あなたコントローラー
あなたコントローラー
作者 ぐらたんのすけ
https://kakuyomu.jp/works/16818093084568746501
放課後。少年は密かに恋心を抱くクラスメイトの少女と一緒に帰ることになり、下駄箱で謎の茶封筒を見つける。中には「あなたコントローラー」と書かれた録音機とネックレスが入っており、好きな人を操れるという説明が添えられていた。二人は公園で試すと、彼女は命令に従うようになる。でも実際は少年をからかうために少女がしたことが明らかとなり、彼女は少年の告白を録音し、二人の関係が少し進展する話。
現代ドラマ。
内面描写が非常に丁寧で感情移入しやすい。
「あなたコントローラー」というアイテムを用いて、日常の中に非日常的要素をうまく取り入れながら恋愛と絡め、興味を引く物語になっているところが面白かった。
主人公は男子学生。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
放課後。主人公の少年は密かに恋心を抱いている彼女と一緒に帰ることになり、心が浮き立っている。下駄箱で見つけた謎の茶封筒には、「あなたコントローラー」と書かれた録音機とネックレスが入っていた。
二人は公園に行き、録音機を使って遊びはじめる。彼女はネックレスをかけ、主人公の命令に従って動くが、次第に彼女の動きが本当に操られているかのように見えはじめる。主人公は恐怖と好奇心に駆られながらも、彼女に命令を続ける。
やがて、彼女が動かなくなり、ネックレスを外しますが、彼女は何も覚えていない様子。再びネックレスをかけ、彼女に告白しようとするも言葉が出ない。すると、彼女は突然笑い出し、全てを知っていたことを明かす。
録音機を取り上げた彼女は主人公に再びネックレスをかけ、主人公に告白しようとするが、その言葉は夕焼けに溶けて消えてしまう。
彼女が時折録音機を取り出してくるたびに、主人公は困らされるのだった。
四つの構造でできている。
導入 学校の帰り道、主人公と少女が一緒に帰ることになる。
展開 下駄箱で見つけた茶封筒と「あなたコントローラー」。
クライマックス 主人公が少女を操ることで感じる興奮と恐怖。
結末 少女が全てを知っていたと明かし、主人公の告白が録音されていたことが判明する。
あなたコントローラーの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。
情景描写からなる書き出しがいい。
導入は客観的状況を描くところから入っていく。
遠景で「夕日がもう沈もうとしている」視覚描写から時刻と天気を示し、近景で「学校の生徒はほとんど皆帰ってしまった」から時刻と場所を説明、心情で下校のチャイムに烏が驚かせていて、消灯された正面玄関は不気味で、だけど主人公の気持ちは明るいと語る。
夕方の、他に人がいないような、寂しい時間。
孤独を感じられ共感を抱かせているにもかかわらず、明るい気持ちを抱いているのはなぜか。なにかいいことがあったのかもしれない。
読み手に想像させていると、
「――一緒に帰ろ! 二人きりの教室で、そう笑顔で彼女に告げられて、少し浮足立っていたのかも知れない」
とあり、クラスの女子に誘われたからなのだとわかる。愛されてる感じがして、興味をもちつつ、共感していく。
主人公は困っている。
「何を話せばいいだろうか。天気の話とかかな。いや、ありきたりすぎる。この前死んだペットの話は? ……それを聞いて喜ぶ人間はいるのだろうか」
もっと楽しい話をしなさい、そうツッコミたくなる。
「悶々とした気持ちを抱えながらも、刻一刻と時は近づく」
タイムリミットが迫っている。
急かされていると、主人公が窮地に陥っている感じがして、ますます共感していく。
主人公は彼女に恋をしていて、「今日は二人で帰ることは快挙であったし、僕にとっては偉大な進歩であるように感じられた」とあり、主人公のドキドキ感が伝わってくるようだ。
長い文は数行で改行。句読点を用いた一文はさほど長くない。
ときに口語的。シンプルで読みやすい。主人公の内面描写が豊富で、感情の動きが丁寧に描かれている。
日常の中に非日常的な要素(「あなたコントローラー」)が入り込むことで、物語に緊張感と興味を持たせているのが特徴。
主人公の内面の葛藤や恋心が丁寧に描かれており、共感しやすいのがいい。サスペンス的に、「あなたコントローラー」の存在が物語に緊張感を与えている。
少女が全てを知っていたことが明かされることで、読者に驚きを与える結末の意外性が面白い。
視覚や聴覚を中心に五感を使った描写が豊富で、情景や感情をリアルに感じさせる工夫がされている。
視覚は、夕日の描写や学校の薄暗い正面玄関など、視覚的な描写が豊富。
聴覚は、チャイムの音やカラスの鳴き声など、音の描写も効果的に使われている。
触覚は、下駄箱の鉄の扉の重さやネックレスの感触など、触覚的な描写もある。
彼女の容姿は描かれていない。
「秀麗耽美、質実剛健、文武両道。どんな褒め言葉でも枠を超えてしまうような彼女は、学校でもかなりの人気を博していた。まさに高嶺の花」
綺麗で健康的で勉強も運動もできる、ということは伝わっても具体的なイメージは読み手には浮かびにくい。
「やっぱり可愛いなと。その端正な横顔を見て思うのだ」
主人公は、彼女の横顔が好きなのかしらん。
主人公と話しているときは、どんな声の調子だったのかもわからない。
もう少し彼女のキャラクターの描写を深めると、主人公がどれほど彼女が好きなのかも、どういうところが気に入っているのかなどもわかってくると考える。
嗅覚や味覚の描写を増やすことで、物語にさらに深みが出るのではと考える。味覚は難しくとも、嗅覚は描けるかもしれない。
たとえば、「ニヤつく彼女の横顔を風が撫でる。睫毛さえ、風に揺れるのが見えるようだった。彼女の髪からはフローラルの香りが漂い、心地よい気分になる」みたいな。
主人公の弱みは内向的な性格なこと。
恋心を抱きながらも、自分の気持ちを伝える勇気がない。
偶然手に入れたあなたコントローラーで、自在に動かせてしまうことを知り、彼女に対する不安や、自分の行動に対する恐怖が描かれ、少女を操ることに対する罪悪感をも感じている。
その不安は、自分が彼女に釣り合わないと思い込んでいる自己評価の低さにもあるだろう。相手は「秀麗耽美、質実剛健、文武両道。どんな褒め言葉でも枠を超えてしまうような彼女」なのだから。
もう少し背景や環境の描写を増やすことで、物語の世界観をより豊かにできるのではと考える。
読後。
主人公の葛藤や恋心がリアルに描かれていて、共感しやすいのがよかった。
彼女とのやり取りが微笑ましい。物語の展開もテンポも良く、「あなたコントローラー」という非日常的要素が物語に緊張感を与え、最後まで飽きずに読むことができた。
結末の意外性もあり、読後感が良い。
内気な主人公と付き合うために、彼女の奮闘ぶりが目に浮かぶ。
相手を操るアイテムを手にしても、嫌がることには使わなかった主人公の人柄に、彼女は惹かれたのかもしれない。
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