再演

 休日、彼女とふたりでだらだらとテレビを見ていた。ソファからもう何時間も動いていないかもしれない。彼女はクッションをひいて床に座っている。こちらもずっと座りっぱなし。一年くらい前はやっていた恋愛ドラマの一挙再放送だったが、そろそろ物語も幕を終える。

「普段あんま恋愛系見ないけどおもしろかったわ」

 そう言うと彼女も頷いた。

「ねー。放送してた時は見てなかったけど、やっぱり食わず嫌いはだめなのね」

「あれ、恋愛ドラマ好きじゃなかったっけ?」

「好きだよ。でもこれ三角関係どころか、四角五角浮気上等みたいなドロドロ系じゃん。あらすじでそう言ってたから見なかったんだよね」

「あーね」

 確かに、前に行った映画ももっと爽やかな恋愛ものだったか。

「じゃあなんで今日はこれにしよって言ったんだ?」

「心境の変化かな?」

 なんとなく彼女の声のトーンが落ちた気がした。俺の前に座ってテレビを見てるから表情はわからない。

「ふーん?」

 手持無沙汰だった手で彼女の髪をあそぶ。「こそばゆいよ」と払われてしまったけど。

 そうこうしているうちにドラマが終わった。結局そっちのヒロインと結ばれるのか。

 エンディングを眺めつつ、軽く感想を話すうちに一番印象に残った場面の話になった。

「途中のシーンやばかったな。デート中に修羅場はじまるやつ」

「ああ、女の子たちがファミレスで暴れて出禁になるとこ? だめだよねー、同時並行で二人と付き合って天秤にかけてるの。そりゃバレたらこうなるよ。主人公もいつ刺されてもおかしくなかったね。刺されなかったけど」

「な。でも現実世界でああいう修羅場みたことないな~」

「そうだね」

「ちょっと見てみたいよな」

 笑いながら、冗談のつもりの発言だった。彼女の返事ははやかった。

「リカコ呼べば? 演ってあげる」

 突然彼女の友人の名前が出てきて、言葉につまる。

「……なんで斉藤さん?」

「だから、修羅場やってあげるって。この前二人でデートしてたの知ってるよ。映画観に行ってたね~」

 いつのまにか立ち上がって、俺を見下ろしている彼女の表情は笑顔だ。笑顔だけど、怖い。

「ね。ファミレスいこっか」

「……あの」

「準備してくるね」

 彼女はゆったりとした足取りで部屋を出て行く。その背を追いかけられないまま、「いつ刺されてもおかしくない」といった彼女の台詞が脳内から離れなかった。

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