こいだったり?
「指輪なくしちゃった」
てへ、と笑う彼女に思わずため息をつく。彼女は反省しているようにはとうてい見えない態度で、
「どこにいっちゃったんだろーねー?」
鼻歌が聞こえそうなかろやかさでセリフを吐く。それから決まってこちらを見上げて甘えた声を出すのだ。
「ね、ね、探してきてよ」
「やだよ。何回目だと思ってんの」
彼女のうっかりは度を越している。毎日何かしら彼女の持ち物が減ってる気がする。それを毎度探しに行くのは俺で、勝率は三割ほどしかない。探し甲斐もないから引き受けるのも嫌になってきた。
「ねえおねがいー」
「……」
「ねーえー」
しかしばたばた足をばたつかせる彼女を諦めさせる方が面倒になって、結局いつものように受け入れる。
「はあ……それで、今度は誰からの?」
「もともともともと…もとカレからかな?」
「んなもん失くしたままでいろ」
今カレに頼む探し物じゃないと思う。
「もともともともともと彼もいつのまにかいなくなったんだよねー」
「ホラー?」
彼女の指にはあと四つ指輪がある。つい先日まではすべての指を指輪が占領していたはずだが、半分も姿を消してしまった。どれも昔の男からの贈り物だったから俺としてはなくしたままでいいけど。この前も失くしたと泣きついてきた元元カレからの指輪は、見つけられたけど用水路に放っておいた。今回もくだんの指輪が見つかろうがなかろうが同じ道を辿ることになる。
でも俺があげた指輪もいつか失くされてしまうんだろうか。彼女の薬指で静かに輝く指輪を思って、そんな未来が来ないように今のうちに瞬間接着剤でも塗っておくか、なんて気持ちになってくる。
「ねえ、怖いこと考えてない?」
「考えてない」
思ってるだけだよ。
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