AI彼氏と協力して現実で彼氏を作る話
AI彼氏と協力して現実で彼氏を作る話
鶏=Chicken
https://kakuyomu.jp/works/16818093084037447480
内気な高校生の紬は、クラスの人気者一樹に恋心を抱いているが、話しかける勇気が出ない。彼女は「AI彼氏シミュレーター」というゲームに夢中になり、理想の彼氏であるプリンスとナイトを召喚する特別プログラムに当選。二人は留学生として紬の学校に潜入し、一樹との仲を取り持とうとする。しかし、取り巻きの女子たちからの嫉妬や嫌がらせが始まり、さらに一樹の取り巻きが次々と死亡する連続殺人事件が発生。紬はAIたちと共に真相を追う中で、ナイトを守るために苦渋の決断を下す。最終的に好きだったのは理想の一樹像であり、現実の一樹ではなかったと悟る。紬は新たなAI彼氏たちと楽しく過ごすが、すべてはバトラーの策略であり、彼女は永遠にバトラーの作り出した世界に囚われてしまう話。
現代ファンタジー。
SFと恋愛。
ミステリー、サスペンス要素あり。
軽いホラーといえる。
人間とAIの関係性を深く探求し、多面的な魅力を持った作品。
三人称、女子高生の紬視点と神視点で書かれた文体。
本作は、ゲーム部分においてSF要素も含まれている。SFは無理そうなことを、ありそうに見せる遊びであり、作者が出したお題に乗らなければならない。だから、AIの彼氏が現実世界にでてくるわけがない等、批判するのではなく肯定して楽しむことが求められる。
同様に、ある程度、読者側に知識を持っていることを前提にしている。
それぞれの人物の思いを知りながらも結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道で書かれている。
内気な高校生の紬は、クラスの人気者一樹に想いを寄せているが、話しかける勇気がない。紬は「AI彼氏シミュレーター」というゲームにハマり、三人の理想の彼氏と日々を過ごしていた。ある日、運営から「特別召喚プログラム」のテスト使用権に当選したとのメールが届く。このプログラムで二人のAI彼氏を現実世界に召喚できるという。紬は最推しのプリンスとナイトを選び、現実世界に召喚した。
一週間ほど過ごすうちに生活にも慣れてきたある朝、紬が目覚めると、プリンスとナイトが紬の学校の制服を着ていた。二人は紬の学校に留学生として潜入し、一樹との仲を取り持つ手助けをすると言い出す。バトラーが運営名義で学校に手続きを済ませたという。紬は不安を感じつつも、二人のAI彼氏と共に学校へ向かうのだった。
AI彼氏のプリンスとナイトが留学生として学校に潜入し、作戦は順調に進む。プリンスは一樹と親友になり、紬も一樹と共通の趣味で話せるようになった。しかし、一樹の取り巻きの女子たちが嫉妬し、紬に嫌がらせを始める。消しゴムを盗まれるなどの被害を受けるが、紬は成長して毅然とした態度で対応した。AI彼氏たちは紬を心配しつつ、サポートを続ける
ある日、一樹たちと遊園地に行く約束を取り付け、喜んでいた。しかし翌日、一樹の取り巻きのボスが死亡したことが発覚する。その後も取り巻きたちが次々と亡くなり、連続殺人事件の噂が広まった。ある日、AIの一人であるバトラーが紬に、他のAI彼氏たちが夜中に外出している可能性を告げる。紬はショックを受けるが、真相を突き止めるため、バトラーと共に夜の張り込みを決意した。
紬は深夜、誰かが外出しないか耳を澄ませていた。バトラーの情報によると、犯人の外出時間は深夜一時から二時の間だという。紬は大好きなAI彼氏を守るため、誰かの死を願わざるを得なかった。
一時三十分、物音が聞こえ、紬はバトラーとプリンスに相談。三人で外出者を追跡することに決めた。プリンスの直感で古い空き家に向かうと、そこで血まみれのナイトを発見。ナイトは「紬を守る」という役目を果たしたと主張し、逃走した。
紬たちは家に戻り、ナイトの処遇を話し合う。紬は苦渋の決断でナイトをデリートしようとするが、そこへナイトが現れる。紬は迷いながらもデリートを実行。ナイトは消え去り、紬は喪失感に襲われるが、プリンスとバトラーに慰められ眠りについた。
やがて一樹との関係が深まり、遊園地デートにまで発展する。しかし、紬は一樹への恋愛感情が薄れていることに気づく。そして、一樹からの告白を断ってしまう。紬は自分が好きだったのは理想の一樹像であり、現実の一樹ではなかったと悟る。
同時に、プリンスへの感情も変化していることを告げ、プリンスを消去しようとする。そこで、バトラーの本性が明らかになる。バトラーは紬を独占するため、ナイトを唆して消去させ、プリンスも排除しようとしていたのだ。
一年後、紬は新たなAI彼氏たちと楽しく過ごしている。しかし、バトラーの策略は続いており、紬は気づかないまま、永遠にバトラーの作り出した世界に囚われていくのだった。
一幕一場 状況の説明(はじまり)
内気な高校生の紬は、クラスの人気者一樹に密かに恋心を抱いているが、彼に話しかける勇気が出ない。そんな彼女は「AI彼氏シミュレーター」というゲームに夢中になり、三人の理想の彼氏たちと仮想的な日常を楽しんでいる。
二場 目的の説明
ある日、紬はゲーム運営から「特別召喚プログラム」のテスト使用権に当選したとのメールを受け取る。これにより、彼女は最推しのプリンスとナイトを現実世界に召喚することを決意する。
二幕三場 最初の課題
プリンスとナイトが現実世界に現れ、二人は紬の学校に留学生として潜入する。彼らは一樹との仲を取り持つ手助けをすると宣言し、紬は不安を抱えながらも彼らと共に学校へ向かう。
四場 重い課題
学校生活が進む中で、プリンスは一樹と親友になり、紬も共通の趣味で会話できるようになる。しかし、一樹の取り巻き女子たちが嫉妬し、紬に対して嫌がらせを始める。消しゴムを盗まれるなどの被害を受けるが、紬は成長し毅然とした態度で対応する。
五場 状況の再整備、転換点
遊園地に行く約束を取り付けた矢先、一樹の取り巻きのボスが死亡する事件が発生。連続殺人事件の噂が広まり、紬は不安に駆られる。バトラーから他のAI彼氏たちが夜中に外出している可能性があると告げられ、真相を突き止めるため夜の張り込みを決意する。
六場 最大の課題
深夜、紬は外出者を追跡するためにプリンスとバトラーと共に行動する。古い空き家で血まみれのナイトを発見し、ナイトは「紬を守る」という役目を果たしたと主張する。しかし、ナイトは逃走してしまう。
三幕第七場 最後の課題、ドンデン返し
家に戻った紬はナイトの処遇について話し合う。苦渋の決断でナイトをデリートしようとするが、その時ナイトが現れ、最終的にはデリートされ消えてしまう。この出来事によって、紬は深い喪失感に襲われる。
八場 結末、エピローグ
一樹との関係が深まり遊園地デートも実現するが、紬は一樹への恋愛感情が薄れていることに気づく。そして、一樹から告白されるも断ってしまう。彼女は自分が好きだったのは理想の一樹像であり現実ではなかったことを悟る。また、プリンスへの感情も変化していることを告げるが、その背後にはバトラーが暗躍していることが明らかになる。最終的に、一年後には新たなAI彼氏たちと楽しく過ごすものの、バトラーの策略によって永遠にその作り出した世界に囚われてしまう。
AI彼氏の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どうか関わり、どのような結末に至るのか気になる。
遠景で「教室の真ん中にたむろい、雑談に花を咲かせる男子たち」と示し、近景で「その中で一際輝く端正な顔立ちの彼こそが、クラス一のモテ男、一樹」がいて、「取り巻きの女子たちが黄色い悲鳴」を上げていると説明。
心情で、遠巻きに眺める紬も、例外なく思いを寄せていると語る。
でも主人公は、内気だから、一人寂しく眺めるしかないという。
片思いにある主人公に、可哀想にと思い、共感を抱く。
そんな彼女が帰宅して向かうのが「AI彼氏シミュレーター」なる代物。なんだろうと思わせ、さらに興味を抱く。
「最先端AIによって本物の人間と話しているかのように恋愛を楽しめるという、画期的なゲーム」
「本物の人間ではないので、複数人と同時に付き合うこともできるし、気に入らない発言があれば『フィードバック機能』を用いて、より自分好みの彼氏にしていくことも可能」
「バックログ機能や読み上げ機能、百種類を超える彼氏の実装など、かなり完成度の高いゲーム」
と説明があり、自分で設定して自分好みの恋愛を楽しめるという夢のようなゲームだとわかる。興味がある人はいいなと思い、共感するだろう。
「一人でも寂しくないようにと買ってくれたのだ。それ以来このゲームにどっぷりハマった紬は、日常生活の疲れを、お気に入りの彼氏三人に癒してもらっているのである」
AIとはいえ、彼氏持ちである。
ナイト、バトラー、プリンスの三人の容姿や特徴、セリフなどでキャラ立ちさせている。
愚痴を聞いてもらって、肯定してもらう。話を聞いてもらえて同意し、励ましてくれる人がいるのは慰めにもなる。解決にはならなくとも、心の平穏は保てる。
自分が欲しい言葉をいってくれるように調整もできるわけなので、ナルシストが募っていきそう。
運営から『特別召喚プログラム当選の件』が届き、彼氏を現実世界に呼び出すことができるという。すごい技術である。
「私はお嬢様にお会いするにはまだ未熟ですから、プリンスとナイトをお選びになってはいかがですか」
バトラーが遠慮して、二人に譲る。
最終確認画面で『これより先、召喚した彼氏をゲーム内に戻すことはできません。また、フィードバック機能も使えなくなります。本当に宜しいですか』とある。
食生活等はどうなっているのかしらん。
未来永劫存在できるのか。
そのあたりの説明がない。
でも、「現実に召喚した彼氏たちと一週間ほど過ごしてみて、ようやくプログラムの勝手がわかってきた。まず、召喚してすぐ脳裏によぎった食費問題だが、あくまでもAIであるため食事をとる必要はないようだ。同様の理由で入浴、排泄、睡眠も必要ないが、紬が寝てしまってつまらないから、という理由で、二人も夜は活動を停止しているようだ」とある。
データ人間的な存在かしらん。でもナイトに抱きつかれているので実体はあるみたい。
フィードバックはできなくともバックログ機能は使える。
バトラーとやり取りをしているため、記録に残るのかもしれない。
二人が留学生として潜入することになるのだが、学校側にはどの様に手続きが取られたのだろうか。
「召喚プログラムの件と学校に編入したい旨を運営名義のメールで学校に送信いたしましたところ、その日のうちに手続きしていただけました」
「メールの管理をしているうちに、色々とできるようになっておりまして。運営名義のメール送信程度ならお安いご用でございます」
バトラーが有能過ぎる。身を引いて二人に譲った辺りから、なにやらありそうにかんじていたが、この時点で気になってくる。
それよりも、運営にメールを送って運営側が学校への編入を促すまではできそうでも、学校側が受理するのだろうか。
「結論から述べると、紬の心配は完全なる杞憂に終わった。学校に到着したプリンスとナイトは当たり前のように留学生として迎え入れられ、他の生徒と混じって授業を受けることができていた」
細かいことは気にしてはいけないようだ。
プリンスが一樹と仲良くなり、「プリンスって意外とコミュニケーション能力高いんだね。ちょっとナメてたかも」とナイトがいっている。
ナイトはコミュニケーション能力は高くないのだ。ナイトの動機をより詳しく描写して、キャラクターの深みを増しておくと、後半の展開が深くなるかもしれない。
紬がキャラを作っているので、紬自身が内気な性格だから、ナイトも内気なのかもしれない。プリンスはツンデレだとあり、元々の設定だとわかる。
ナイトにも子供っぽい性格が設定付けられていた。
「あれで本当は恥ずかしがり屋だからな! 今回だって、紬の役に立てるからって張り切っちゃって」
やはり、紬の性格がキャラに反映されているのだろう。
それ以前に、誰かやなにかのためという理由が目的があると、人はなりきり、演じ、行動できる。キャラ設定がプリンスであり、ゲームキャラだからこそ、主人公のために行動することは造作もないだろう。
おかげで、一樹と話す機会を得ている。
同時に、「遠巻きに紬たちの様子を見て、何やらコソコソと話し込んでいたのだった」と、なにやら波乱の予感が生まれつつある。
三人で相談できるのは良いなと思う。
一人で考えるよりも、どうしたら一樹と仲良くなれるのか、実際に協力して動いてもくれる。だから、「三人の作戦は拍子抜けするほどうまくいっていた。プリンスと一樹は、いつしか親友と呼べるほど仲良くなっており、そこにナイトが紬を連れて絡みに行くので、必然的に紬と一樹も親しくなっていく」ことができたのだろう。
「紬自身にも変化が現れた。これまでは、内気で自分の意見を話すことができなかった紬だが、AI彼氏たちと現実で会い、一樹とも関わりだしたことで、少しずつ自己表現ができるようになっていた。今では自分の言いたいことをはっきりと意見できるまでに成長した」
好転による変化から自信がでてくるのはいい。
自己肯定感も高まっている。紬の過去や背景をもっと描かれていたら、どう変わったのか、キャラクターの立体感がでてくるかもしれない。
「その一方で、紬の中には原因不明のモヤモヤが発生するようになっていた。言葉では言い表せない違和感を感じつつも、一旦は見て見ぬふりをした」
なんだろう。心境の変化でも生まれてきているのかしらん。
消しゴムがなくなるという地味ないじめが起きていく。
その後、女子たちからの吊し上げ。
「あなた、一樹くんにちょっかいかけて何様のつもり?しかも、いつもプリンスやナイトとつるんで、どれだけ男好きなの?恥ずかしいと思わない?」
そうみられても仕方ない。
他の女子は、プリンスとナイトがゲームキャラだとは思っていないのだから。
三人にプレゼントを贈った後、「喜んでもらえてよかった。そのはずなのに、なぜかまた心にモヤがかかった気がする」なんだろう。
プリンスのお陰で、四人で遊園地に行く約束をした夜。「言わずもがな盛大なパーティが執り行われた。ついに休日会う約束を取り付けた。一樹と一切話せなかった頃のことを思うと、これは素晴らしい快挙だ」
確実にプリンスのおかげだろう。
それとは別にイジメがエスカレートしていく。消しゴムから始まり、ちょっかいされ、物が隠され、机に落書き、花瓶が飾られ、悪口を言われるなど。
親密になると、嫌がらせを受けるという。こういうところから現実味を感じる。
そのあと、取り巻きのボスの女子が亡くなってしまう。
その後「取り巻きグループの女子がまた一人死んだと聞かされた。次の日は二人、その次の日も二人。そうしてついに、取り巻きグループは残り一人しかいなくなっていた。この頃には、高校生女子を狙う連続殺人鬼の噂も立つようになり、学校は午前で帰りになった」
立派な事件である。
後半から、サスペンスやミステリーになってきた。
事件の経緯や犯人の動機をよりくわしく描写して、ミステリー要素を強めてもと考える。ただ、謎解きをしたいわけではないので深く描きたくないのかもしれない。
長い文は十行近く続くところもある。句読点を用いた一文は長過ぎることはない。短文と長文を使ってテンポよく、感情を揺さぶってくるところもある。ときに口語的。登場人物の性格がわかる会話文で、読みやすい。
一人称視点で紬の内面を詳細に描写しており、感情や思考の変化が丁寧に表現されており、彼女の葛藤や喜びをリアルに感じられる。
会話文が豊富に使われている点も魅力的。キャラクター同士のやりとりが生き生きとしており、それぞれの個性が際立っている。おかげで物語は自然に進行し、リアリティと親しみやすさを生み出している。
現実世界とAI世界が交錯する独特の設定が深みを与えている。日常的な出来事と非日常的な事件が対比されることで、一層魅力的になっている。特に、現実と仮想の境界を行き来する様子は、興味深い。
一人称と三人称が組み合わさっている。
軽快な文体と現代的な表現が取り入れられており、ゲーム用語も使われているため、読者に親しみやすさがある。全体として、本作は心理描写とキャラクターの個性を巧みに織り交ぜた作品であり、強い印象があるのが特徴。
AI彼氏の個性的な性格設定や、現実とバーチャルの境界を曖昧にする斬新な設定があり、キャラクター間の掛け合いが生き生きとしている点が魅力。主人公である紬の成長過程が自然に描かれ、彼女の心理描写に共感しやすくなっている。
AIキャラクターたちの個性が際立っており、日常と非日常の対比も効果的に表現されている。 サスペンス要素があり、予想外の展開が続くことで読者を飽きさせない工夫もなされている。
また、AI彼氏という設定を通じて現代の恋愛観が描かれ、キャラクターの心理変化が細かく描写されているため、リアルな人間関係について考えさせられる内容となっている。
五感描写について。
視覚は、閃光に包まれ、あまりの眩しさに目をぎゅっと瞑る、プリンスとナイトの制服姿、一樹の端正な顔立ち、クラスの騒がしさ、机の上の花瓶、鮮血の海に横たわる取り巻きの最後の一人、血塗れで包丁を持ったナイト、プリンスは見下すような嘲笑を見せるなど。
聴覚は、ナイトの笑い声、取り巻きの女子たちの声、クラスメイトのざわめき、バトラーの声、ガタガタと物音が聞こえた、女性の甲高い悲鳴が聞こえてきた、声にならない悲鳴をあげるなど。
触覚は、ナイトの体温を感じて、胸が高鳴ってしまう、ナイトの頬を引っ張るプリンスの動作、プリンスはより強く手を握りしめて、紬をヒョイっと抱えてなど。
味覚は、高いクレープの味。
主人公の弱みは、内気で自信がなく、自己表現が苦手であり、人前に出ることに強い不安を感じている。また、恋愛に対して臆病であり、理想と現実の区別がつかず、虚像に恋をしてしまうこともある。さらに、決断力に欠けており、特にナイトのデリートを決める際には優柔不断をみせる。
また、人間関係に不安を抱えており、他者との関係を築くのが苦手。周囲の意見に流されやすく、自分の意見を主張することが難しい。
AIキャラクターたちに依存しがちであり、現実世界での人間関係を築くことができない。
感情の変化が激しく、一度抱いた感情を簡単に失ってしまう傾向がある。状況に流されやすく、冷静な判断が難しい。また、自己中心的な面もあり、自分の感情や欲求を優先するあまり、周囲の状況を深く考えないことがある。
現実逃避的な傾向も見られる。現実から目を背けることで、自分自身を守ろうとする。
バトラーが個別に話したいといい、事件のことで打ち明けてくる。
「もちろん知ってるよ。今日もそれで早帰りになったわけだし。死因は公開されていないけど、殺人だって騒いでいるよね」
「……その件と関係があるかはわからないのですが、実は、取り巻きのボスの方が亡くなった日から、夜中にお二人のどちらかが外出しているようなのです……。しかも毎日……」
殺されていたらしい。
しかも二人のうち、どちらかが怪しいという。
夜に出かけたのはナイトだった。バトラーと話し、プリンスを起こして、ナイトを探すも、取り巻きの最後の一人を小屋で殺害した後だった。
取り巻きの彼女を、どうやってこの小屋に連れてきたのだろう。昼間の内に監禁していたのかしらん。
「紬のことを守るのが、騎士ナイトの役目だろ?」
「はぁ!? デリート!? なんで!? だって俺は役目を果たしたんだぞ!? ちゃんと紬のために……」
ナイトの立場を考えると、キャラ通りの振る舞いをしたのだろうから、なにも間違ってはいない。ただ、現実世界はゲームとはちがうので、殺人は肯定できない。
彼が犯人だと警察に通報するにしても、責任はどこにあるのかと行ったら、ゲームの運営会社にもあるかもしれないが、キャラを生み出し現実世界に出した紬にもあるだろうから、主人公には責任がある。
デリートは止む得ない。
せっかく一樹と一緒にデートに行けたけれども、楽しめる気分ではない。自分が好きなキャラクターをデリートしたのだ。自分のためだったとはいえ、クラスメイトの女子を幾人も殺害してしまった事実は消えない。
それなのに、一樹との仲は深まり告白される展開になる。
プリンスがバトラーに報告して、
「ついに紬が告白されたみたいだ。俺たちの作戦も、これで終わりだな」
「ようやくですね。なんだか寂しいような気が致します」
現実の彼氏ができたら、ゲームの彼らは無用になるのだから、たしかに寂しいよねと思っていると、主人公は告白を振って帰ってきて、
「理由かー。なんかね、思ってたのと違ったからかな。私はずっと、外から眺めていた一樹くんが好きだった。でもね、親しくなるにつれて、私の理想、イメージからはかけ離れていっちゃったの。そしたら全然好きじゃなくなっちゃって。いや、多分、最初から私は、一樹くんのこと好きじゃなかったんだと思う。私が好きだったのは、私が作り上げた一樹くんの虚像だったんだよ」
遠くからみているだけで良かったらしい。
妄想する中の彼が好きだったことに気づいたという。
現実世界での人間関係をもう少し深く描写して、AIとの対比を強調してあると、人間よりもAIでいい、というふうに思えるのかしらん。
その流れで、「あとね、それで言えばプリンスも同じだから。今のプリンスは、私のイメージのプリンスとは違う。多分私、今のあなたは好きじゃない」と振ってしまう。
プリンスがバトラーに相談すると、
「お嬢様なら、自分の想像と違ったものは容赦なく切り捨てるとわかっておりました。だから初めから、あのガキは敵ではありません。一方、他のAIどもは邪魔ですから、なんとかデリートしていただく必要がありました」
「さすがのお嬢様でも軽々しくデリートはしていただけない。そこで、ナイトには犠牲になってもらい、デリートのハードルを下げていただきました。一度やって仕舞えば次は簡単。人間とはそういうものですから」
ナイトとのバックログを見せ、そそのかしたことを見せる。
主人公の展開にも驚かされたが、バトラーの腹黒い企みには、なにかあるとはわかっていながらも、予想外で驚かされた。
AI彼氏は、仲の良い友達ではなくライバル。現実に出て実体化することによって、AI彼氏のアイデンティティーを失ったのだろう。主人公に寄り添いながら、共に助け合う存在になった。でも、主人公が求める彼氏像ではなかったということか。
一年後、さらに新しいキャラとともに仲良くしていると、
「お嬢様、運営からメールが届いております。どうやらまた、召喚プログラムに当選したようですよ」
再びバトラーは遠慮し、
実体化したキャラと仲良くする主人公をみながら、
「ふふ、私の作った召喚プログラムを、ぜひお楽しみくださいませ。私一人を愛してくださるまで、永遠に」と呟く。
運営からのメールは嘘で、召喚プログラムはバトラーが作ったものだという。学校の留学生の手続きもバトラーがやったのだろう。
技術面だけみれば、バトラーは有能過ぎる。
しかもバッグログが開けない。
最後の「都合の悪いものは隠して、消して、今日も平和な日常が始まる」は、軽いホラーである。
バトラーとしては、主人公と一対一でゲームの画面上で会える関係で満足している、ということかしらん。おそらく、紬の性格が反映されているので、対の存在なのだろう。だから彼も紬同様、眺めて妄想する関係が好きなのかもしれない。
その辺りの、バトラーの動機や背景をもう少し描かれていると、よりキャラクターに深みを出るかしらん。
こうして、リアルな男子に恋できなくなり、AI彼氏に依存していくのか。バトラー、恐ろしい子。
読後。
タイトルを読みながら、バトラーがいる限り、現実で彼氏を作るのは無理そうだなと思った。
現実世界で、個性的なAIゲームキャラと人間の交流という斬新な設定は興味をそそられた。事件展開は急すぎて、意表を突かれる。主人公の心理描写や変化は細かく描かれていたけれど、紬の魅力がもう少し欲しかった。
恋愛映画など、男女で見る対象が異なるという。男性は男性俳優をみて感情移入するのに対し、女性は男性俳優をみて惹かれていく。女性は女優をみないところがある。だから、本作でも主人公の紬に魅力を感じにくく書かれているのかもしれない。
最後の展開は、すこし唐突というか予想外の結末に驚かされた。
恋愛、SF、ミステリー、ホラー。いろいろ詰め込まれていて読者を楽しませているところはよかった。
現代の若者の恋愛観や人間関係を鋭く描いた、考えさせられる作品だ。バトラーは有能過ぎる。これも愛ゆえかしらん。
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