雨に出会えば
たんぜべ なた。
母の味
庭先に生い茂った雑草どもと格闘していた昨日の午後三時頃。
額に汗をかきながら、小雨の中を宅急便のお兄さんが荷物を届けてくれた。
「クール便で~す、サインお願いします!」
送り主の欄を見ると、東京在住の母からだった。
因みに、私は熊本在住である。
さて、荷物を開けば…季節の野菜に、生姜の甘酢漬、らっきょの酢漬に、
んで、食べてみて思うことは『母の味は、かくあるべし!』なのである。
なにを今更と言われるかも知れないが、親と袂を分かって四半世紀を迎え、音沙汰無しというわけではなかったのだが、何か懐かしいものを感じてしまったのである。
妻は現在、料理が作れるような精神状態ではない…それも、ここ最近というわけではなく、もう十年以上になる。
そう、いわゆる『心の風邪』が拗れて、なかなか治らないのである。
従って、我が家は私が連日男の手料理を披露しているのである。
さて、話を軌道修正しよう。
なぜ、『母の味は、かくあるべし!』などと思ってしまったのかと言えば…。
酢漬けの味がやさしいのである。
そう、例えるならば紫陽花の花色を楽しめる程度に降る梅雨時の穏やかな雨みたいなものなのだ。
因みに私が作る酢漬けはトゲの効いた酸っぱさで、母の酢漬けのように、丸みのあるまろやかな甘酸っぱさとは程遠い有り様なのだ。
概して男の料理というのは、大雑把な上に手間暇を省く傾向がある為、そのような細やかな手続きを必要とする料理はそもそも不向きになるのであろう。
そう、母の味が穏やかな梅雨とするならば、男の料理は夕立である。
夕立といえば、夏場の夕暮れ時にザァーっと降って打ち水効果で、夜半過ぎには涼しい風が街を包む…ようなものであったと思うが、これが午後三時頃にザァーと降って、午後五時頃に止んでしまうと、それから午後七時までの日差しに晒された雨後は湿気と熱気を含んだサウナ以外の何物でも無くなってしまう。
要は、TPOを守らないと、夕立もタダの迷惑な土砂降りということになるのである。
男の料理というものは、そもそも、その意外性や希少性、男特有の変な拘りも相まって、TPOさえマトモなら、万人受けする料理となるのだ。
…ただ、TPOを外せば、もはや言うまでもない。
そんな手料理が毎日続くのだ…我が家は万年線状降水帯に見舞われているようなものなのかも知れない。
実際、妻までも、それはそれは美味しそうに酢漬けを食していた。
梅雨の雨にしても、お料理にしても、繊細なものほど、人々の琴線に触れるものがあり、大雑把になっていくほど、線状降水帯やら、味が突飛になるなど、人々が迷惑を被るものになってしまうものなのだ!
ふと、そんな事を考えてしまう、梅雨時期の一コマであり、母からの美味しい贈り物であった。
雨に出会えば たんぜべ なた。 @nabedon2022
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