突然異世界に飛ばされたのでエルフとキャンプをしながら旅をすることになった話
縞乃聖
第1話 キャンプ場に向かってたら異世界に来ちゃった話
あーしは
学校ではギャルって言われるけど、趣味はキャンプ。
っていうか、自然が好き。
でも、ちょっと事情があって友達にはこの趣味がバレないようにしている。
だから、あーしがキャンプをする時はいつも一人。
今日も相変わらず一人でキャンプをしに、キャンプ場へ向かっていたわけ。
そして、あーしは予想もしていなかった事件に巻き込まれた。
「ふんふん、ふふーん。今日も楽し~一人旅~」
あーしは原付バイクで細い山道を進む。
目的地は山の頂上にある満点の星空が見えるらしいと噂のキャンプ場。
家からノンストップで四時間半となかなか遠いけど、どうしても行ってみたかった場所なだったから挑戦してみた。
友達が寝ている早朝から家を出て、キャンプ場に向かいながら、気になった場所は立ち寄って――。
そうやって、のんびりと旅を楽しんでいるともうお昼過ぎ。
キャンプ場まであと一時間ってところまでやって来た。
「あと少し~あと少し~キャンプ場まであと少し~」
もうすぐでキャンプ場だと思うと心が弾んで自作の歌が口から漏れ出す。
完全に気が緩んでいた。
そんな時、突然視界の奥の方――道路の先にある空間がブレたような気がした。
まるで映像が荒れた時に見るような自然現象とは思えない空間の揺らぎ。
「え?」
それをあーしの頭が理解する時にはもう、それが起こった場所は目の間にまで迫っていた。
「え!?嘘!?」
突然、視界が真っ黒に染まる。
同時に体感する浮遊感。
何が起こったのかまったく分からなかった。
でも、落ちていることだけは分かる。
「いやあああ……!」
あーしの身体は原付バイクと共に闇中を落ちていく。
周りは文字通りの真っ黒。
どれだけ深いかも分からない穴の中をあーしは原付バイクと一緒に回転しながら落ちていく。
あ、出口……!?
暗闇の中に一点だけ光が見える。
そして、あーしは光に吸い込まれるかのように近付いていって――。
バッシャーン!!!
目の前が真っ白に染まった次の瞬間、あーしは水の中にいた。
というか、水の中に落ちた。
「ぷはっ!?」
あーしはいくらか水を飲み込みながら、なんとか水面に顔を出す。
そこは深い森の中にできた湖だった。
「あ~、死ぬかと思った」
水深があーしの胸元くらいまでしかなくて助かった……。
むしろ、これより浅かったら落下死、深かったら溺死だったかもしらない。
「っていうか、ここはどこ?」
どうやらここは森の中にある湖らしい。
でも、あーしの知ってる森じゃない。
「木、でっか……あーし、小人にでもなった?」
不思議なことに周囲の木々はとにかく巨大だ。
屋久杉と同じくらいかそれよりも大きな巨木がそこら中に生えている。
でも、あーしが小人になったというわけではないらしい。
「魚は普通だ。見たことないやつだけど」
あーしの周囲を泳ぐ魚たちはあーしの知っている普通のサイズだった。
それにしても、すごい透明度。
魚たちの他にもそこの砂地や沈んだキャンプ道具まではっきりと――。
「って、あああ!バイク!」
当然、あーしの原付バイクも沈んでいた。
「これもうダメなやつ?っていうか、あーしだけで岸まで持ってける?ああ、相棒ぉぉぉ……!!」
長年といってもまだ二年ちょっとだけど。
でも、これに乗って毎週のようにキャンプをしていただけに、愛着は結構あった。
「……ピーピー煩いな。雛鳥か?」
突然、背後から女性の声がした。
まるで琴の音のようなうっとりとする声だった。
あーしは声にびっくりして振り返る。
すると、目の前に金色に輝く髪を持った全裸のお姉さんが水面に立っていた。
髪はまるで十二単のように水面を引きずるほど長く伸びている。
髪の毛のベールから露出する身体は雪のように真っ白で細く引き締まっている上に、出るところは出っ張っているというモデル体型。
そして、髪から飛び出す耳は人間のそれとは違って、横に長く三角形のような形をしていた。
「……えっと、ここに住んでいる妖怪?」
「お前、エルフに喧嘩を売るとはいい度胸してるな」
「え、エルフ……?」
エルフって、ファンタジーに出てくるあの……?
尖った耳を持っていて高身長、さらには不老不死なんていう設定がつけられる空想上の異人種。
もちろん空想上の存在だからあーしの世界にエルフが存在しているわけがない。
でも、今あーしの目の前にはそのエルフが目の前にいる。
「……もしかして、ここって異世界?」
こういうのって何て言うんだっけ?
そうそう、異世界転生だ。
最近、小説や漫画でよく見るやつ。
「いや、あり得ないんだけど。そもそも、あーしはトラックに轢かれた覚えなんてないんだけど」
「……さっきからわけの分からないことをゴチャゴチャと」
怒りのこもった声を発するエルフのお姉さんはあーしに向かって手の平を突き出す。
すると突然、お姉さんの手からまばゆい光が瞬く。
「うわっ!?」
視界が一瞬で光で埋め尽くされる。
同時に身体がビクッと痙攣した。
あれ……?
なんだか意識が……。
高熱に侵されているかのようにボーッとして、身体が動かせなくなった。
「お前、かかりが良いな」
お姉さんは不気味な笑みを浮かべながらその場で屈み込むと、あーしの髪を乱暴に掴み上げる。
「答えろ。お前は何者だ?」
「私は矢飼泊……十八歳……誕生日は六月二日の午前九時……現役バリバリな高校生です……」
口が勝手に動いて、質問に答えだす。
「特に必要ないことも答えてるけど、まあいいか。それで、高校生?何だそれは?」
「高校っていう学校に通う学生です……」
「学生?まだ理解できない。次、どうしてここに来た?何が目的だ?」
「ごめんなさい、答えられないです……だって、キャンプ場に向かってたら、いきなり穴みたいなところに落ちて、気付いたらここにいたんです……」
「穴?まさか時空の裂け目?確かにそれなら説明がつくな」
そう言うと、パチンと指を鳴らす。
直後、意識と身体が元に戻る。
「降る人、今回だけは見逃してやる。今すぐこの森から出ていけ」
「降る人って、あーしのこと?」
「お前以外に誰がいる」
「っていうか、降る人って何?」
お姉さんは大きなため息をついた。
「降るっていうのは、お前のように別時空から裂け目を通ってくる者たちのことを言うんだ」
「へえ……」
裂け目を「通って」くる。
元の世界で死んでから異世界へ行く異世界転生とはちょっと違うように聞こえる。
つまり、元の世界であーしは死んでないし、今すぐ戻れば何事もなかったかのように戻れるんじゃないだろうか。
「ねえ、お姉さん。この上にその裂け目っていうのがあると思うんだけど、どうやったらもう一回裂け目に入れるかな?」
「……残念だけど、一方通行だよ」
「え?」
「私の説明も悪かったね。降る人は裂け目を通ってくるんだ。文字通り、降ってくる形でね。つまり、こっちから裂け目に入ったとしても、裂け目が――穴が延々と上に続いてるだけだよ」
お姉さんの言葉を聞いて、自分が落ちてきたあの深い穴が頭を過った。
「じゃあ、あの穴を登っていかないと向こうの世界には帰れない感じ?」
「そういうことだ」
「……嘘でしょ?もう向こうの世界には帰れないわけ?」
向こうの世界には家族も友人もいる。
でも、こっちには頼れる人なんていない。
それにこの世界がどんな場所かも分らない。
世界の常識もあーしが知っているものとはきっと違う。
バサリ、バサリ――。
突然、複数の羽音のような音が泉に響き渡った。
「何?」
「この音はワイバーンだな」
あーしは耳を疑った。
ワイバーンというと、前足が翼になった空飛ぶトカゲ。
エルフがいるのなら、ワイバーンがいてもおかしくはないんだけど――。
「あれがワイバーン……すごい……」
ワイバーンはイメージ通りの翼の生えたトカゲだった。
そして、やっぱり大きい。
人間も簡単に鷲掴みにしてしまえそうだ。
そんなワイバーンが数十頭の群れを作って森を横切っていく。
現実離れした幻想的な風景。
でも、あーしにとってこの光景は――。
「こんな世界で生きてけるわけないじゃん……」
絶望的だった。
だってあーし、体育の成績はいつも「2」だもん。
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