いつかまた、光の幕を伝って。

来栖 煌羽

ルミエールの蝶と、想い出の片方が並ぶクローゼットの前で。

 「で、そっちはどうなんだよ」

 「こっち?こっちは悪いニュースばっかだよ。警察が大麻やったり、サラリーマンが人の 家に火点けたり。あと、こないだ歌手の人が事故起こして捕まったし」


 「歌手?歌手って誰だよ」

 「なんだっけ、バンドの名前…… 」


 「名前の前半だけとか、後半だけでも思い出せないのか」

 「いやぁ、思い出せないねぇ」


「なんか、口ずさめないのか」

「いやぁ、口ずさめないねぇ」


「タイトルだけ解ったりしないのか」

「いやぁ、解んないねぇ。よし、禁じ手使おう」


 「禁じ手?」

「うん。ググりという禁じ手をね」


「禁じ手なのか、ググるのは」

「事故、バンド、名前、知りたいっと…… 」


「いや、〝知りたい〟とかはいらないだろ。知りたい事を調べるのがネットなんだから。て か、〝名前〟もいらないだろ」

 「あっ、〝イナズマ・ロケット〟だ」


「えっ、誰だよ」

「ドラムの― 」


 「kaitoかっ!」

 「そう。kaitoって人」


 「マジか…… 。kaitoが捕まったのか」

 「あと、もう一人、バンドの人が捕まったよ。酔って人殴ったみたい」


 「誰」

 「バンド、キツネ、殴ったっと…… 」


 「〝キツネ〟ってなんだよ」

 「キツネ顔だったんだよ。その歌手が」


 「じゃあ、せめて〝キツネ顔〟だろ。てか、そんな顔の特徴とか入れたら、検索に支障出る だろ。てか、キツネ顔の歌手なんかいたっけ」

 「あっ、そんな名前だった」


「出たのかよ」

「エベレスト―― 」


「西蓮寺かっ!」

「そう、西蓮寺って人。〝エベレスト・スカイ〟ってバンドの」



 「マジか…… 。てか、お前はどうなんだよ、最近。それを訊きてぇんだよ。別に世の中の事 訊いてねぇよ」

「僕? 僕はまぁ、相変わらず。昨夜、暇だったから一人でくしゃみ何回出せるか選手 権やってたら鼻がなんか、って、えっ! 嘘っ! ちょっ、見てこれっ!」


「なんか今、なかなか衝撃的な引き出し開け掛けたな。なんだよ、くしゃみ何回出せるか選手権って」

「ちょっ、これっ!」


「へぇー、保坂、メジャー行くのか」

「いや、その下」


 「〝THE・紅孔雀ズ〟のキーボードのSHOTA? 知らねぇなぁ」

 「あっ、そっか。今年流行りだしたばっかだもんね」


 「お前、知ってんのかよ。珍しいな、音楽疎いのに。てか、名前クソダサいな。なんだ、〝THE・紅孔雀ズ〟って。〝THE〟と〝ズ〟が〝紅孔雀〟の足を引っ張ってんな。せっかく〝紅孔雀〟がカッコいいのに。台無しだな。〝紅孔雀〟でいいだろ。ってか、音楽業界の治安の悪さヤベェな」

 「〝ザベニ〟の曲、滅茶苦茶好きだったのに……」


 「〝ザベニ〟? 略して〝ザベニ〟? 何で〝THE〟が略称に含まれるんだよ。普通含まないだろ、〝THE〟は。〝THE〟が略称の足まで引っ張ってるじゃねぇか」

 「えっ、嘘っ!」


 「どうした。今度はなんだ」

 「ちょっ、見てよ、これ」


 「へぇー、辰乃里、横綱になったのか」

 「いや、その上」


 「俳優の刈谷倫斗? 誰それ。もしかして、刈谷遼太郎の息子?」

 「そう。その息子が芸能界引退だって」


 「ふーん。息子も俳優やってたのか」

 「そう。この刈谷倫斗って俳優、隠し子がいるんじゃないかっていう報道が前に出てさぁ、まぁ、ホントかどうかは解らないけど。多分それが原因なんじゃないかな。そりゃ、やめたくもなるよね。ネット上で〝刈谷不倫斗〟って呼ばれたりして叩かれまくってたみたいだし。もしデマだったらたまったもんじゃないよねぇ」


 「びっくりだなぁ。刈谷遼太郎に息子がいたのか」

 「えっ、まだそこで止まってんの? まだびっくりポイントそこ?」


 「息子も有名なのか」

 「あれだよ、〝ストックホルムな恋〟に出てた人」


 「もしかして、強盗役の人か」

 「そう」

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