冷めない紅茶
冷めない紅茶
作者 飴。
https://kakuyomu.jp/works/16818093081205361376
冷めない紅茶があると噂を聞きつけて喫茶店を訪ね、どのように温かい状態を保つのか当てるゲームに挑むもわからず、降参。でてきたのは冷え切った紅茶だった話。
文書の書き方云々は気にしない。
ちょっとした日常ミステリー。
これは盲点で、面白い。
主人公は、ネットで喫茶店マイスターを名乗り、多くの喫茶店を訪れ、批判を繰り返してきた経験を持つ社会人。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている
主人公はネットで喫茶店マイスターと呼ばれた社会人。多くの喫茶店を訪れ、批判を繰り返してきた。何時間経っても「冷めない紅茶」があると噂で知るも、物理学や熱力学的に考えて有り得ないと思っている。
都心から少し外れた若々しい喫茶店に足を運んだ。到着すると、気さくな六十代のマスターと娘らしき二十代の女性が出迎えてくれた。店内は広々としており、ジャズの音楽が流れている。主人公はカウンター席に座り、「冷めない紅茶」を注文。どのようにして紅茶が温かい状態を保つのかを問うが、マスターは答えない。代わりに、主人公が秘密を当てられたら、無料で何かのサービスをすると提案。当てられなければ、紅茶の料金を二倍払うことになる。
この挑戦を受け、マスターに二つの質問をする。一つ目は、マスターが紅茶を出した後に何かを行うかどうか。二つ目は紅茶が本当に冷めないかどうか。マスターは、出したあとは何もすることはなく、紅茶が冷めないのは本当だと答える。
主人公は答えを見つけられず、負けを認める。
するとマスターは笑って「冷めない紅茶」を出す。
それは「冷え切った紅茶」だった。
冷めない紅茶という謎と、主人公に起こる出来事の謎が絡み合って、どんな結末を迎えるのかに興味が注がれる。
書き出しが、とっても良かった。
冒頭導入の遠景、「かつてこんな飲み物があっただろうか。いやそれ以前に、これは物理学や熱力学的に考えて有り得るはずのないことだ。つまり詐欺商品にあたるではないか」と投げかけ、近景で「私は今まで数多の喫茶店へ足を運び、批判を繰り返してきた。しかしこのような紅茶は見た事がない」とこれまでの経験を踏まえてから、「どうもこのお店の紅茶は何時間経っても冷めることがなく一定の温度を保ち続けるらしい」と心情を語って深みを増していく。
主人公に寄り添うように、どういうことだろうと読み進めてしまう。
主人公は、ネットで紅茶マイスターと呼ばれ、いろいろな喫茶店へ足を運んでは、批判をくり返してきたという。クレーマーなのかどうかはさておき、ある種のカリスマといえる。
呼ばれているということは、主人公は頼りにされるほどの人間味があるということ。そんな彼でさえ、「冷めない紅茶」とはなにかが、わからない窮地に陥っている。
主人公の探求心と解決策への取り組みに、読者は共感してしまう。
こういうとこは、上手い。
主人公の行動が示されており、五感の視覚はもちろん、聴覚や触感を意識して書かれている。クーラーが効いているのかや、喫茶店特有のコーヒーの苦みとザラメの甘みの混ざった匂いの描写はみられない。
主人公にとって、ゆったりとした時間やお茶を楽しむことを目的にしているのではなく、冷めない紅茶とは何なのか、興味と意識が向いているからだと考えられる。
一文は短く、ときに口語的で、会話にも登場人物の性格を感じられるようなセリフを用いていて読みやすいところもあるけれども、文章の塊が五行以上、十行以上続いていると、読みづらさがある。適度に段落を変えて、読みやすくしてもよかったのでは、と考える。
ただ、書かれている内容を読めばわかるように、主人公の思考を感じてもらうためにも、続けて読んでほしいのだと思う。
ようするに、カウンター席に静かに座った主人公の頭の中では、喫茶マイスターと呼ばれるだけあって、あれこれと思考をめぐらしている感じを、文章の塊で、読者に感じてもらおうとしているのだろう。
マスターが「どのようにして温度を一定に保つのかを当てることができたら無料で何かサービスしましょう。その代わりもし分からなければ、二倍の金額をお支払いしていただきます。どうです、挑戦なさいますか?」と尋ねるのは、主人公が考えたとおりなのだろう。
「つまり私のように離れた場所から噂を頼りにやってきた客を鴨にしていると考えられる」
ただし、鴨にしているわけではないかもしれない。
おそらく最初は、喫茶店にお客を招くためのアイデアとして、はじめたのではと考える。でも、お客の中に腹を立てる人がいて、トラブルになったのかもしれない。
そこで、トラブルにならないためにも、どのようにして温度を一定に保って「冷めない紅茶」が提供できるのか、といったクイズのような謎解きをするためのルールを設けたのでは、と邪推する。
間違えれば料金が二倍ときけば、やめようかなという人もでてくるだろう。たとえ間違えても、ルールを聞いて参加するかどうかを決めたのは、お客自身なのだから文句はいえない。
人の脳には三つの壁がある。認知の壁、わたくしごとの壁、獲得の壁。それらを超えると感動を得られる。
本作の読者層として、紅茶好きや喫茶店を利用する人が考えられる。コーヒーは苦みがあるので、好き嫌いや飲めない年齢もあるけれども、紅茶が飲めない人はそうそういない。つまり、読者層が広く、多くの人が自分ごとだと捉えてくれる。
マスターが出した謎は、クイズみたいなもの。
誰でも参加でき、自分も解くことができるのでは、と挑戦するかもしれない。
その謎が解けたとき、なるほどと思い、感動を覚える。
主人公の目標を明確にし、性格や価値観、過去にどのような行動を取ったか、直面している問題や葛藤を描写されているので、主人公が謎を解こうと考え、挑む姿は予想でき、感情移入していく。
謎が解けなくとも、読者は主人公に共感し、物語に感情移入できているので、代わりに解いてやろうと一生懸命考えていく。
気づく人もいるかも知れないけれど、わからなかった人は、予想外の結末に興奮と驚き、ある種の感動を覚えるだろう。
読後にタイトルを読んで、楽しかったと思えた。
本作は期待と現実のギャップ、ユーモラスな驚きを与えて、物事の本質を理解することの難しさを描いている。
はじめから冷えていれば、それ以上冷めようがない。
まさに盲点だった。
本当に、面白かった。
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