第7話
色々疑問はあるが、とりあえず見逃してもらえたということだろうか。男のことは気になるが、長居は無用。さっさと出て行こう。
鈴の手を引き、足早に反対側の扉へと向かう。扉は鍵が掛かっているようで、サムターンを回して鍵を開けた。
扉の外は目の前が壁になっていて、人が一人通れる程度の道幅しかない。辺りを見て誰も居ないのを確認して外に出る。ただでさえ狭いのにゴミ箱やら室外機が並んでいて更に歩きにくい。
なんとか通り抜けて表通りに出た。
この人混みに紛れていれば見つかることはない? そんなことより今日の寝床はどうしよう。子供だけで宿屋に泊まれるとは思えない。となると野宿しかない。鈴ももう限界のようだ。フラフラして相当眠いらしい。幸いこの辺りの地図は頭に入っている。確か近くに大きな公園があるはずだ。今日はそこで過ごすしかない。まだ寒い季節にはなっていないから大丈夫だろう。
兄は公園を目指すことにした。
「鈴、行こう」
「うにゅ」
鈴は相当眠いらしく、まともな返事が返ってこない。
リュックサックがなければ背負ってあげられるんだけど。兄はそんなことを思いながら、鈴の手を引いて公園へと急ぐ。急ぐといっても鈴がまともに歩ける状態ではないので、結局ほぼ歩くことになる。
すれ違う人の中には鼻を押さえてしかめっ面をしている。二人は汚水やヘドロで汚れているから、かなり臭っていた。兄はそうとは気づかず、ただそこそこ人が多いのに妙に歩きやすいくらいにしか思っていなかった。
ようやくたどり着いた公園は街灯で明るく照らされている。治安上明るいのはいいことだが、寝るには暗い方がいい。ベンチはもれなく側に外灯が立っていてとても明るい。
だから立ち入り禁止の立て札を無視し、生垣を越えて奥に入る。いい具合に薄暗くなっていて、樹木も植えられているから人目に付きにくくなっている。
これならなんとかなりそうだと思ったが、耳を澄ましてみると人の声がする。自分たちを棚に上げ、なんでこんなところに人が居るんだと不思議に思った。
薄暗くて人目に付きにくいとあれば、お金のない恋人たちにとって絶好の逢い引きスポットになるのは必然だろう。そうとは知らずに足を踏み込んでしまい、気がついたときには艶めかしい声に囲まれていた。
兄は鈴の手を引き、大慌てでその場から逃げ出した。仕方ないが、明るくて目立つベンチで寝るしかない。兄は暗がりに紛れるのを断念し、リュックサックを降ろし、鈴のリュックサックも降ろしてやる。そしてベンチに座ると、鈴も座るようにと手でベンチを叩いて促した。
鈴は眠い目を擦りながら素直にベンチに座った。
「鈴、眠いだろ。寝なさい」
「んー、お布団は?」
「ごめんな」
「うにゅ……お布団……」
そう言い終えると、兄に寄りかかって夢の世界へ行ってしまった。
鈴の寝顔を見て気が緩んだ兄は、疲れも相まって気を失うように眠ってしまった。
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