君が「生きて」と言うのなら。
ねふてぃす
君が「生きて」と言うのなら。その1
『······大丈夫だよ。君が僕に「生きて」と言うのなら。』
ピッピッピッと、無機質な電子音が部屋の中を駆け巡っている。
「どうですか?体調は。」
心電図モニターを確認し、記録している看護師の女性が聞いてきた。仰向けになっている僕は看護師の方を見て答えた。
「何となくですけど、昨夜よりかは体調が良くなったと思います。」
昨夜、心電図モニターの値が異常値まで行き、死にかけたのだった。
「昨夜は、死にかけましたからね。まだ、僕はやり残したことがあるので生きることができて良かったです。」
それからほんの少しだけ間をおいて、こう続けた。
「以前から看護師さんには言ってますけど、僕は今死ぬ訳には行かないんです。彼女に、
「他には?」
「他には?別に他には何もありませんよ。」
看護師は含みを持った笑顔でこう言った。
「好きなんじゃないの?守りたいんじゃないの?」
「······。」
ほんとに、この人は。······幼い頃から僕を見ているだけあって鋭いな。
「······好きですし、守りたいですよ。でも、こんな身体じゃ守ることなんてできませんよ。」
幼い頃からそんなことは分かっていた。確かに僕は遥夏が好きだ。大人になってもずっと、ずっと好きでいたい。守りたい。でも、無理なんだ。僕にはもう時間がないから。
「······彼女には、言ったの?もうすぐ、死ぬかも知れないって。」
「言えるはずないじゃないですか!僕は知っているんです。遥夏だって、俺の事を好きということぐらい。だから、言えないんです。僕のせいで遥夏の人生を滅茶苦茶にしてしまうんじゃないかって。」
「そうか。でも、前に進まないとどうにもならないよ。このまま孤独なまま1人で死ぬか、大切な人に見守られて死ぬか。でも、大丈夫。君を孤独になんてしないからね。私がいるから。だけど、君はもう高校生だ。そこの判断は誤らないでね?」
じゃあ、といいながら看護師は病室を去っていった。
次の日
「お母様、実くんの寿命は長く持って残り三日と診断されました。これ以上は薬を投与したり手術したりしても伸ばすことは出来ません。」
空いている窓から冷たい風が頬に当たる。
いや、これは風じゃないな。お母さんの涙か。分かっていた。一昨日の、異常値検出の時点で分かっていたんだ。
「母さん、ごめんな。俺はもう大丈夫だから、泣かないでよ。小さい頃のように笑っていてよ。」
小さい頃から母さんは笑顔の絶えない人だった。母さんと結婚した父さんも母さんの笑顔に惹かれて結婚したと幼い頃に言っていた気がする。俺が、病気にならなければ、俺が生まれて来なければ良かったのかと考えた時もあった。
『「······僕は生まれてこなかった方が良かったの?」って!?実、そんなこと言うようになったの!?』
パチンと、頬を軽く叩かれた記憶が薄らと記憶に残っている。
「そうね。残り短い人生だものね。ここまで生きてくれたんだもの。でも、やっぱり······。」
しかし、涙は止まらない。母さんの涙を見ながら僕は考えた。遥夏は、僕のために泣いてくれるのかなって。
謝らないとな。きっと、怒られるだろう。そして、泣いてしまうだろう。でも、その気持ちをお墓に持っていくなんてことはしない。そんなことしたらご先祖さまにも怒られるし遥夏にも怒られるかもしれないしね。
「大丈夫だよ。母さん、僕は死ぬ運命を背負ってる。負けないように残りの人生精一杯生きてみるよ。だから、最後の息子の有志、見ててね。」
残り三日。後悔のないように過ごそう。遥夏も病室にもう少しでやってくるかな。
君が「生きて」と言うのなら。 ねふてぃす @Nephthys714
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