9 ぱちぱち

 台風一過、というのか、明るい日差しの下を、僕はみちるさんを抱えて歩いていた。濡れた木々に日が反射してきらきら輝いている。

 湿った地面を踏みしめて、みちるさんが案内するとおりに歩く。見せたいものがあるらしい。道なき道を、こんな所を通っても大丈夫だろうかと思いながら進んでいく。

 生い茂った草はたっぷり水を含んでいて、踏むとじわりと水が上がって見えてくるのが、少し楽しい。

「あおくん、もうちょっとだよ」

 みちるさんがそう言って、僕は目の前の枝を押しやりながら進んだ。

 僅かに開けた場所に出て、みちるさんがぐるりと首を動かす。

「あ、この辺この辺、あおくん、上を見て!」

 みちるさんに言われた通りに上を向く。

「わぁ」

 瞬間的に目を刺した強い光に思わず目を閉じ、瞬きを繰り返しながらゆっくりと開いて息を呑んだ。

「綺麗だ」

 折り重なった木々の間から漏れる光が、雨の光を反射しながら輝いている。

「うひひ、雨上がりはね、ここが一番きれいなんだよー。すっごく眩しいけどね」

 僕の腕の中、小さく跳ねながらみちるさんが嬉しそうに笑う。うん、すごく綺麗だ。


 帰り道、道なき道を戻っていると、みちるさんが「んん?」と言いながらもぞもぞ動いた。

「どうかした?みちるさん」

 みちるさんを抱え直して顔を覗き込むと、僕をじっと見たみちるさんがくるりと首を動かす。

「あおくん。なんだろ、あれ」

 ぱちぱちと瞬いたみちるさんの視線の先、草をかき分けたその先に、人の体が落ちていた。

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