魔法少女誕生!の巻 パート2

*ここから先の説明役は、突如消えた三郎の代わりにわたくしこと、語部士郎がお送りします。すみませんね。読者の皆さんにご迷惑をかけてしまって。あいつのプロ意識の低いことは私共も危惧しておりますので、後できつくお灸を据えておきますから。

それでは本編へ戻りましょう。


「いててて…。やりやがったわね、このオンボロトラック!ちゃんと前くらい見なさいよ!」


「…って。ここは一体?」


説明役:

浅く意識がまどろんでしまった。そう思っていたのだが…。目を戻し、あたり一面見回すとまさにこれ愉快げな木々連なり、7色虹色がかった金色の雅で広大な河川が彼女の瞳に映り込む。そしてやっと気づくのだ。奇天烈、嫌になるほど炯炯太陽光を注がれた人気のない静かな山の麓に、自分が横たわっていたことに。


「アタシ、まさか死んじゃった??」


説明役:

そう。ここは冥界…所謂死の世界なのである。誰もが一度戻らねばならない心の故郷…。


「三途の川に綺麗な快晴。

それに神話なんかでよく聞く大きな山々。

首を切られる前に芯を撃ち抜かれるとは…。思いもしなかったわ。とほほ…」


説明役:

…そんなことを言っている場合ではなかろう。こんな戯言をほざいている間にも、淡々とページ数は幾分か消費されてゆくのだから。

…まさに今もだが。


「それにしてもバカ高い山ねぇ。

なんというか、こう。綺麗な立体映像を見ている気分というか。現実感がないわ。」


「…暇だし人もいないし退屈だし、とりま登ってみましょうかね…と。」


説明役:

しっかし、物語上の世界とはいえ、死の世界に訪れたのは人生史上初めてのことですから、なんだか変な気分ですね。私自身は死んだわけではないのに…。きらびやかで明るくて、なのにどこか幼稚性を感じさせる。自然的でありどこか人工的。神秘的と言われればそれもそうなのでしょうがね。ここがプラトンが著作で述べていた、所謂イデアの世界だからなのでしょうか。


「ん?あれ?思っていたよりも案外そこまで遠くはなさそうね。」


説明役:

そこらに生い茂っている花・草・木々はにこやか笑顔を、純金をそこら中にばらまくが如くあたりに拡散させ。怪しいトカゲや蛙はにらめっこ。…しっかしまぁお温かいこと。死後の世界だってんだから、明るいばかりではなくもっと尖った場所もあると期待してたのですがね。蓋を開ければぽかぽかニカニカってんだから。

針の山くらい見てみたかったのだけれども。

…俺のイメージしてるものが暗すぎるだけ?それとも、まだそういう領域に足を踏み込んでいないだけ?あ、えっと。台本台本。

台本に戻らないと。

えー、おほん。物語のテンポ感の都合上、あれやこれやとらくらく何者かに導かれるが如く山の頂上まで登りつめていき…。


(ん?あれってまさか…。やっぱり!人影!

人影よ!さっきまで人影一つしかない寂しい山だったはずなのに!)


説明役:

ここで何やら先程までは見ること叶わなかった人影のようなものを確認する。

まあもちろんひとまず一安心といったところだな。それにしても、やけに黒いフードを顔のそこのそこまで深く被っているが…。

怪しいな、中二病か?いや、あの世に中学があるかはわからないが。


「あの…確認してもよろしくて?ここは一体どこだか、あなた、ご存知で?まさかまさかと思いますが、死後の世界だとか馬鹿げたことはおっしゃりませんよね?」


「…。」


「!!ひっ…顔がっ…!!」


説明役:

やけに黒いフードを被っているなぁなんて思っていたが、なんと彼の正体は…。

銀色の肌をした無機質で感情が感じられない、醜い骸骨人間であったのである…!いや、流石に無機質で感情が感じられないは余計でしたかね?それでは改めて。なんと彼の正体は、銀色の肌をした、日本最古のスーパーヒーロー・黄金バットのパクリ野郎みたいな感じの、その、哀れな骸骨人間であったのである…!!…って、これじゃあ芸がありませんよね。ただの罵詈雑言だし。それにしてもぉ、死神ってなんでわざわざフードなんて被ってるんですかね?太陽に日が当たったら生きていけないからとか?いや、それはドラキュラか。


「ちょいちょいちょい!死後の世界だって確信してんのになにビビってんのだよ。そんなにおったまげるほどか?俺の顔って。

むしろ割りとコメディリリーフだと思うんだけど。」


「当たり前でしょう!アタシは人の子、神の子、女の子なんだから。死なんていずれ訪れるもの。そんなもん怖がってる暇なんてないのよ!…それより、もっとマシなデザインはなかったの?流石に。」


「そこまで酷評しなくても…。しっかし…ふ〜む。死後の世界だって気づいている割に、そういうところは敏感なのだな。人間、そんなもんなのか…?」


「…そういえば!多分あなたって死神とか悪魔だとか、もしくは天使的存在だと思いますけど、質問続けてよろしくて?もしここが死の世界だってんなら、あたくしはこれからどうなりますの?まさか、地獄行きとか言いませんわよね?」


「ふ~む。ちょっと確認してみるから、そこで待ってろよ。」


説明役:

すると死神?である彼は、汚らしい黒く痛々しくなってしまった虫歯がいくつもそろっているその口から、少し唾液がかかった気色の悪い。どこぞの北の将軍様が常時使用してそうな赤いドクロのスイッチを取り出した。


「ポチッとな。」


陽華:

(あ〜、なるほろ。なるほろね。

立体表示型デスプレイ。なんか、古臭いSF映画みたい。それにしても、案外死神?ってのも文明の利器に頼るものなのね。なんか霊力とかで確認するとばっかし思ってたのだけど。


「ほれほれほれ…。」


デスプレイ:

【超爆音で流れているイメージで。

ほら、想像力を働かせて!!文才ないのだよ、この物語のあれは!】

ド!!はドーナツの(((ド)))!レ、はレモンの(((レ)))!!!ミ…は…etc.


陽華:

(なにこの!?

このやかましいドレミの歌のメドレーは??

もしかして、これがある種鍵を開けるためのパスワードだとでもいうの???どうせこんなやかましい音なら、うさぎとかめにでもすりゃいいのに。やかましいことにはかわりないんだから。)


「よし、解除解除。んで?そういやあれ、なんだっけ?その、あんさんの名前とか生まれの国だとか。」


「湊陽華。アタクシの名前は湊陽華!日本国出身二十歳のピチピチOLってとこかしらね。

あっ!お江戸の国出身ってところでありんす!」


「ほいほい。そんな変な言葉遣いでなくてええっての。って、...あっ。

うーん。なるほどねぇ。はぁ。」


陽華:

(あれ?これなんか、駄目そうなパティーンじゃない?わざとらしくため息なんてついて…。葉巻きまで吸い始めたし…。)


「んまあなんとも言いにくいのではあるが、君はどうやら地獄行きってとこかな。人とか生き物をむやみに殺してるとか、万引きグセがあるとかそういうわけじゃあないが、一言で言うなら腐敗堕落。日常のだらしのない態度が因果を招いたのだ。そこまで重い罪ではないものの、まあまあきついと聞くぞ?まあ、最低ランクの地獄だから。鬼たちの奴隷として200年酷使されるくらいで収まるっちゃ収まるけど。」


説明役:

あー…。やっぱり。


「えぇっ!うっそぉ!!地獄??」


「そうだな地獄。死者のムショだよ。…もっと酷いと聞くが。」


説明役:

1刹那。約75分のうちにおける1秒の遥かに短き沈黙の後。。。


「ん〜、な〜るほろ。まあ、極楽浄土の世界なんかよりだいぶましね。さあさあ、早く連れてきなさんな。」


「???地獄ってのは、あの地獄だぞ???

釜ゆでにされたり針山登らされるあの…。今まで何人の人間が許しをこいてきたことか。」


「そう言われてもねぇ…。ぶっちゃけそんな拷問じみたことやらされるより、朝から毎晩無常無心で働かされ、クタクタになりながら帰宅する。そういう普段の日常のほうが、アタシにとって何倍も苦痛なのよねぇ。そりゃあもちろん、帰りたくないかと言われれば、嘘になっちゃうけど。オホホホ!」


「なんだこの女…。」


「ほら。どうせアンタ、アタシと同じで仕事できなそうだからまだまだあまってんでしょ?何とは言わないけど。早く行きましょ?

地獄へ。」


説明役:

まさか死神も、こんな珍妙な女と会うなんて夢にも思わなかったであろうというのはなんとなくであるが彼のなんとも言えない表情からも十二分にも伝わってくる。まあ、私だってこんな女いたら流石に近寄りたいとすら思いませんよ。絶対めんどくさいじゃないですが、外で見る分には面白いかもしれませんが。


「んまぁいいっていうならいんだがね。それじゃあ早速行くか。地獄へしゅっぱーつしんこーう!」


「イエッサー!」


「…って。まてよ?そういや、最近…。」


「なによ。」


「あっ。ちょいまち。あれこれこれっと。

…あっ、そうか女は今、地獄へ行かなくてもよかったんだった。おい、一応聞くが救済要素もあるぞ?このままいくか?」


「ほいほい、オーケーオーケー大丈夫…。」


「…いやまって。それってどういう?」


「つまりだな。あんさんが一定条件要件を満たしてくりゃあ、わんちゃん、元の体で生き返って再スタートできるかもしれんぞという意味なのだが。」


ボカスカボカスカボーン!!!


「こんの死神もどきぃ!!何故それをはやく言わんのじゃい!!!」


「いや!さっきまで別にいいって感じの雰囲気だったじゃないの。イテ!やめっ!」


「そりゃそうよ!あくまで帰れる選択肢がなけりゃさっさと認めてさっさとやる!でも帰れる選択肢があるんなら話は変わってくるじゃない!!もう少しでアタシ、鬼の奴隷になるとこだったのよ!?」


「わかったわかったすまんかった!それをもっと早くに言うべきだった!だから一旦やめぇっ!」


説明役:

なんつー女…。


「あっ…。あらら〜。ちょっとやりすぎちゃったかしら…。」


「こんの小娘がぁ…。俺の顔。だいぶ変形しちゃうじゃないの、こんなことされると。案外もろいのに…。ぐすん。」


「ごめんなさい、アナタ人外だからこれぐらいしても平気だと思ってたのよ。使い古された特撮人形みたいにしちゃったのは悪かったと思ってるわ。だから教えてくれない?アタシはどうすればいいの?」


「なんという異人差別発言!ほんと、ワテが過激派でなかったことに感謝するんだな!」


説明役:

ありゃ〜。明らかに苛ついてるよ。こりゃ。

んまぁ、そうはいっても結局お役所仕事だからあんまり下手にでれないだろうけども。

わかる。わかるよ、その気持ち。

もし俺がこの立場なら男女平等パンチしたくなってただろうね。あんまこんなこと言わんほうがいいけど。


「冥界は今混乱状態なのだ。

ワテらが住む冥界でのエネルギー源というのは人間たちの夢さかい。しっかしあらゆる世界線で利己的な似非リアリストっちゅーもんがビールスのように繁殖しちまったもんで、不足し始めているのだ。ほら、最近おたくらの世界では例のあれだとか、国の景気が良くないだとかで自殺者が多発しているでしょう?それも結局は、ドミノ倒し方式で影響を受けた結果そのような自体になっているわけ。

だからそのような人生に絶望しているようなやつらを減らし、人々の夢を再生させる人材が今求められてるのだよ。」


「ふむふむ。ロコナってそういうのが原因だったのね。」


「そんで、その職種っていうのマジッカ。所謂魔法少女ってわけなのだが、いかんせんまだまだ数が足りない。だからこうやって、待遇をある程度好条件にすることによって数を増やそうとしているの。どうだ?やって見る気はあるか?一応地獄のランクでも最低ランクの人間だから、やれなくはないが。」


「魔法少女ねぇ。所謂セーラームーンとか、プリキュアみたいなもんでしょ?」


「そのセーラームーンだとかプリキュアってのが何かはよくわからんが恐らくそういうものだ。」


陽華:

(このまま死んだままじゃ、おじさんが悲しむだけだけよね。アタシのせいでいつも迷惑かけてるのに。いや、トラブルメイカーがいなくなって逆にすっきりしちゃうかしら。

…。あんま深く考えないでおこ。)


「具体的に何をやるかは見えてこないけどまあいいわ。やる!やってやろうじゃないの!」


「そうこなくっちゃ!んじゃ、ここにサインしてねお姉さん。」


「ほほいのほい…っと。」


「よし。ほんじゃ契約完了ってわけで…

異界も異界。別の世界へ。いざ!

いってらっしゃ~い!」


「えっ…いってらっしゃいってどういう…」


陽華:

(あれ?なんだか、地面の感触が…。)


「えっえっ待って!なんか地面が…!!

キャァァアアッッツ!!!!!」


「あとで案内役を配属させるからー

がんばってきてくれ〜。一応建前上でも応援さしてもらいまっせ〜。」


説明役:

ありゃりゃ…。行っちまった…。

私も早く行かなくては!

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