18 蚊取り線香

 よし子さんはしばらくの間考えたあと、ちょっと待っていてねと言い置いて、倉庫の方に向かっていく。

 よし子さんが倉庫から出してきてくれたのは、旦那さんが使っていた車椅子だった。

「もう随分使っていないし、錆びついてないといいのだけど」

 あちこち点検して、いくつか部品を付け替えて、首のない体を座らせる。それからその首の上に、みちるさんが乗せられた。

「大丈夫?ぐらぐらしない?」

「うん、ぎゅってしてたら大丈夫だよ」

「あんまり長いことは疲れちゃうかしらねぇ」

「うーん、多分大丈夫」

 仕上げにショールを巻き付けると、見た目にも違和感はなくなる。

「もうちょっとゆったりした服を着せてあげたらもっと違和感はなくなると思うわ」


 皆でああでもないこうでもないと上着を着せ替えたりして、見た目を整える。何となく形ができあがってホッと息をついたところで、よし子さんが「そうだわ」と両手を合わせた。

「三人とも、おやつを持ってきてあげるわね」

 一度家の中に入って行ったよし子さんが、お盆にトマトの入った器を載せて持って来る。一緒に豚の形の蚊遣器を持ってきた。

「そろそろ蚊が多くなってくる時間だからね。あなた達、蚊取り線香は大丈夫?」

 不思議そうな顔で蚊遣器を見つめる三兄弟によし子さんが微笑む。火をつけてみて、大丈夫そうだと確認すると、少しだけ離れた所にコトンと置いた。

「面白い匂いだな」

「結構好きな匂いかも……」

「けむりー」

 煙を出す蚊遣器を取り囲んで、三兄弟が興味深そうに言い合っているのを、よし子さんが微笑ましそうに見つめている。

「あまり吸いすぎると良くないかもしれないわよ。蚊を殺す煙だからね」

 よし子さんの言葉に、三兄弟は慌ててこちらに戻ってくる。その様子が何だか面白くて、僕もよし子さんもくすくすと笑ってしまった。

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