第14話
「おい」
「な、何でしょうかアルバート様」
「座れ」
「はい…」
アルバート様が目覚めてから、30分後、俺は正座させられていた。
「ユウカ、お前に選択肢をやろう」
「選択肢でございますか…?」
嫌な予感しかしない。
「さ、さっきまでのボクの姿を忘れるか、それとも…」
「それとも…?」
顔真っ赤ですよ。そんなふざけたことを言える雰囲気ではない。
「ボクが忘れさせてやるかだ。選べ」
アカン。目がマジだ。よほどさっきの、甘える姿を晒したのが嫌だったらしい。
ちなみに、使い魔達は、危険を察知して、早々に逃げている。寝ているリルちゃんはミル先輩が背負って行った。薄情者!
「…ちなみに忘れさせてやる、とは?」
「記憶が無くなるまで頭を殴る」
「まさかの物理」
魔法ですらなかったわ。力技すぎるだろ。
「安心しろ。そのぐらいでは今のお前は死なん。少し馬鹿になるぐらいだ」
「馬鹿になるのはちょっと…」
「必要な犠牲だ」
悪役みたいな事を言い出したぞ。
「早く選べ」
考えろ!考えるんだ!この局面を乗り越える一手を!
「…か、可愛かったですよ…?あの時のアルバート様」
「ほう、ボクが忘れさせてやらねばならんようだ」
ミスったわ。何言ってんだ俺は。実家で飼っていた大型犬のゴンタみたいだったから、つい。ええい!こうなれば!
「失礼致します!アルバート様!」
「な、抱きつくな!」
「アルバート様のお姿を忘れるつもりはありません!馬鹿になるのも、お断りします!ならば、こうします!」
逃げ場が無いなら、前に進むしかないだろう!俺は生きる!
「だ、抱きつくなって、言ってるだろ…」
アルバート様の勢いが弱くなってきた。今が攻め時だ!
「アルバート様〜。いい子、いい子」
「あ、頭を撫でるな〜!あぅ、ふぁあ…」
どうやらアルバート様は抱きしめられるのに弱いらしい。それに加え、リルちゃん直伝頭ナデナデだ。さっきまでの威圧感が無くなり、アルバート様はされるがままになっている。勝ったッ!第一章完!
「い、いい加減にしろー!!」
「あ」
瞬間、頭上から雷が落ちた。
◆◇◆
「全くお前は…」
「誠に申し訳ございませんでした」
土下座である。ちなみに、俺に落ちた雷だが、アルバート様が手加減してくれたらしく、気を失うぐらいで怪我は無かった。
「…色々と言いたいこともあるが、ユウカとリルがボクを助けてくれた事は、感謝している。だが、あ、あの時の事は忘れろ!いいな!?」
「仰せのままに」
これ以上怒らせるとマズいので、従う事にした。
「ところで、アルバート様。身体は大丈夫なんですか?」
「まぁな。お前達のお陰だよ。痛みがこんなに早く収まるとは思わなかった」
「お役に立てて何よりです」
「…そ、それに、ユウカに抱きしめてもらって、落ち着いたというか、安心したというか、…その、うん。…あ、ありがとう」
途中から赤面しながら、ボソッとお礼を言った。今なんて言いました?みたいにとぼけるつもりはない。言ったら、頭上落雷コースだ。それに
「無事で本当に良かったです。心配しましたから」
この言葉は本心だ。昨日出会ったばかりとは言え、苦しむ姿を見たいとは思わない。するとアルバート様は、ジッとこちらを見つめる。
「…何で、ボクのこと…」
「アルバート様?」
「…な、何でもない!」
「そう、ですか」
問いかけると目を逸らされた。何を言おうとしたのかは分からないが、顔を真っ赤にしながらも、嫌そうではないので照れているだけかな。なら無理に聞く事はないな。
「(何でそんなにボクの事を思ってくれるんだ。こちらの都合を押し付けた婚約だぞ。お前を利用しようとしているんだぞ。それなのに無事で良かったって、心配したって、何で、そんなに喜んでくれるんだ)」
「(何で、こんなに、ボクは)」
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