3-4
僕と小雀に割り当てられた席は、半分より後ろの真ん中あたりであった。
行われていたのは結婚式のようである。
しかし、それが不釣り合いだったのは、その結婚式が白いウェディングドレスとタキシードという洋装で行われていたことだ。しかも新郎も新婦も髪の毛が生えているのである。僕たちはこの神葬区画でスキンヘッドの者たちにしか会っていなかったし、この場にいる新郎と新婦を見守る者たちは僕と小雀以外はスキンヘッドであり、白い布を体に巻き付けているのである。
僕は目を離すことができなくなっていた。
その時だ。
大音量で何か音楽が流れてきた。耳が痛いほどである。体がむず痒くなるような低い音であり、座っているはずなのに倒されたり逆さまにされて思いっきり振り回されているような感覚に陥る。
吐きそうになる。
新郎と新婦を見ると麻袋を自分から被っているのが見えた。
そして、それがみるみる赤く染まっていき二人とも息苦しそうに麻袋をかきむしり始める。別に誰も抑えていないのだから自分で外せばいいのだが、外そうとはしない。外すという思考が頭から取り除かれているように見えた。
麻袋は完全に赤く染まり、そこから一滴、二滴と血がしたたりはじめた。すると突然、麻袋の中から吐しゃ物と大量の血液が水道の蛇口をひねったように出てきた。
白いウェディングドレスと白いタキシードも赤く染まって床に血の水たまりができる。
けれど。
誰も助けないのだ。
これが儀式だからなのか。
これはやらせなのか。
演出なのか。
僕と小雀だけが知らされていないだけなのか。
誰も動かないから、僕と小雀が動くわけにもいかない。下手に行動をして何かを邪魔してもいけない。
新郎と新婦が血の水たまりに倒れてもがき続けている。水面が揺れ、光によって白い輪や赤黒い波紋が生まれては消える。
新郎の爪は黒く汚れていた。いつの間にか首のあたりの皮膚が破けて、そこから肉が見えている。極めつけに新郎が爪を立てて自分の首の肉をほじくり、指を突き刺す。
血が噴き出す。
それと同時に天井から首に縄を括りつけられた裸の人形が十体以上落ちてきた。鈍い音と振動が伝わってくる。
いや人形ではない。
全裸の赤ん坊だった。
手足が意思を持って動いている。
また引き上げられて同時に落とされる。もちろん、鈍い音と振動が伝わってくる。
客席から笑い声と共に自然と手拍子が生まれ、それに合わせて何度も落下が行われると赤ん坊は手足や首を不自然な方向に曲げたまま動かなくなった。
役目を終えたのか、赤ん坊が天井に引き上げられていく。
客は何かを悟ったかのように、絶望を受け入れて逆に快感でも得たかのように静かになった。ただ、次の展開を待ち望み興奮していることは分かる。
僕は察した。
僕と小雀はこれを見てしまった。
ということは共有したのだ。
いや共有させられたのだ。
誰かが床を鳴らし始める。
次にすすり泣く声が聞こえる。
多くの人が立ち上がり叫び声をあげた。
鉈が新郎と新婦に向かって飛んだ。
五本、飛んだ。
新郎と新婦のふくらはぎに一本ずつ刺さり肉が裂けて血があふれ出す。残りの三本は床へと刺さった。
天井から縄で括りつけられた赤ん坊が落ちて来て、直ぐに引き上げられる。
一瞬だったが間違いなく見えた。
皆、両手両足が切断されていた。
新郎と新婦が何度もむせながら血を吐いて静かにゆっくりと立ち上がる。体をひきずるようにして奥へとはけていく。
僕たち以外のスタンディングオベーション。
ふと自分の足元を見た。
カーネーションが一輪あった。
尊い色をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます