第3話 原始人みたいな身なりだったエルフのお姉さんは実はめっちゃ美人でツンデレだった話

 あーしが突然異世界に迷い込んで一晩が経った。


 昨夜、あーしは森で一人暮らしていたエルフのお姉さんエフィリアが旅の仲間になった。

 だけど、あーしは彼女と出会ってからずっと疑問に思っていたことがあった。


「エフィリアって何でずっとその恰好なの?」


 エフィリアはあーしと出会った時から今までずっと裸だ。

 伸びっぱなしの金髪が大事なところをいい感じに隠しているけど、かなり目のやり場に困る格好であることは間違いない。


「は?」

「だから、その恰好!何で裸なの?服とか着ないの?」

「だって、すぐにボロボロになるから」

「すぐにボロボロって、どんな使い方をすればそうなるの?」


 相当荒っぽい使い方でもしてるのかな?

 それとも、魔法を使った反動で服が破れちゃうとか?


「どんな使い方って……朝になったら寝間着から着替えて、夜になったら寝間着に着替えてって使い方だ」

「え?普通じゃん。それなのに、すぐボロボロになるの?」

「毎日使ってたら五年も持たないんだ。かといって、使わないと虫に食われて穴が開く」

「それって普通じゃない?」


 あれ?


 同じものの話をしているはずのなのに、何でか話が食い違う。


「じゃあ、エフィリア的にはどれくらい使えたらいいの?」

「少なくとも千年は使いたいな」

「そんなに丈夫な服があるわけないじゃん!」


 これでよく分かった。

 エルフにとっての五年は相当短い。

 人間換算で言ったら数日、もっといけば数時間、数分のレベルだ。


 着ても五分でボロボロになる服なんて流石にあーしも着たくない。


「でも、服が嫌ってわけじゃないんだ」

「他のエルフはどうかしらないけど、私はまあ別に嫌いじゃない」


 ってことは、他のエルフもそんな原始人みたいな恰好をしてるのかな?


「とりあえず、そんな恰好じゃ人前に出れないから、あーしの予備の服でも着ておく?」

「着た方がいいか?」

「できれば着てほしいかな。正直、目のやり場に困る」


 エフィリアってすっごくグラマーだから、女のあーしでも爆発しそうな胸とかお尻とかに目が行っちゃう。

 とにかく、エフィリアの身体は封じ込めておかないと、とても危険。




 ということで、あーしのシャツを渡してみた。


「胸がきついんだが」

「あーしが貧乳で悪かったですね。はい、我慢してボタン閉じる!」


 パンパンのなった胸元を強引に引き締めながらシャツを着せる。

 すると、腹だしの服じゃないのにお腹が出てしまった。

 しかも、羨ましいくらいに引き締まっている。

 鍛えているのか、うっすらと腹筋が割れている。


「エフィリアの身体って本当に良い身体してるね。羨ましい」

「お前の努力が足りないだけだろう……」

「エフィリア、流石に言っていいことと悪いことがあると思うよ?」


 ムカついたあーしはエフィリアの胸を鷲掴みにする。


「この手で収まらない胸が努力だけで手に入るなら、世界はみんな巨乳だよ!この、この!」

「あっ!?止めろ!揉み回すな!」


 エフィリアの喉の奥からちょっとエッチな甲高い声が出る。

 だからって、止めるもんか。

 あーしだって怒る時は怒るってところを見せてやらないといけないんだ。


「このデカ乳!この爆乳お化け!」


 バツン!


「いだっ!?」


 突然エフィリアが着ている服の胸元のボタンが爆ぜて、あーしの額に直撃する。

 内側からの圧力がえげつなかった分、その衝撃はたんこぶができるほど凄まじかった。


「ボタンを飛ばしてあーしとの格差を見せつけようとするなんて、なんて性格が悪い」

「どう考えてもお前が無理やり引っ張ったせいだろう」

「これどうしよう」


 ボタンが爆ぜてしまった部分からパンパンに圧縮された胸の谷間が露出している。

 これがまた裸以上にエッチで、濃密なアダルト臭が漂う。


「どうせすぐにダメになるんだ。このままで――」

「絶対ダメ!今のエフィリアはエロ過ぎ!さっきより酷くなってるから!絶対悪いことに巻き込まれるから!」




「……分かったよ。お前みたいな普通の格好をすればいいんだろう?」


 エフィリアは溜息混じりにそう言いながら、手の平を掲げた。

 すると、手の平から数匹の光り輝く何かが飛び出すように出てくる。


 その姿は手の平サイズの小さな女の子。

 しかも背中には虫の翅が生えている。


「もしかして、妖精!?」

「お前の世界ではそう言うのかは知らないが、これは魔力体――私の魔力を形にした人形だ」


 妖精こと魔力体は主人であるエフィリアの回りを飛び回っている。


「異世界すご……」


 その愛くるしい姿にあーしが手を振ると、なんと向こうもまるで自我を持っているかのように手を振り返してくれた。


 めっちゃ可愛い……。

 欲しい。


「ねえ、エフィリア。この子を出す魔法を教えて!」

「お前は無理だぞ」

「へ?何で?」

「お前には魔力がない。おそらく、魔力を作る器官がないんだ」

「ってことは、あーしって魔法使えない?」


 せっかく異世界に来て、そんなまさか――。


「そういうことだ。残念だったな、降り人」

「そんなぁぁぁ……!」


 あーしはその場に崩れ落ちる。


 魔法が使える世界で魔法が使えないだなんて!

 チート能力なんていらないから、せめて魔法は使えるようにしてよ、神様!


「さて、そろそろやるか」


 エフィリアは妖精たちに目配せをする。

 彼女たちは大きく頷いて、ポンッと手を叩いた。

 すると、彼女たちの目の前に自分の身体とほとんど変わらない大きさのハサミが現れた。


「さあ、やれ」


 エフィリアの指示を合図にハサミを手にした妖精たちがエフィリアへと向かっていく。


 そう、これは散髪である。


 手に負えないほどに伸び切った髪を数匹の妖精が少しずつカットしていく。

 しかも、結構上手でまるで美容師がカットするかのように迷いなく正確だった。


 めっちゃ可愛い。


 小さい身体でせっせと忙しくなく一生懸命仕事をする妖精たちの姿はまるで一つの行事に力を合わせて頑張る幼稚園の子供たちのようでほっこりした。





 そして数分後。

 妖精たちの頑張りであっという間に散髪が終わった。


「お、おお……」


 顔を覆うほど伸びに伸びていた髪が適度なところまで切り揃えられ、整った顔立ちが露わになる。

 

 小顔で輪郭はシャープな上に、目鼻立ちもはっきりしている文句のつけようがいないくらいのモデル顔。

 キラキラと日光を反射させる金色の髪も相まって、神々しささえ感じてしまう。


「……顔も身体も良いとか反則じゃん」

「どうした?何が反則だって?」

「あ、いや……」

「何だよ。言いたいことがあるなら言え」


 エフィリアは顔をあーしの顔にぐっと近づける。

 まるで推し有名人が目の前に来たかのようで情緒がおかしくなる。


「えっと……エフィリアの顔に……見とれて、ました……」


 ああ、あーしなんてことを言ってるんだろう!


 言葉にした直後から恥ずかしさが込み上げてくる。

 別に正直に言う必要なんてなかったのに。


「そんなことか、当たり前だろう私はエルフだぞ?ヒューマンとは出来が違うんだ」

「ああ、そういうこと言うんだ!」


 せっかく褒めたのに……!

 そう言えば、胸の時もそんな態度だったね。


 ちょっと今のはプッチンと来たよ!


「性悪!口悪!傲慢エルフ!もういいよ!なし、なし!一緒に旅するなんてなし!」

「え!?おい!」


 キレたあーしはテントの中に飛び込んで、そのまま引きこもる。


「おい、降り人!」


 エフィリアは無理やり中に入ってこようとはせず、ただあーしを呼びかける。


 その後も何度か呼びかけられるが、その度に声は弱々しくなっていった。

 ただ、あーしは一度も返事はしなかった。


「……本当にもう一緒に旅はしないのか?」


 しおらしい声でぼそぼそと聞いてくる。

 その言い方はまるで――。


「まるであーしと一緒に旅するのを楽しみしてたみたいな言い方だね」

「えっ!?そ、そんなわけないだろう!私はお前がどうしてもって言うからついていくだけだ!私がお前と旅がしたいだなんてこれっぽっちも思っているわけないだろう!」


 分かりやす過ぎでしょ……。


 これあれだ、テンション高くなってちょっと行動がおかしくなっちゃうやつだ。

 きっとそうに違いない。


 真偽を確かめるため、あーしはこっそりとテントの隙間からエフィリアの様子を覗いてみる。

 すると、叱られた子供のように小さくなりながら耳から顔を火照らせるエフィリアと目が合った。


 ほら、ほら。

 このツンデレめ。


「……っ!?」


 視線が重なった途端、エフィリアの顔はさらに真っ赤になる。

 あーしは無言のまま仏のような微笑みを浮かべて見せた。


「クソっ、こんな屈辱初めてだ……」


 その後、あーしはエフィリアを太平洋よりも広い心で許すことにした。

 終始恥ずかしそうにしていたエフィリアの姿は憎たらしさなんて忘れるほど可愛かった。

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