【4】

 「ああ、あれね。映画も観たし原作も読んだよ。私、榊てるお作品は大体網羅してるからね」

 「私が出るって云った時、喜んでたもんね」


 「そりゃ、嬉しかったよ」

 「私さぁ、早乙女組に入れて嬉しくてさぁ、ワンシーンだけだったけど、ホント緊張したぁ」


 「〝マッチョになりたくてプロテインに頼る人いるけど、あれって卑怯じゃない?〟ってやつでしょ?」

 「そうそう。よく覚えてるね」


 「ワンシーンだもん。覚えてるでしょ」

 「私、あのワンシーンの為に金髪にしたんだから」


 「えっ、あれって地毛なの?」

 「そうだよ。次の撮影があるからすぐに戻したんだけどね」


 「なんでかつらじゃないの?」

 「早乙女監督のこだわりなんだろうね」


 「へぇー。やっぱ鬼才は普通とは違うんだね」

 「私、出演時間より髪染めたり戻したりしてる時間の方が長かったもん」


 「ふふっ、短かったもんね」

 「金髪になった人史上最短だろうね」


 「私はこないだ、春川くるみちゃんと仕事でワンシーンだけ一緒だったんだけど、やっぱりアイドル活動もやってるだけあってすごい可愛かったぁ」

 「誰、それ」


 「えっ、春川くるみちゃん知らないの?」

 「知らなぁい」


 「春川くるみちゃんは〝僕等の秘密基地〟のキララとか、〝妖怪警察〟のシオリとか、〝竜使いの神楽耶〟の神楽耶とか」

 「ごめん、全部知らない」


 「えっ、嘘でしょ? くるみちゃんの三大代表作だよ?」

 「知らなぁい」


 「えっ、〝レボレボ〟のセンターの娘だよ?」

 「何、〝レボレボ〟って。知らないんだけど」


 「えっ、嘘でしょ? 〝レボレボ〟だよ? 〝レインボー・レボリューション〟だよ?」

 「知らなぁい」


 「〝今夜は飲んだくレインボー〟とか知らない?」

 「知らなぁい」


 「〝いつもの~古びたあの店で~枝豆摘みぃ~ながら熱燗を~たしぃ~なむぅ~〟って知らない?」

 「知らなぁい」


 「〝黄昏インボー〟とか知らない?」

 「知らなぁい」


 「〝葉巻ぃを~咥えながぁ~らぁ~夕日にぃ~君を~想うぅ~〟ってやつ知らない?」

 「知らなぁい」


 「〝大儲けレインボー〟とか知らない?」

 「知らなぁい」


 「〝パチンコでぇ~大儲けっ! 当たったぜぇ~、万馬券っ!〟って聞いた事ない?」

 「ないよ。てか、アイドルなんだよね? 歌詞がアイドルに似つかわしくなさ過ぎじゃない? 何、おっさんアイドルみたいな感じで売ってんの?」


 「いや、王道の正統派の清純の五人組アイドルだよ?」

 「全然、王道でも正統派でも清純でもないじゃん。〝熱燗〟だの、〝葉巻〟だの、〝パチンコ〟だの、〝万馬券〟だの。てか、五人組なの? 七人じゃないの? そんなに〝レインボー〟強調しといて七人じゃないの? 〝大儲けレインボー〟だけレインボー掛かってないし」


 「ホントに知らない? 春川くるみちゃんって。一人でアロエヨーグルトのCM出てる娘だよ?」

 「アロエヨーグルトのCM? 知らなぁい」


 「噓でしょ? 春川くるみちゃんが湯上りにヨーグルト食べてるCM知らないの?」

 「ああっ! パジャマ姿でソファーに座って〝ん~、とろける~〟って云ってた娘?」


 「そう。思い出した?」

 「可愛いよね、あの娘」


 「前に熱愛撮られたよ」

 「えっ、誰と」


 「一般人」

 「一般人? 一般人って何処の一般人なの?」


 「年商何億とかの社長らしいよ」

 「それ、一般人っていうの? 年商何億の何処が一般なの」


 「ホントだよね。年商何億の社長は全然一般人じゃないよね」

 「〝一般人〟の定義は何なんだろうね。てか、真相訊いたりしてないの?」


 「訊かないよー。訊かない訊かない。訊く訳ないじゃん」

 「えっ、何で?」


 「初対面の人にいきなり〝年商何億の社長と付き合ってるってホントですか〟なんて云える訳ないでしょ」

 「そっか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る