治療には時間がかかる。でもこれは適切に処置していけば、快方に向かう病気だ。侑人君、どうか支えてやってほしい」

 侑人は御堂を見返して言う。

「もちろんです。先生、最適な医療の提供をお願いします。費用も時間も、どれだけかかっても構いません」

 侑人は問答無用でそう言いきって、愛海の抵抗を収めたのだった。

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