第4話 大失敗


          ※










 翌日、薬草師見習いの競技会の日――。




 王宮の広間は華やかな装飾で彩られ、さまざまな薬草の香りが漂っている。参加者たちは、それぞれの技術を競い合うために自信に満ちた表情をしていた。




 アリスは白いブラウスに刺繍入りのエプロンを身につけ、手に薬草の入った籠を抱えて会場に入った。心の中で少し緊張しながらも、ランメルトからもらった花束のことを思い出し、勇気を奮い立たせた。






「絶対に成功させるんだから」




 小さく呟きながら、調合台に向かう。






 競技会の開始を告げる鐘が鳴り響き、参加者たちは一斉に調合を始めた。アリスも集中し、慣れた手つきで薬草をすり潰し、慎重に分量を計っていく。






「負けないわよ、アリス」




 デラニーはアリスの近くにやってくると、挑発的に笑った。






「ええ。私もよ」




 アリスが答えると、デラニーが机の端にあった乾燥させた葉に手がぶつかって床に落ちた。






「あら。ごめんなさい。私も少し緊張しているのかもね」




 デラニーは苦笑しながら薄緑色の葉を拾い上げた。






「見てよ。真剣なのは私たちだけじゃないみたい」




 デラニーに言われて周囲を見回せば、他のテーブルについている者も必死にメモを見ながら手を動かしている。






「そうね。お互いに頑張りましょう」






「ランメルト様の前で恥はかきたくないものね」




 デラニーに視線を戻すと、彼女はくすっと笑って自分のテーブルに戻っていった。






 アリスは再び調合に集中する。




 競技会が進む中、なんとなく違和感を覚えながらも限りある時間の中で止まるわけにもいかず調合を続けた。






「少し色が薄い気もするけれど……」




 水晶でできた小瓶は透明でありながらも、かすかな虹色の輝きを放っている。その中には薄青の液体が揺れていた。冷たく滑らかな小瓶に指先が当たると、わずかに鈴のように軽やか音が響いた。






「それでは、これから審査に入ります」




 やがて、完成した薬を審査員たちに提出する時間がやってきた。






 最後の仕上げは、その小瓶を手に持ち魔力を込めることで回復薬として仕上がる。魔力が弱くても調合のバランスさえよければいい薬ができるし、魔力が強ければ反対にバランスの悪さもカバーできる。






 ――いよいよ私の番!






 最後に審査員が目の前にやってきて、アリスは小瓶を握りしめて魔力を込めた。




 途端に小瓶からもくもくと虹色の雲が立ち上がり始める。






「はあっ? えっ、な、なんで!?」




 アリスは目を丸くして急いで小瓶に蓋をし、同じように唖然としている審査員と目を合わせて頬をひきつらせた。






 薬液は半分以上なくなっていた。あきらかに薬の調合を間違えたのだ。





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