ユーティス島に渡った冒険者たち

@osanpogakuha

マリア・スリーパ編 プロローグ「デコボココンビ再び」

ユーティス島後日談 マリア・スリーパ編



アルフレイム大陸の東部、ランドール地方の山岳部、全身に電雷をまとう巨鳥に二人の冒険者と一体のゴーレムが相対していた。巨鳥は大きな翼を羽ばたかせ、その冒険者たちを威嚇するように電雷をあたりに飛ばしている。巨鳥から離れたところに立つ小柄なタビットの冒険者は、飛ばされないように帽子を押さえ、杖を地面に突き立てている。しかし、その前に立ちはだかる大柄なリルドラケンの冒険者は、その体の半分を覆う盾を構えず、ただ腕を組み余裕の表情を浮かべている。

「ほう、サンダーバードよ、このワシが怖いのか。どれ、その力試してみようではないか。」

ニヤリと笑い、歓迎するように両手を開くを前に、飛ばされないように耐える小柄な冒険者は悪態をつく。

「ちょっと、サンダーバードは雷撃を使うのでしてよ。プリーストはいないのだから、少しぐらい気をつけなさい!」

「ハッハッハ、なに、この程度の相手、取るに足らないだろう。あの「雷鳴のジャック」にこやつは足元も及ばん。」

大柄な冒険者がチラリと後ろを見やる。

その隙に、サンダーバードは全身を震わせ、渾身の雷撃を大柄な冒険者に放つ。

耳をつんざくような雷鳴が轟く。

雷撃は大柄な冒険者に直撃し、爆発音と共に土煙が辺りを覆う。

呆れる小柄な冒険者。しかし、その表情に不安は見られない。

雷鳴によって辺りの音は全て吹き飛ばされた。

しかし、その静寂の中、快活な笑い声と共に土煙が開ける。そこには受けたはずのダメージを全く意に返さない冒険者の姿があった。

「ハッハッハ。なるほど、これは痺れるな。」

首をコキリとならす。

「それで、お前はこの程度なのか?」

サンダーバードは人族の言葉を理解しない。しかしその顔が驚きを放っているのは明らかだった。

意を決したサンダーバードは力強く羽ばたき高さをとった後、渾身の雷撃を余裕で耐え抜いた冒険者に狙いを定める。

「ほう、まだ来るか。その気概や良し。かかってくるがいい。」

大柄な冒険者はついにその大楯を構える。その盾は丸みを帯びた円盾で、2メートルはあろうその体の上半身を完全に覆う。

「はぁ、仕方がないわね。ゴーレム!何かあったら彼を守りなさい!」

命令を聞いた鋼鉄のゴーレムは、頷き少しその冒険者に寄るものの、それ以上のことはしない。当然である。その冒険者が攻撃を受けることに関して、何か起こる可能性は微塵もないのだから。

サンダーバードはその盾ごと冒険者を貫かんと急降下して突撃する。

その攻撃は、並大抵のものが喰らうと一撃で死に至るほどのものである。

しかし、盾を構えた冒険者は動かない。

先に放った雷撃のような突進が、遂に激突する。

爆音と共に衝撃波が広がり、盾を構えた冒険者の足元の地面がひび割れる。その衝撃波で後ろに立つ小柄な冒険者の体が宙に浮くが、なんとか杖にしがみつき飛ばされずに済んだ。

しかしそれだけであった。

構えられた大楯には少しの傷もつかず、冒険者が退くこともなかった。サンダーバードの一撃は完全に受け止められ、その体は宙に静止した。

「なかなか悪くない一撃であった。だが、それだけだ。我が師、「俊足のグラウコス」が託したこの盾を貫くには遠く及ばない。」

フン、と力を込め、その円盾の丸みを生かしてサンダーバードを宙に弾き飛ばす。

完全に勢いを殺され、体制を崩したサンダーバードは地に落ちないようにバランスをとるのに精いっぱいである。

「さて、こちらの出番だな。飛ばれていると少々面倒だ。やってくれるか?」

「ええ、言われなくてもね。そのくらい朝飯前よ。」

声をかけられた小柄な冒険者は、杖に魔力を込め、流れるように魔法を描く。

「私の実力を見せてあげるわ!穿て、〈エネルギー・ボルト〉!」

同時に放たれた3発の光の矢は、未だ体勢の整わぬサンダーバードの両翼を貫き、胸に穴をあけた。

ギャァァと悲鳴を上げながら、血をほとばしらせてサンダーバードは地面へと落ちてくる。

「あら、胸の1発は貫通しなかったのね。マナがもったいないから後はよろしく。」

「ああ、任された!」

大柄な冒険者は、その背中に生えた大きな翼を広げて、サンダーバードに向けて滑るように飛んでいく。

その右手にはいつの間にか青白い光を放つ肉厚で反りのある片刃の剣が握られていた。

「ハッハッハ、挑む相手を見誤ったようだな。ではさらばだ!」

サンダーバードが地に落ちるその瞬間、冒険者は素早く駆け抜け、刃がその体を抜けていく。

サンダーバードはその体を真っ二つにされ、沈黙した。



山を降りてきた冒険者たちとゴーレムを、麓の村の村長は暖かく迎えた。

「おお、よく戻られました。依頼が受理されたという知らせを受けた時には、たった二人で大丈夫なものかと心配しましたが、まさかその冒険者があの「鉄壁のスリーパ」様と「灰燼のマリア」様だったとは思いもしませんでした。」

「……前々から思っていたのだけど、なんで私の二つ名はこんなにもおどろおどろしいのかしらね。もっと素敵な名前で呼ばれたいのだけど。」

「いやいや、噂はかねがね聞いておりますよ。マリア様が得意とされる〈ライトニング〉を受けて灰にならない敵はいないとね。素晴らしい腕前だと存じております。」

「……まあ、褒められて悪い気はしませんね。」

「スリーパ様も、あのユーティス島に封印されていた魔剣を持った大魔神の攻撃を少しも引かずに受け切ったとのことではありませんか。」

「ハッハッハ、それがワシの役目ってものよ。」


和やかな雰囲気のなか、マリアはゴーレムにサンダーバードから剥ぎ取った素材を村長の前に置かせる。

「村長さん、こちらが依頼通り討伐したサンダーバードの素材です。討伐した証拠としてお持ちしました。サンダーバードの羽と爪は特に特別な武具や道具の素材として使われると聞いておりますので、是非役立てて下さい。」

サンダーバードの素材を見て、村長は目を丸くする。

「こんな貴重なものを頂いてもよろしいのですか?」

「ハッハッハ、なに、気にすることはない。このくらいのものならば、いつでも取ってきて届けようではないか。」

「ありがとうございます。この素材の価値にはとても届かないかもしれませんが、約束通り追加の報酬を支払わせていただきます。」

「もう、スリーパったら、調子いいこと言っちゃって。村長さん、追加の報酬ありがとうございます。ところで一つお尋ねしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「はて、なんでしょうか。」

「この村のあたりで、リルドラケンあるいはタビットの昔から続く、もしくは昔にあった氏族の名前か家紋をご存知ないでしょうか。」

「そうですね……。いや、申し訳ございませんがなんとも心当たりがありません。それがどうかされたのでしょうか。」

「いえ、たいしたことではないのですが、私、また彼スリーパも、その家系のルーツを探しているのです。共に家紋があったことは判明しているのですが、それ以上のことがまだわかっていないのです。」

「なるほど、そうですか。何かわかったらお知らせしましょう。それにしても、同じ目的を持ったもの同士がパーティを組んでいるなんて、何か運命を感じますね。」

「ご協力ありがとうございます。本当に何の因果でしょうね。」

「ああ、全くだな。本当にたまたま出会ったとは思えんよ、ワッハッハ。」



その日は村で一泊することとなった。急であったにも関わらず、村民たちはスリーパとマリアを労うために宴を開いてくれた。その宴では、スリーパとマリアのユーティス島での冒険譚に、村民は皆目を輝かせながら聞き入った。

翌日、追加の報酬を受け取ったスリーパとマリアは、村長と村民たちに見送られ、ハルシカ商協国への帰路に着く。帰りは村人から馬車を買い、それをゴーレムに引かせることにしたので歩かなくて済む。馬車といっても大きな荷車のようなものだが、行きに比べて随分と楽である。

「それにしても、なかなか見つかりませんわね。冒険を始めた頃は案内パパッと見つかるものだと思っていましたけど、そう上手くはいかないということでしょうかね。」

「そうだな、ワシの村の大爺さましか家紋があるということを知らなかったし、マリアもそんなところだったのだろう?案外残らないものなのかもしれないな。」

「そうですわね。ですが、それにしては気になりますわね。だって、みんな信じていなくても、伝説は残っているのですから。まさか、あなたの伝説と同じだとは思っていませんでしたが。」

「全くだ。世界が危機に瀕する時、同じ家紋を持つものが団結せねば、人族は再び暗黒の時代を迎えるだろうなんて、リルドラケンとタビットという全く異なる種族において、伝説が共通するなんてとても考えられん。」

「世界の危機が本当のことかどうかも、それがどれほどのことかもわかりませんが、私たちが体験したあのユーティス島での魔剣事件ほどのことが起こるとしたら、全くとんでもないことですからね。」

「ワシの村の皆は、所詮伝説だと取り合わなかったが、ワシは昔からそうは思えんでな。何か妙に現実味があって仕方がないのだ。」

「同感ですわ。すぐにそんな事態が訪れるとは思えないし、思いたくもありませんが、せめて家紋を持つものだけでも探し出したいですわね。」

「ああ。これでワシの探している家紋とマリアの探している家紋が違っていたら笑い話だがな、ハッハッハ。」

「もう、馬鹿なことを言って。でも、一番いいのは、この伝説がただの作り話で、世界の危機なんてものが訪れないことですけどね。」


ゴーレムが力強く引く馬車は、暖かな陽光の下を穏やかに進んでいく。蛮族の気配はない。安全にハルシカ商協国まで帰れそうだ。



二人がハルシカ商協国に帰る途中、一通の手紙が、二人の所属する冒険者ギルド支部〈ハルシカ中央ギルド〉に届く。それが二人の新たな冒険の始まりとなることに、二人はまだ気がついていない。

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