更なる荒野、未知なる魑魅魍魎の巣窟

 遭遇したモンスターを蹴散らしながら暫くフィールドを突き進めば、視界の端から端まで続く巨大な岩盤に突き当たった。


「あれが……<未開領域>の境界線か」


 壁の高さは十五メートルくらい。

 ちょっとだけ傾斜があるおかげでその気になれば登れなくはないが、大掛かりな移動を制限するには十分だ。


 正規のルートであれば、壁を登らずとも各陣営に一つずつ建設されてある要塞を通れば<未開領域>に入ることはできる。

 だが、プレイヤーが要塞を通れるのは防衛任務か遠征時のどっちかだけだし、それらで魔晶を入手できたとしても一旦、自治組織に回収されてしまう。

 だから、足が付かない状態でアンノウンの素材だったり魔晶をそのまま持ち帰りたいのであれば、壁を登って侵入する必要がある。


「まあ、そんなことする物好きなんて殆どいないけどな」


 俺みたいな事情がなければプレイヤー側にやるメリットがないし、何よりやろうと思ってもなかなかできないから。

 岩壁をよじ登り、上から<未開領域>を見下ろせば、後者の理由がよく分かる。


「うっわ、すげえ……!」


 ここから地上までは、百メートル以上も距離があった。

 しかも<未開領域>側に関しては完全なる断崖絶壁——ここを降りるのはかなり勇気がいる上、ミスったらそのまま落下死まっしぐらだ。


「なるほど、この為にあの女店主はコイツを渡したってわけか」


 昨日、女店主から貰ったアイテムをインベントリから取り出す。

 拳銃型のアンカー付きのワイヤーロープだ。

 こいつで命綱代わりにして昇降する。


「……途中で切れたりしねえ、よな?」


 今更ながら不安になってきたが、まあやるだけやってみるか。


 足元にアンカーを射出し、ガッチリと固定されたことを確認してからゆっくりと降下する。

 つっても、慎重だったのは最初の数秒だけで、大丈夫そうだと判断してからはさっさと降りたけど。

 そうして無事に<未開領域>に足を踏み入れれば、変わらず何もない荒野がどこまでも広がっていた。


「……おー、何も変わり映えしねえ」


 他の陣営だったら、景色の変わり様に驚きがあったかもしれないが、こっちは出現しているモンスターくらいしか変化がない。


 ——まあその変化がエグいんだけど。


 新人訓練で戦ったフィースウーズやマンティピオン、ハーリスタスといったモンスターが雑魚敵みたいな感覚でうようよ湧いている。

 うん、なるほど……噂に違わぬ魔境っぷりだ。


「マジでスライムとかゴブリンみたいな感覚で湧きまくってるじゃん」


 さて、どいつから戦ったものか……って、ん?




————————————


【WARNING】

 危険度の高い敵正反応を多数確認。直ちの退避を勧奨します。


————————————




「……へえ、やばそうなモンスターと接敵しそうになったら、ご丁寧にアナウンスしてくれるのか」


 初心者が間違って格上の敵に挑まないように設定された仕様だと思われるが……生憎、退路ないんだよなあ。

 それに危険なのは百も承知でやって来てんだ。


「これしきで怖気づいて帰れるかよ」


 シェルブレイカーとタワーシールドを装備し、意識を戦闘モードに移行させる。

 敵の位置関係から最適な標的を定める。


 現状、視界に映る範囲にいるのは、フィースウーズ、マンティピオン、ハーリスタスの三種類。

 俺から最も近い位置にいるのはフィースウーズだが、群生する性質があるようで複数体で行動してやがる。

 乱戦を仕掛けてもいいが、本物のアンノウンの強さがどれほどのもんか分からない以上、迂闊に手をだすのはリスクがデカいか。


 となると、マンティピオンかハーリスタスのどちらになるな。

 実戦訓練で戦った感じ、倒しやすいのは圧倒的にハーリスタスだが、奴の近くにはフィースウーズの群れがいる。

 乱入された時のことを考えれば、消去法的にマンティピオンになるか。


 幸い、向こうは良い感じに孤立してるみたいだしな。


 まともに攻撃を喰らえばほぼ確実にワンパンされるだろうが、大体の行動パターンは頭の中に入っている。

 昨日は間合いの外側からチマチマ攻撃するだけだったが、もう懐に潜り込んでインファイトに持ち込んでも勝てる自信はある。


「よし……行くぜ、サソリカマキリ!!」


 全速力で駆け出し、マンティピオンの間合いの内側へと飛び込めば、マンティピオンが迎撃として鎌となった前脚を振り下ろしてくる。

 そいつをパワーガードで受け止め、即座にいなしつつ、スプレッドショットを胸部にお見舞いする。


「っし!」


 まずは第一関門突破。

 ここからは足元に張り付きながらデュアルショットガンで立ち回る。

 振り回す鎌を避けつつ、至近距離から散弾をぶっ放しまくる。


 奴の尻尾も鎌も脅威だが、攻撃自体はどれも大振りで見極めやすい上、こうやって密着して戦う相手に対しては攻撃が当てにくくなる。

 加えて、二丁で散弾をぶっ放しまくれば、ハメ技とまではいかずともかなりの頻度で怯んでくれていた。

 これに関しては手数の他にDEXを上げまくってクリティカル率を上げているのもあるが、無名の散弾銃の特殊効果の恩恵が大きいといえよう。


 MP残弾数が少なくなってきたら、無名の散弾銃を大盾に戻して時間を稼ぎ、回復してきたら再びデュアルショットガンに戻して手数でゴリ押す。


 厄介なのは、HPが少なくなると放ってくる全身を回転させた尻尾振り回しだが、


「——っ! おい、なにチキった行動してんだよ! そのご自慢の鎌でかかって来いっつーの!」


 モーションに入ったのを視認した瞬間、すかさずプロヴォークを発動。

 行動を阻害し、通常攻撃を誘発させながら一瞬だけ大盾に持ち替え、パワーガードで受け流しながら体勢を崩す。

 そして、最後にスプレッドショットを織り交ぜながらありたっけの弾丸をマンティピオンにぶち込めば、ようやくその巨体をポリゴンへと爆散させるのだった。


「っしゃあ! 本物のアンノウンも撃破!!」




————————————

Q.DEXの恩恵って何?


A.武器の切り替え速度やミリ単位の動きの調整といった細かなところでの操作性の向上、物理攻撃(銃撃等の飛び道具含む)のクリティカル発生率の向上、クリティカル威力の上昇(微量)、魔法の発動速度の向上などがあります。

オートリロードの速さもDEX依存となっていますので、ガンナーはMP、DEXの二つをどう伸ばすかが重要となっていきます。

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