雪中行軍
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22歳 フリーター 女性の書き込み
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私の地元には、軍隊が昔訓練で使っていたとされる山があります。
その山のことやそこで起きた怖い話などを、私はよく母から聞かされていたのです。
その内容はというと、例えば、とあるカップルが体験した話です。
――夜にカップルでドライブをしていた際、彼女がトイレに行きたいと言ったそうです。
そこで二人は山道にある茶屋の端の公衆トイレを見つけ、彼氏は車で彼女を待っていました。
すると、その車をたくさんの人影に囲まれて、窓を触られたり、車体を揺らされたりしたそうです。
彼氏は怖くなって彼女を置いて一目散に帰ってしまいました。
彼氏は明るくなったころに急いで彼女を助けに行ったところ、彼女は公衆トイレの中で白髪になり、震えながら失神していたそうです。
その彼女は意識がハッキリと戻ることはなく、病院で入院し、そのまま亡くなってしまったんだとか。
――こんな話です。
私はその怖い話を信じていなかったのですが、母とドライブをしていた際、たまたまその山を通ることになりました。
通り道にあった山の休憩所でソフトクリームを食べると、私はトイレに行きたくなりました。
その日は休日だったこともあり、女子トイレには少しの行列ができていました。
しかし、なぜか1番奥のトイレだけは誰も入らずに空いています。
私はラッキーと思い、その1番奥のトイレに入りました。
壊れているのか鍵はかからなかったのですが、まあわざわざここに入る人はいないだろうと思い、そのまま用を足すことにしました。
すると、どこからか足音が聞こえてきます。
ザッ、ザッ、とまるで雪の上を歩いているような音です。
その足音は統率がとれたようなリズムで、私の周りをグルグルと歩き回っているかのように聞こえてきます。
私は怖くなり戸を開けようとしましたが、なぜかピクリとも動きません。
誰かがおさえているのかもしれないと考え「開けて!!」と大声で言いましたが、返事はなにも返ってきません。
そうしている間にも足音は徐々に大きくなっていきます。
もう私はかなり近くを囲まれているような感覚です。
「開けて!!誰か助けて!!!」
そんな叫びもむなしく、足音はどんどん大きくなり、とうとう私の真後ろでザッと止まりました。
私は恐怖で震えあがり、最悪の想像までしましたが、恐る恐る振り返ろうとしました。
するとその瞬間、目の前の戸が急に開きました。
そこにはキョトンとした顔の母が立っていて、
「あんた何してるの?終わったなら早く出なさい」と言いました。
私はわけがわからず、さっきまで起こっていたことを必死に説明しました。
すると母はますます不思議そうな顔をして、
「何言ってんの?あんたはずっと静かで、何も聞こえてなかったよ」と言ってきました。
母は分かっていないけど、この山で起きた怖い話は、きっと本当だったのです。
私はそれを確信しました。
とはいえ、なんとか無事にここから逃げ出すことができそうです。
私は助かったと安堵して立ち上がり、そのトイレから出ようとしました。
そのとき後ろから聞こえてきた声を、私は忘れることはないでしょう。
「もう少しだったのに」
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