ちいちゃんとポテトチップス

黒猫

ちいちゃんとお母さんのポテトチップス

昭和時代のとある朝、ちいちゃんは4歳、兄の健太は7歳。健太は地域の子ども会に所属しており、その日、地元のお祭りで使うお神輿の準備のため、朝早くから子ども会の会長の家に呼ばれていました。健太だけでなく、地域の子どもたちも20人ほどが集まっていました。


そんな中、ちいちゃんとお母さんは、少しでも手伝おうと朝からじゃがいもの皮をたくさんむいていました。キッチンペーパーで一枚一枚の水分を丁寧に取り、油で揚げて大量のポテトチップスを作ることにしました。ちいちゃんもキッチンペーパーでスライスされたじゃがいもを挟んで並べ、油の中に投入されたじゃがいもを箸でコロコロと転がしながらお手伝いしました。


一生懸命に作ったポテトチップスは、3時間ほどかかって完成しました。朝から作り始め、完成したのは11時頃。大きなバケットにきれいに並べられた大量のポテトチップスに紙をふわっとかけて、運ぶ役目はちいちゃんに託されました。ちいちゃんは喜びながらその任務を遂行しました。慎重に、こぼさないように、地元の子どもたちが集まっている会長の家まで運びました。ちいちゃんの足で20分ほどの道のりでした。


会長の家に着くと、お庭でお神輿の準備をしている大勢の人々が見えました。その中の一人、おそらく会長さん自身がちいちゃんの存在に気づいて駆け寄ってきました。


「どうしたの?」

「これ、お母さんから、差し入れです、皆さんでどうぞ」

ちいちゃんはお母さんから教わった通りに話しました。


しかし、会長はちいちゃんが持っていたバケットを受け取らず、上の紙だけを外して中を見ました。そして、がっかりした様子で「なーんだ、ポテトチップスか…」と言いました。その瞬間、ちいちゃんの胸に悲しみが広がりました。


次の瞬間、会長の表情が明らかに変わり、「ありがとうね、お母さんにもお礼いっといてね」と言って、急いでバケットをちいちゃんの手から取り上げ、持っていきました。ちいちゃんはなんだか怖くて、寂しく、悲しい気持ちになりました。そして、お母さんにはこのことを伝えないでおこうと本能的に感じました。


その日、ちいちゃんは少し大人になったような気がしました。優しいお母さんと一緒に過ごした温かな朝が、少しずつ遠ざかっていくのを感じながら、ちいちゃんは静かに家に帰りました。

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ちいちゃんとポテトチップス 黒猫 @tanokuro24

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