【2】

 「憔悴してた感じ?」

 「してたよ、当たり前だろ」


 「へぇー、確かにちょっと瘦せた気がする」

 「そう、かな」


 「うん、ほっぺたに線があるもん」

 「そう、かな」


 「食べる気力もなかったんだ?」

 「うん、なかったよ。暫くろくに食ってなかった」


 「何だか嬉しいな、そんなに落ち込んでくれて」

 「なんじゃ、そら」


 「やっぱり凌汰君も流石に憔悴するんだね」

 「当たり前だろ」


 「ホント、一瞬も暗い顔しなかったよね」

 「そうだったか?」


 「うん、ずっと笑顔でいてくれたじゃん。すごく心強かったよ。ちょっと強張ってたけど」

 「強張ってた?」


 「うん、いっつも強張ってたよ。すごいぎこちない笑顔。目、腫らして充血させて来た事もよくあったし。それでも無理矢理笑顔でいてくれて心強かったよ」

 「バレてたかぁ」


 「バレバレだよ。〝また泣いたんだなぁ〟って密かに思ってたよ」

 「いや、あれだよ、直前に映画観てたからだよ」


 「はいはい」

 「あと、花粉症だよ、花粉症」


 「はいはい」

 「目にゴミが入ったりしてさぁ」


 「はいはい」

 「来る前にカツアゲされたからだよ」


 「そっちの方がダサいでしょ」

 「泣いてねぇよ」


 「何で今更泣いた事自体を否定すんのさ。もう遅いでしょ」

 「てか、髪伸びたな」


 「あっ、話逸らした」

 「いや、ホントにホントに」


 「まぁ、確かに私もびっくりした」

 「伸びるんだな」


 「ホントだよね。良かったよ、伸びて。あのままじゃ嫌だもん」

 「意外と似合ってたぞ」


 「〝意外と〟って何よ」

 「そっちに引っ掛かんのかよ。〝似合ってる〟の方じゃないのかよ」


 「てか、相変わらず机散らかってるね」

 「そうか? マシな方だろ」


 「どれどれ」

 「いいよ、整理しなくて」


 「整理しないよ、整理したら凌汰君、怒るもん」

 「そうだっけ」


 「うん、前、掃除機掛けてる時に凌汰君の机の紙、纏めてたら〝そのままにして〟って云ったじゃん」

 「まぁ、片付いてる散らかって方が浮かぶからね」


 「そう、その理論を延々と熱弁されたんだから」

 「覚えてないなぁ。ゾーンに入ってたのかな」


 「何、カッコつけてんのさ。シンプルに覚えてないんでしょ」

 「いや、ゾーンだよ、ゾーン。よく入ってただろ、俺」


 「ゾーンに入ってる人って、ゾーンに入ってるって自覚あんのかな」

 「自覚あるタイプなんだよ、俺は。こないだも入ったし」


 「じゃあ、ゾーンに入った成果を見せてよ」

 「えっ、ああ、いいけど、ほら、あっ」


 「あっ、そっか……。触れないのか」

 「成程。ほら」


 「おっ、いっぱい書いたね。すごいじゃん」

 「いくらいっぱい書いても、世に出して売れないと意味ないからな、まだまだ頑張らないと」


 「凌汰君なら大丈夫。てか、こんなに書くのが、まずすごいよ、それでも」

 「そんな事ねぇよ」

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