August・Bride.

【1】

 「で、そっちはどうなの?」

 「俺は別に、何も変わってないよ」


 「躰壊したりしてない?」

 「壊してないよ」


 「ギャンブル依存症になって借金作ってない?」

 「作ってねぇよ」


 「喧嘩に明け暮れてない?」

 「明け暮れてねぇよ。何で三十二で急にグレだすんだよ」


 「外反母趾になってない?」

 「なってねぇよ。何を履いてんだよ、俺。スニーカーしか履いてねぇよ」


 「変な宗教にハマってない?」

 「ハマってねぇよ」


 「高い壺とか買わされてない?」

 「買わされてねぇよ?」


 「新しい宗教団体立ち上げてない?」

 「立ち上げてねぇよ。仮に立ち上げたとしても別にいいじゃねぇか」


 「密漁とか、転売屋とか、映画泥棒とかに手、染めてない?」

 「染めてねぇよ。そんなのに目覚める訳ねぇだろ」


 「てか、何だか少し瘦せちゃったね」

 「そうか?」


 「ちゃんと食べてるの?」

 「食ってるよ」


 「昨夜は何食べたの?」

 「昨夜は、ピラフ作って食った」


 「あっ、あのカレー味の?」

 「いや、シーフードの方」


 「あっ、そっちね。一昨日は?」

 「一昨日は、何食ったかな」


 「五、四、三、二、一」

 「何で制限時間あんだよ。あっ、あれだ、一昨日はコンビニで済ませた」


 「えっ、コンビニ? コンビニで何買ったの?」

 「弁当だよ、弁当」


 「何弁当?」

 「普通の、幕の内弁当」


 「幕の内弁当? その前は?」

 「その前? その前はカツカレーだったかな、コンビニの」


 「またコンビニ? ちょっとぉ、私のレシピノートちゃんと使ってる?」

 「使ってるよ」


 「ホントにぃ?」

 「うん、前、あれ作った、煮込みハンバーグ」


 「ああ、あれね」

 「納豆掛けたら美味かった」


 「こら、勝手にアレンジすんな。てか、ハンバーグに納豆?」

 「合うんだって、これが」


 「絶対合わないでしょ。一歩譲って普通のハンバーグにソースの代わりとして納豆ならまだしも、煮込んだハンバーグでしょ? どっちもすごい主張するタイプじゃん。絶対喧嘩するに決まってるよ」

 「滅茶苦茶合うよ、納豆とハンバーグ」


 「合わないよ。野菜もちゃんと摂ってる?」

 「摂ってるよ」


 「コンビニばっかりじゃ駄目だよ?」

 「大丈夫、基本自炊だから」


 「ホントにぃ?」

 「うん、コンビニはたまにだから」


 「でも、二日連続でしょ?」

 「いや、その前もだった」


 「ちょっとぉ、三日連続?」

 「ちょっと、忙しくて」


 「ホントにぃ?」

 「うん、ちょっと、エンジンが掛かってさぁ」


 「おっ、降りてきた感じ?」

 「降りてきたっていうか、しばらく何をする気力もなかったから、このままじゃ駄目だって思って、無理矢理机に向かって、無理矢理ペン握ったって感じ」


 「へぇー、頑張ってるんだぁ」

 「ちょっとずつだけどな」


 「てか、しばらく何をする気力もなかったんだ?」

 「当たり前だろ」

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