全力トラップ&サバイブ
つーか平然とトレインしてくんなっつーの!!
あるか知らんがMPKなんぞ!!
——応戦するしかないか。
突如として、命懸けの鬼ごっこの火蓋が勝手に切って落とされる。
「クソ、後で覚えとけよ……! まあ、いい。それよりロール教えろ!」
「ミドル、ガンナー、トラッパー! アラヤは!?」
「クロス、ガンナー、タンクだ!」
「じゃあ、前で足止めよろしく! わたしはその間に逃げる用の準備をするから!」
流れるように立ち位置を入れ替えるや否や、プロヴォークを発動。
獣人型アンノウン——四腕獅子(仮)のヘイトがティアに向かないようにする。
今の耐久だとまともに受け止めれば速攻でHPが尽きる可能性が非常に高い。
防御系のアビリティを駆使した上で上手く攻撃を受け流す必要があるか。
「何秒稼げばいい!?」
「四十……いや、三十秒!」
「貸し一つだからな! 絶対間に合わせろよ!」
「うん、任せなさいって!」
短く言葉を交わし、俺は目の前の脅威に備える。
早速、四腕獅子が繰り出す右ストレートをパワーガードとさっき習得したばかりの防御アビリティ——リベンジガードを同時発動させた大盾で受け流す。
「って、重っ!!?」
ちゃんと踏ん張んなきゃ簡単に吹っ飛ばされるぞ、これ……!!
しかも、直撃でないにも関わらず、衝撃を殺しきれずに二割くらいダメージを食らってしまっている。
これは何発も安定して受けるのは無理そうだ。
なら……こっちが取るべき行動は反撃だ。
大したダメージにならなくとも、動きを多少封じることは出来るはず。
重要なのは、こっちが防戦一方にならないこと。
だけど、その前にやっておくことがある。
四腕獅子からの攻撃を全力で対処しながらのメニュー画面操作。
手早く錠剤型の回復アイテム”タブレットポーション”を取り出し、失ったHPを回復させ、シェルブレイカーと無名の散弾銃のセット枠を入れ替える。
こっちではぶっつけ本番で試したが、ソマガではよく使うテクニックだった。
HPの回復はついでだったが……どちらも上手くいって何よりだ。
——おかげで心臓バックバクだけどな……!!
ここまでリスクを冒してまでメインとサブのショットガンを入れ替えたのは、無銘の散弾銃の方が四腕獅子には有効そうだったから。
重要なのはダメージではなく、動きを止めること。
「っ!」
スプレッドショットを発動——四腕獅子の顔面を狙って散弾を放つ。
視界を潰せれば、攻撃を当てにくくなるはず……そういう算段だったが、ここでいつものクソエイムが発揮してしまう。
放たれた散弾は、四腕獅子の顔面から少し右下——左肩に逸れてしまう。
「チッ……!」
しかし、クリティカルが発生。
一秒にも見たいない短い間ではあるが、四腕獅子の動きを鈍らせ、丁度繰り出そうとしていた左ストレートの勢いを弱めることには成功する。
本当は目を潰したかったが、今はこれで十分——!
アンノウン数体を狩っている間に習得したパリィを発動させ、ほんの少しだけ威力の落ちたであろう左ストレートを受け流しながら弾き、四腕狒々の体勢を大きく崩してみせる。
「っらあ! パリィ決まった……って、は!?」
だが、喜んだのも束の間。
地面に片膝をついてよろめきながらも、四腕獅子は空いていた両腕の拳をくっつけハンマーのように振り下ろしてきた。
——マズい!
例え受け流しであってもガードするのは危険だと判断。
大盾を構えながら後ろに跳んで回避する。
組んだ拳が地面に衝突した途端、爆弾を炸裂させたかのような轟音が響く。
拳を中心にして地面が砕け、破片が辺りに飛び散る。
多分、あれもモロに食らえばダメージになっていたことだろう。
「この野郎、油断も隙もねえな……!!」
でも、この一瞬の気も抜けない緊張感は悪くない。
なんか、こう……闘志が湧き上がってくる。
「来いよ、あとちょっとだけ遊んでやるよ」
これでもタンクの端くれだ。
残り約二十秒、死ぬ気で耐えてみせる——!
足元に張り付くようにして四腕狒々の攻撃を掻い潜る。
パンチ、ラリアット、裏拳、アムハン……絶え間なく繰り出される攻撃は、どれもほんの僅かにでも気を抜いたら一瞬でやられるほどの速度だ。
集中力を限界まで研ぎ澄まし、都度適切な対処で奴の攻撃を耐え凌ぐ。
「チッ……!!」
ほぼ完璧に盾で攻撃を防いでもダメージが発生してしまう。
だけど避けオンリーでやり過ごすのは、少なくとも今のステータスじゃ不可能だ。
コイツ……巨体に見合わず、動きがクッソ速えんだよ……!!
たかだか二十秒が、今は果てしなく長く感じる。
普段なら気付けばすぐに経過する程度の時間なのに。
クソ、まだ終わらねえのか……!?
返しの散弾をぶっ放した後、歯噛みする思いでインベントリから再びタブレットポーションを取り出し、即座に口の中に放り込む。
速攻で噛み砕いて飲み込めば、失われていたHPがほぼほぼ全快する。
直後に四腕獅子のラリアットを同時発動させたパワーガードとリベンジガードで受け流すようにガードした。
その時だった。
少しだけ構え方が甘かったのか、今までで一番の衝撃が全身を貫き、大盾に手の施しようのないレベルの亀裂が入る。
「ぐっ、しまっ!?」
気づいた時には時既に遅し。
瞬間、回復したばかりのHPが半分も消失し、大盾は無惨にも破損——ポリゴンの粒子へと変わり果てた。
——クッソ、やらかした!!
大盾がぶっ壊れたのはまだいい。
このゲームの武器は、実際の物質じゃなくてマナで構成されているらしい。
だからMPを消費さえすれば、新しいのを形成し直せる。
問題は再構築に時間を要すること。
何より今の防御で俺が大きく体勢を崩してしまったことだ。
今のままだと四腕獅子の次の攻撃に対して、ガードも回避も間に合わない。
死が脳裏を過る。
ほんの一瞬で良い。
奴の行動を一時的に止めることが出来さえすれば、態勢を整え直せる。
だけど残念ながら、その隙を生み出す手段を持ち合わせていない。
状況としてはほぼ詰んで……違う、まだチャンスは残っている。
成功するかはギャンブルだが、やらなきゃなす術なく殺されるだけだ。
試すだけ試して、後のことは天運と乱数に委ねるとしよう。
やることは単純——、
「捨て身のフルアタ喰らいやがれ!!」
シェルブレイカーを呼び出し、それぞれのショットガンで散弾をぶっ放す。
無名の散弾銃は通常の弾丸をひたすら乱射し、シェルブレイカーはスプレッドショットを発動させる。
結果——攻撃の予備動作に入っていた四腕獅子を怯ませることに成功する。
「っし!」
これで第一のギャンブルには勝った。
……だけどまだこれで終わりではない。
軽く怯ませただけだと、あれが——アムハンが飛んでくる。
杞憂で済んでくれれば良かったのだが、俺の嫌な予想は見事に的中する。
四腕獅子はひっくり返りそうになりながらも両腕の拳を合わせ、強引に振り下ろそうとしてくる。
すぐに体勢を戻して回避を試みるが、俺も俺で無理矢理ショットガンをぶっ放したせいで、反応に対して身体が追いつかない。
——敗北を悟る。
(チッ……ダメだったか)
けど、やれるだけのことはやった。
ティアとはまた離別することになるけど、同じゲームにいることが分かっただけでも収穫だ。
近いうちにまたどっかで今みたいな感じに遭遇するだろ。
そんで今回のやらかしの折檻してやる。
などと心に決めながら、デスを覚悟した瞬間だった。
後方から重い銃声が轟くと、大量の弾丸が四腕獅子の頭部を撃ち抜いた。
元々バランスを崩しかけていたところにダメ押しの弾幕を喰らったことで、四腕獅子は完全に体勢を崩し、遂に仰向けになって倒れた。
一瞬、何が起こったのか分からなかったが、咄嗟に背後を振り向けば、
「お待たせ! こっちの準備は完了したよー!」
ティアがブンブンと手を振っていた。
マシンガンの銃口からは紫煙が立ち昇っていた。
「サンキュー、ティア! 今のマジでファインプレー!」
今のアシストが無かったら間違いなくやられていた。
どうにか九死に一生を得たな。
シェルブレイカーを破棄し、一目散にティアの元へと駆け寄る。
「時間は稼いだぞ! 後はどうする!?」
「勿論……本気の本気で逃げる!! できるだけの罠は仕掛けたけど、失敗したら仲良くお陀仏だから、そこのところよろしく!!」
「そうかよ、クソッタレ!! じゃあ、成功することを祈ってお互い無様に走り切ろうぜ!」
そんなわけで命懸けの逃走を再開する。
後方では起き上がった四腕獅子がこちらに向かって追撃を仕掛ける。
しかし、ついさっきまで俺らがいた場所を通過しようとした瞬間——四腕獅子の巨体を丸々飲み込むほどの巨大な落とし穴が発生した。
四腕獅子はそのまま落とし穴に落下、胸部より下が穴に埋まってしまう。
すぐに抜け出そうと全力で暴れてもがくも、穴の中に何か仕掛けがあるのか身動きを取れずにいた。
「よし、落とし穴作戦大成功〜!!」
あの様子だと、どうやら上手く罠に嵌まってくれたようだ。
これなら逃げる時間を十二分に稼げる。
落とし穴がどんな仕組みになっているのか気になるところだが、今は逃げることに専念するとしよう。
そして俺らは、四腕獅子の脅威から命からがらどうにか逃げ延びることに成功するのだった。
————————————
Q.レベル20にも満たない奴の攻撃で怯むもんなの?
A.普通はなりません。怯みを発生させられたのは、無名の散弾銃の特殊効果とスプレッドショットのクリティカル多段発生、それからリベンジガード(ダメージを受けた後の攻撃威力上昇)の諸々の要因が組み合わされた結果です。DEXの高さに助けられましたね。
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