第13話

アルバート様を抱きしめておよそ10分程。アルバート様はまだ、離れない。


「アルバート様?」


「ん〜?」


「具合はどうですか?」


「まだ」


「そうですか」


呪いの回復って時間が掛かるんだな。数分では、回復しないらしい。というか、何か口調が幼くなっていないか?ふわふわした口調になっているような?


「ん〜。ゆうか」


「何でしょうか?」


「そばにいて」


「…?はい。お側におりますよ?」


「もっと」


「畏まりました」


「ゆうかといると、おちつく」


幼子のようにグリグリと頭を擦り付けてきた。どうしたんだろう?内心首を傾げていたが、アルバート様の表情を見ると、何となく察した。


「(もしかして、眠い?)」


目を半分閉じて、うつらうつらしている。服は掴んだままだが、それ以外は身体を預けるように、脱力している。


「(呪いが緩和されて眠気が来た、とか?)」


激痛が終わった反動ということかな。まぁ、何事もないなら構わないのだが


「(ただ、めちゃくちゃ見られているんだよな…)」


アルバート様の使い魔達がドアの隙間からこちらを覗いていた。


中にはミル先輩もいた。隣にいる執事服の少年に興奮した様子で話しかけている。


「(ねぇ!エル!見て!アルバート様があんなに甘えてるの初めて見るんだけど!何だか可愛い!)」


「(落ち着いてミル。見ているのがバレちゃうから。でも、確かに初めてかも。アルバート様のあんな姿)」


「(でしょ!?あのアルバート様が幼子みたいになるなんてユウカ様って凄い人なのかも!?)」


「(アルバート様の呪いを解く事が出来る唯一の存在だからね。確か、婚約しているんだっけ?)」


「(いいなぁ。私もあんな風に抱きしめてくれる人がいたらなぁ。…今隣にいる幼馴染とか、私とずっと一緒に居てくれる男の子とか…。チラッチラッ)」


「(流石にここでは、ちょっと…)」


「(じゃ、じゃあ私の部屋でなら…ダメ?)」


「(ダメじゃないよ。分かった。ミルの部屋に行くよ)」


「(本当!?約束よ、エル!)」


ミル先輩はエルと呼ばれた少年と仲睦まじく会話している。恋人なんだろうか。何かイチャつくにされたような気がする。まぁ気づいていないふりをしておく。というか、いつ聞いたんだ?婚約(?)しているのは合ってる。しかし、昨日の今日だぞ。どこから漏れたんだ。


「アルバート様、お休みになられますか?」


「やだ」


「…左様でございますか」


提案は即拒否。駄々っ子になっておられる。昨日出会った尊大な姿はどこにもない。こんな主の姿にミル先輩は大興奮だ。


そういや、リルちゃんはどうしたんだろう。静か過ぎるような?そう思っていると、背中にちょっとした重みが。振り返ると、


「リルちゃん?」


「クゥ…クゥ…」


「寝てる」


リルちゃんは俺にもたれ掛かって穏やかな寝息を立てている。治癒魔法を使って疲れたのか。


「お疲れ様。リルちゃん」


「ふぁい…。クゥ…」


寝言で返事した。思わず、笑みが溢れてしまう。ふと、アルバート様の重みが増した気がする。これは、かな。


「スゥ…スゥ…」


「アルバート様?」


「スゥ…スゥ…」


「寝てる」


「(動けないな。まぁいいか。こんな日もあっていいよな)」


2人にもたれ掛かられながら、穏やかな午前中を過ごした。


ちなみに、眠る前のことを覚えていたようで、目を覚ましたアルバート様の顔が真っ赤になっていたのは、言うまでもない。
















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