【13】

 「イルカとアシカのショー、すごかったよね」

 「小学生の女の子と同じぐらいはしゃいでたもんな」


 「えっ、私そんなにはしゃいでた?」

 「はしゃいでたろ。何なら笑美の方がはしゃいでたんじゃないのか」


 「そんな事ないでしょ。小学生の女の子には流石に負けるよ。あっ、そうだ、その後に行ったカフェ、すっごくいい感じだったよね? おしゃれだったし。何てとこだっけ?」

 「〝オーロラ・マーチ〟じゃなかったか」


 「ああ、そうだった。〝オーロラ・マーチ〟だぁ。よく覚えてるね。あのお店のパンケーキ、すっごく美味しかったよね?」

 「〝ラフ・ハウス〟のより美味しかったんじゃないか」


 「あっ、酷ぉい。まぁ、それは否めないけど」

 「否めないのかよ。否んだ方がいいだろ、立場的に」


 「認めざるを得ないよ。あれはホント別格だもん。大体、〝ラフ・ハウス〟はあんまりパンケーキ推してるお店じゃないし」

 「メニューの隅っこに小っちゃく載ってたもんな」


 「そうそう。パンケーキに対してあんな自信なさげなカフェって珍しいよね。因みに私はね、〝カルボ〟が一番好き。賄いで初めて食べた時、すっごい感動したもん」

 「それもう七回ぐらい聞いたよ」


 「頑なに食べなかったよね、私が必死にプレゼンしても」

 「あんま好きじゃないんだよ。いっつも云ってるけど」


 「先入観持ってたら損するよ」

 「いや、先入観じゃないよ。食べた事がある上であんま好きじゃないんだよ」


 「食べてみればいいのに。ホント、〝ラフ・ハウス〟の〝カルボ〟は全然違うよ?」

 「大体、カルボナーラを〝カルボ〟っていう人、マジで笑美以外で会った事ないんだけど」


 「あはっ、凌汰君、流行らせてよ」

 「何で引き継がなきゃなんないんだよ」


 「ねぇ、凌汰君」

 「ん?」


 「〝ラフ・ハウス〟を行きつけに選んでくれて、ありがとね」

 「ふっ、何だよ、それ」


 「だって、凌汰君が〝ラフ・ハウス〟に来てくれなかったら、私達は出逢えなかったんだよ?」

 「まぁ、そうだな」


 「あと、皆をお店に連れて来てくれてありがとう」

 「完全にあの店が俺等の作戦会議の場になってたもんな」


 「ねぇねぇ、〝カームズ〟って名前、誰が考えたの?」

 「云ってなかったっけ? 俺だよ」


 「凌汰君だったんだぁ。どういう意味なの?」

 「それぞれの頭文字。晃士郎のKと、秋充のAと、凌汰のRと、将斗のMと、修真のSで、〝カームズ〟って名前にしたわけ」


 「へぇー、頭文字だったんだぁ。びっくりぃ」

 「云ってなかったっけ?」


 「多分初耳。カッコいい名前だなぁとは思ってたけど。でもさぁ、K、A、R、M、Sなら、〝カルムズ〟じゃない?」

 「いや、腕って意味のアームはA、R、Mって書くだろ」


 「あっ、そっか。それにKとSがついて〝カームズ〟かぁ」

 「そうそう」


 「ねぇねぇ、結婚式しようよ」

 「何云ってんだよ。無理に決まってるだろ」


 「無理じゃないよ」

 「だってもう……」


 「そうじゃなくて、今からここで、〝なんちゃって結婚式〟をするの」

 「〝なんちゃって結婚式〟?」

 

 「うん、結婚式出来なかったからさぁ、やろうよ。六月の花嫁じゃなくて八月の花嫁だけど。じゃあ、始めるよ、パパパパーン、パパパパーン」

 「何か、始まったし……」


 「では、誓いのキスを」

 「えっ……?」


 「ほら、早く。ん」

 「えっ……、解ったよ……」


 「あっ……、そっか……。出来ないんだね……」

 「まぁ、そりゃ、そっか」


 「両親に感謝しないとね。両親がいなかったら、私達は出逢えなかったんだし」

 「そうだな」


 「ホントの結婚式で伝えたかったね、感謝の気持ち」

 「そうだな」

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