五十日後の祭り

 暗い部屋で最大限明るくしたテレビをぼんやりと見つめる。

「何みてんの」

 帰ってきた彼がものめずらしそうな顔でソファの横に座った。

「あー、アニメ? ちっせーころに見てた気がするわ」

「うん……」

 少年少女向けの長編シリーズもの。バトルあり涙ありの傑作だが、物語ももう佳境だ。ラスボスとの闘いで主人公たちが苦戦をしいられている。それでも必死に戦っている彼らは文句なしにヒーローだ。

「目悪くなんぜ」

「ん……」

「おい」

 せっかくいいシーンなのに、あごをつかまれて無理やり彼のほうを向かされる。

「心配してんだろーが」

「あはは」

 テレビから流れる傷つきながらも笑うヒーローたちの声と自分の声が重なった。馬鹿な野望を口にするラスボスに、彼らは「俺たちが負けるわけない」って力強く言い放った。そんな彼らを横目に、私は彼に返す。

「心配すんの、あんたが?」

「するよ」

 彼の態度は真剣だけれど、残念でした。

「わたし、あんたが出てってからこれ毎日一話見てたの」

 このアニメは今日で五十話めだ。ふらっと遊びに行っては気まぐれに私のもとへ戻ってくる彼を待つのは何度目だろう。待っていた時間は最長記録だった。

 心配だなんてもう遅い。明日は眼鏡でも買いにいこうかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る