19 トマト
「美味っ」
「おいしい……」
「うまーい」
縁側に並んだ鎌鼬の兄弟が、大きな口を開けて大きなトマトにかぶりついている。よし子さんのお家では自分たち用だけだけれども野菜も栽培していて、ちょうどトマトを収穫したところだったらしい。よし子さんはニコニコと嬉しそうに笑いながら三兄弟を見つめていた。
僕とみちるさんといえば、車椅子を動かす特訓中だ。ガタガタと揺れる地面の上でも、みちるさんが転がり落ちてしまわないように、僕はなるべく揺らさないように車椅子を動かし、みちるさんは「首をぎゅっと」している。
「みちるさん、大丈夫?」
「うーん、グラグラするね。でももうちょっと慣れたら大丈夫だと思う。あおくんちょっと走ってみて」
みちるさんの言葉に、僕は車椅子のスピードをあげる。みちるさんは体の上で何度かぴょんぴょん跳ねたあと、ぴたりと首にくっついた。
「すごいじゃん」
「うん、これなら何とかなるかもしれない……」
「すげー」
いつの間にかトマトを食べ終わったらしい三兄弟が降りてきて僕達を見ていた。車椅子のスピードを少し緩めてから止まると、みちるさんは少し大きく揺れたけれども、首からは落ちずに留まる。
「止まるのはちょっと難しいかも。でもゆっくりなら大丈夫だと思うよ」
「うん。すごいねみちるさん」
「ぬふふ、わたしすごいんだ」
みちるさんが僅かに首を反らす。さっきから全く動いていないはずの体が、まるで胸を張っているように見えた。
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