13 定規

 ぴっちりとした男の人だなぁ。そう思いながらぼくは依頼者さんを見た。長い足を窮屈そうに折りたたんで、テーブルの下に突っ込んでいる。背中に定規を突っ込んだみたいなって言うんだっけ、そんな感じにまっすぐ座った直線的な人だ。

「妻が、いなくなっちゃって」

 まっすぐの姿勢に似合わないぶるぶる震える声が、男の人の口からこぼれる。男の人は、足長手長の足が長い方で、長司くんといった。いなくなったのは、奥さんの伸子ちゃんなんだそうだ。

「今までこんな、何にも言わずにどっか行っちゃうことなんてなくて、僕、僕のこと、嫌いになっちゃったのかなぁ……」

 長司くんが、ぴっちりとした姿勢のまま、ぽろぽろと涙をこぼす。そんな長司くんを見ながら、ぼくは花子ちゃんにひそひそと尋ねた。

「足長手長、で一つの妖怪さんなんだったら、すぐ一緒になっちゃうんじゃないの?」

 三匹で一つの妖怪だったから、気持ちだけが幽霊みたいに離れてしまった鎌鼬の光次くんのことを思い出しながらそう言うと、花子ちゃんはうーんと首を傾げる。

「普通はそうなんだけど、足長手長の場合だと、元々は別の種族だったりすることもあるから。特に夫婦だとそのパターンが多いみたいで、別に行動もできちゃうのよねぇ」

「そうなんだ、色々あるんだねぇ」

「あのぅ……」

 ふたりでひそひそ話していると、長司くんがぼくたちの間から首を突き出した。

「それで、その、見つけてもらえるんでしょうか……」

「えぇ、もちろんよ。まずはあなたが落ち着かなきゃね」

 花子ちゃんがぼくに目配せをするので、ぼくはくまのぬいぐるみの体でぼふんと長司くんに抱きつく。

「ぼく、触り心地いいから、しばらく撫でてるといいよ」

「ふわぁ……ふわもこ……」

 長司くんがぼくの体に身を埋めている間に、花子ちゃんがお茶を準備する。

「ゆっくり飲んでちょうだい」

「あ、ありがとう……」

 長司くんはゆっくりとお茶を飲んで、ホッとしたように再びぼくの体に身を埋めた。

「どう?落ち着いたら奥さんの気配を感じるようになってきたんじゃない?」

 ぱちぱちと瞬いた長司くんが、あっ、と小さく声を上げる。

 関わりのある怪異の場合、お互いの気配が分かるというのは、ぼくたちの間では常識だ。

 まぁ、何故かぼくとぼくの体の間では、それがあんまりうまくいっていないのだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る